エスケイパー0505 02
やはり人海戦術でこられると、土方たちには分が悪い。早々に、庭やら建物内やらを駆け回る羽目になった。
銀時とほぼ背中合わせで隊士たちを迎撃していると、向かってくる隊士からするりと身をかわしざま、足を掛けて転ばせた銀時が、
「お、ココだココ」
突然、土方の腕を掴み、通りかかった座敷へと飛び込んだ。
「オイ!」
いきなりなにを、と銀時を咎めるよりも先に、座敷の中にいた隊士たちの姿に気づき、土方はビクリとした。限られた空間で多数の敵――今回ばかりはそう呼ぶしかないだろう――と対峙するのは、厄介だ。
そう思い、瞬時に緊張を漲らせたのだが、けれど隊士たちは銀時と土方の姿を見るなり、慌てたように座敷から駆け出して行ってしまった。
一体何事?、とあっけにとられながらそれを見送っていたら、
「――俺らが部屋に逃げ込んだ場合、部屋の外で待ち伏せるのはオッケーだけど、中に入ってくんのはダメ」
銀時が訳知り顔で説明する。
どんだけ事細かにルールを決めてるんだ、というか、いつからこんなくだらないゲームを企んでいたのか。想像しただけで頭が痛くなりそうだ。
「…つーか、だったら外で張られてんじゃねーか!入んなよ!」
「んー、でもまァ、一見の価値はあるかと」
そんなことを言い、銀時が土方の背後を指差す。怪訝もあらわに銀時が示す方を見やり、土方は――硬直した。
鴨居の上に、横断幕のように紙が張られている。そこには「土方副長おたんじょうびおめでとう」などと、下手くそな字が踊り、花紙で作られた花飾りが四辺を縁取っていた。
それだけでなく、他にも紙で作られた輪つなぎが室内を一周するように飾られていたり、風船が浮いていたり、と見ようによっては華やかな――けれど土方にとっては寒々しい光景が広がっている。
――ガキのお誕生会並みに手作り感満載な仕上がり
そう銀時は評し、想像した土方は思わず頭を抱えてしまったのだが、実際は想像を遥かに超えていた。
たしかに、こんな小さく可愛らしい紙飾りを作ったのが厳つい部下たちかと思うと、居た堪れないような、直視できないような気持ちになる。
祝いたい、と思ってくれているのだろう。それは土方も疑っていない。
そして、素直に言祝ぐのは気恥ずかしいのだろう、ということもわかる。受ける側の土方だって、そんなのは面映くて御免こうむりたいくらいだ。
だが、祝する気持ち――それの示し方に、問題がありすぎではないのか、コレは。
土方が言葉を失い顔を引きつらせていると、で、と銀時がその顔を覗き込んできた。
「どーよ、副長さん。ご感想は?」
「寒ィ」
全力でヒきながら答えると、銀時はだろうな、と笑った。
* * *
銀時曰く「お誕生会の刑」の会場を飛び出すと、やはり部屋の外で待ち構えていたらしい隊士たちの数は、両手に余るほどだった。それらを蹴散らして、再び建物内を駆ける。
既に結構な時間が経過しただろう。行く先々で、おめでとうございますー、だのと叫びながら向かってくる隊士たちは皆、必死だった。
必死な顔で土方を捕らえようとしている。
だが――どこか楽しげだった。
訳がわからないまま、このふざけたゲームに参加させられ、そのクリアを――今では結構本気で――目指していた土方も、しだいに馬鹿馬鹿しさに可笑しくなってきた。
「祝うならもっと質素に祝えやコラ」
隊士たちを笑いながらいなして、土方はふと気づいた。
このふざけたゲームやら先ほどの「お誕生会会場」の光景やらのおかげでか、もっと質素に祝え――などと、素直に思える自分がいる。誕生日などどうでもいい、と思っていたというのに。
自分の心境の変化に、だからか――と思い至る。
だからこんな、全力でふざける方向になったのだろう。
照れくささをごまかすためにも、そして、土方が嫌がるのも見越して。
――俺たちからのプレゼント?的な?
だからやはり、コレもプレゼントなのだろう――お気持ちだけで充分です、と固辞したくなるが。
だが――その気持ちが、今は少しばかり嬉しい、と素直に思えた。
死ね、とか、好きです、とか、どちらにせよ物騒なことを口にしながら、隊士たちが突進してくる。
投網を片腕で払い落とした銀時が嫌そうに顔をしかめた。
「副長さん、モテモテー」
あームカつく、と面白くなさげにこぼした銀時を、アホか、と鼻で笑う。
「嫉妬すんな、うぜェ」
「うぜェっておめーなァ」
「するだけ無駄だっつってんだ」
ぎゃあぎゃあと言い合いながら突き進む。
ようやく玄関が見える辺りまで達し、土方は内心ホッと安堵の息をついた。
だが、あと少しで外に出られるというところで、「――土方」再び銀時に腕を掴まれた。
「どうした?」
目を丸くした土方をよそに、銀時はすぐ近くの座敷へと飛び込んだ。中にいた隊士たちがわらわらと出て行く。それを見送って、銀時がぽつりと声を落とした。
「あと八分だけど、おめーはどうしてェ?」
唐突なセリフに、は?、と眉をひそめて見やれば、銀時が窺うような目を向けてくる。
「やっぱアイツらに祝ってほしいんじゃねーの?」
「はァ!?」
ここまで来ておいて何を今さら、と思わず土方が半眼になると、銀時は、いやさァ、と気弱そうな声をあげた。
「ここで俺が負けても、夜にゃおめーがウチに来れるようにしてくれるっつーしよ」
ぼそぼそと銀時が続けることには、もし銀時曰くの「ガキのお誕生会コース」となっても、夜には土方を解放して銀時との時間を持てることになっているらしい。
本当に今さらだが、この男との関係が隊内にだだ漏れなことを実感し、土方はまたしても居た堪れないような気持ちになる。
「おめーも知ってのとおり、ウチにゃあ金がねーからよォ」
満足にプレゼントも買ってやれねーし、と何やら情けない表情で殊勝なことを銀時がこぼす。
そういえば、とゲーム開始前にも銀時がなにやら言いよどんでいたことを思い出した。
今の言葉から察するに、恐らく銀時は、真選組が総出で土方を祝おうと――こんな内容だが――しているのを知って、尻込んだのだろう。金がないからプレゼントも買ってやれない――そんなことを、申し訳なく思っているのかもしれない。
「…アホか」
思わず深いため息をこぼしてしまったほど、アホだと思った。土方からすれば、そんなことか、と呆れるしかない。
本当に今さらだ。
銀時の懐具合も、何もかもが。
常に銀時が金に窮しているなんて、そんなこと、とうの昔に知っているし、納得尽くでそれでもこうして恋人として関係を続けてきているというのに、何を今さら。
大体にして、率先していたという沖田と近藤だって知っている。誕生日であり非番となっていた今日、その一日を土方が誰と過ごそうとしていたか。
知っていて、こんな真似を仕出かした。
それは、あの気恥ずかしくて仕方ない装飾込みで、このふざけたゲームそのものが、沖田をはじめとした隊士たちなりの、嫌がらせをこめた祝いだからだ。
それも、土方たちがクリアすることを前提にしてのものだろう。
――俺たちが全力で祝ってさしあげまさァ。
ふざけた方法を用いて全力で祝ってくれるというのなら、土方も全力で応じなければ、無粋だろう。
「あんなガキのお誕生会みてーなの、恥ずかしすぎてやってられっか」
だから、と今度は逆に土方が銀時の腕を掴んだ。
「――逃げんぞ」
ちらりと時計を見ると、残り時間はあと六分。
行くぞ、と促すと、ぽかんと土方を見ていた銀時が照れくさそうな笑みを浮かべた。掴んだ腕をぐいと引かれ、触れるだけの口づけを落とされる。
「続きはウチで、ってことで――そんじゃあ行きますか」
「愛の逃避行だったか?」
「そうそう」
先ほどの銀時のたわ言を受けて土方が返すと、銀時は楽しげに笑った。
ちらりと視線を交わして、タイミングを計る。障子を開け、廊下に飛び出し、群がる隊士たちを蹴散らすその足は、真っ直ぐに玄関へと向かう。
絶対ェクリアしてやろうじゃねーか、と玄関を目指して駆ける土方の背中に、副長おめでとうございますー!、と叫ぶ隊士たちの声がぶつかった。
遅くなりましたが土誕! おめでとーしろー!
(12/06/03)
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