志村店長の観察日誌
(金魂・1〜2話のあたり・土方出てきません)
閉店後、キャストも内勤も既に退勤し、クラブ万事屋には店長である新八とナンバーワンホストの金時だけが残っていた。
とはいえ、別段新八が金時を引き止めたという訳ではない。むしろ、金時がぐだぐだとこぼす愚痴めいた繰り言を聞き流しながら、なんで居るんだこの人早く帰ればいいのに──などと思っている。
それほどに、正直イライラしていた。
本日の売り上げ集計やら報告やら内勤が纏めた仕入れ等のチェックやらと、新八がこなす雑務は意外と多く、煩雑だ。幾つもの情報を脳内で照らし合わせたりと頭を使うから、できれば雑音など入れたくない。
だというのに、事務所のパソコンに向かい新八が入力作業をしているその傍らで、金時はずーっとくだを巻いているのだ。そりゃもうイライラもする。
確かに今日、出勤時から物凄く不穏な空気を放っていた金時の姿に、新八は嫌な予感を覚えていた。
金時がクラブ万事屋のオーナーである神楽からひとりの男を押し付けられて、数日が経っている。どこか他人を寄せつけたがらない──仕事中は別人のようだ、と新八はいつも思う──金時のことだから、遅かれ早かれ一度は爆発するだろうと思っていた。こうなることが目に見えていたのだ。
仕事中はさすがナンバーワン、というべき態度を貫き、今日も今日とて客を楽しませていたのだが、その仮面は現在すっかり剥がれ落ちている。
だが、それは致し方ないにしても新八に全ての八つ当たりが向けられるのだけは解せない、否、勘弁してもらいたい。
そんなうんざりとした空気を漂わせている新八など気にとめるでもなく、金時は押し付けられ、面倒を見ている男──土方の様子をアレやコレやと言い連ねている。
「てかさ、普通知らねェ場所に居たら──まァ最初は警戒とかすっかもしんねーけどよ、でも慣れりゃちょっとは興味湧かね?ナニがあるかなーとか、探検したくなんね?」
「それは人それぞれじゃないですか?」
「なれよ!そこはオラワクワクすっぞ!の精神で冒険の旅に出ろよ!だって男の子だもん!」
聞いて欲しいだけなのかと黙って聞いてれば「ちょっとオイ新八、聞いてんのお前!?」と絡まれ、ならばと口を挟めば挟んだで、さらに不満を連ねる金時に、苛立ちが募る。正直、さっさと帰って欲しい。
「相変わらずボーッとしてるしよォ、口開きゃ「捨ててくれて構わない」とか、なにソレ!?」
「そのまんまの意味だと思いますけど?」
「捨てろって!?できるかボケ!!んなことしたら俺、すげーヒデェ人間っぽいじゃん!?神楽に殺されそうじゃん!?」
てかぜってェ殺されるわ!などと続ける金時に、新八はおや?と内心首をかしげた。
できる訳がない、という答えは予想どおりだが、なんだか新八が思ったよりもどこか焦っているような──言い訳めいた響きを感じる。
ちらりと窺うように視線を向けると、金時は不貞腐れたように口を尖らせていた。
「つーかまずメシ食えっつーの!フラフラしてるくせしてよォ、こっちが作ってるってーのに、ほっとんど残すってどーいうこと!?不味い?、って聞いてもそうじゃねェっつーしよォ!」
「食べたくないんじゃないんですか?」
「でも食わなきゃ体もたねーだろ。ただでさえアイツ、風邪治ってねェらしいしよォ」
金時が深くため息をつき、金髪を掻き回す。その姿に、新八は察した。察して──呆れるしかない。
ならばさっさと帰ればいい。風邪ひきの病人を家にひとり残してきているなら、なおさらだ。
先ほどから生じていた苛立ちに、ほんの少しの呆れやら微笑ましさやらが混じり、新八は──
「――なら、僕が預かりましょうか?」
そんな意地の悪いことを言ってしまった。
新八の言葉に金時が、は?と目を丸くする。予想どおりのその顔を見返し、新八はにっこりと微笑んでみせた。
「ですから、僕が預かりましょうか、土方さん」
「…え…いや、でも神楽が…」
などとどこか困ったように口ごもる金時の姿に少しだけ溜飲がさがったが、新八はここぞとばかりに言葉を重ねた。
「神楽ちゃんは、金さんの好きにしていい、って言ってたじゃないですか」
「あー…でもホレ、人前に出すなとかなんとか――」
「僕もあの場にいたんだから、僕自身は大丈夫でしょう? あとは金さんの家から人目につかないように僕の家にお連れすればいいだけで。世話役が僕に代わったところで、神楽ちゃんは気にしないと思いますけど?」
最後のひと言は嘘だった。
神楽は最初から、金時に彼を預けたのだ。そこにどんな理由があるのかはわからないが、金時でなければ駄目なのだ。
そして金時の方も、神楽を理由にしているだけだ。情が移ったのかわからないが、土方を捨てたり放置したり、ということは金時の意思としてできないのだろう。少なくとも土方を疎んでいるような気配は微塵も感じられない。
今金時を占めているのは、恐らくは困惑だ。
食が進まないという土方が心配なのだろう。けれどどうしていいかわからなくて、困り果てている。もしかしたら「神楽に無理矢理押しつけられた」手前、心配だとかそんなことを素直に口にしたり、新八に相談できないのかもしれない。
そんなある意味不器用な部分が微笑ましく思えた。つい金時の負けず嫌いを煽るようなことを言ったのは、微笑ましいもののそれで八つ当たり同然に巻き込まれるのは御免だ、という思いも込めてのものだが。
「…俺よりおめーの方が上手いこと面倒見れるって?」
しばらくして金時は低く不気味な声を落とすと、冗談じゃねーぞ!、とソファから立ち上がった。
「舐めんじゃねェ、俺にだってそんくらいできらァ! やってやるわ、なにがなんでもアイツにメシ食わしてみせるわボケェ!」
見てろこのケツアゴメガネ!などという失礼な捨てゼリフを残し、金時が事務所を飛び出して行く。
狙いどおり負けん気を遺憾なく発揮させてようやく消えた姿に、どこのガキですか──と新八はため息をこぼし、作業を再開させた。
* * *
翌日、金時は前日とは打って変わってご機嫌な顔で出勤してきた。
それはそれで嫌な予感がして頬を引きつらせた新八を見るなり「食った!!」と弾んだ声をあげる。
「もー、塩から醤油からケチャップからマヨネーズからなにからありったけのモン並べて、好きにしていいぞ、っつったら、マヨぶっかけて全部食ったぜアイツ!!」
正直アレはドン引いたけどな!!などと言いながらも、金時の顔はどこからどう見ても嬉しそうにデレついたもので、新八は「それはよかったですね」と棒読みの声で返すことしかできなかった。
僕は今のアンタにドン引きです――とは、さすがに言えなかった。
意外と苦労人な志村店長
(13/04/20 clap up)
(14/09/25 改訂)
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