その詞も、すべてが



『汝(名前)は、この(名前)を妻(夫)とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻(夫)を想い、妻(夫)のみに添うことを神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?』



「――んだ、こりゃあ」

訪れた万事屋のテーブルの上、なにげなく目を向けた紙には、よく耳にするものの自分にもこの家の主にも縁遠い言葉が書き付けられている。

思わず紙を手に取り頓狂な声をあげたら、茶を持ってきた銀時はどした?、と首をかしげて土方の手許を覗き込んだ。

「あー、この前の仕事で使ったヤツ」
「どんな仕事だよ。まさかエセ神父にでもなったんじゃねーだろーな」
「すっげ、土方君ってエスパー?」

わざとらしく驚いてみせる銀時をオイ、と睨めつけるが、本人はひらりと手を振ると、気にした素振りもなくテーブルに湯のみを置く。

「ババアの知り合いのガキによ、金もねーのに結婚してェってのがいてな。金ァねーけど、それなりに本物っぽくしてェっつーから、ひと肌脱いでやったってワケ」
「本物っぽく、っつったって、限度があるだろーが」
「いいんだって。本人たちも承知でやったんだからよ。ドレスだって、近所のおばちゃんたちが手縫いで繕ったんだぜ」

それでも嬉しそーだったぜー、とソファに座ると銀時はぽんぽん、と自分の隣を叩いた。

促され、渋々そこに腰掛けると、途端銀時の腕に抱きこまれる。

「本人たちがいいんなら、それでいいんだって」

そんなもんだろうか――土方が内心首をひねっていると、

「汝、土方十四郎は、この坂田銀時を夫とし、」

唐突に銀時が宣詞を読み上げ、土方は驚いて隣の銀髪を見やった。

「なに勝手にてめーが夫になってんだよ」

土方の非難をまあまあ、などと流し、エセ神父が飄々と宣誓の詞を述べていく。

仕方なしにそれを聞きながら紙に書かれた文面を目で追い、その一文に眉をひそめたとき、銀時が土方の顔を覗き込むようにして、その一節を読み上げた。

「――死が二人を分かつとも」

勝手に変更された誓詞に土方が目を瞠る。

「愛を誓い、銀さんを想い、銀さんのみに添うことを神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますかー?」
「――なんだそりゃあ、悪魔との契約かなんかか?」
「いいから誓えよコンチクショー」

呆れ、半眼になる土方に、銀時が口を尖らせる。バカバカしい、と土方は吐き捨てた。

「んなもんになんの意味があんだよ」
「だから気持ちの問題だって言ってんだろー。もっとこう、盛り上がってこうぜー、気持ち的に。キャー銀さん素敵ー、とか、それってプロポーズぅ?、とか、ときめいてこいよ!」
「ときめかねェよ!」
「いいから誓えェェェ!」

駄々をこねるように言葉をねだる銀時を、なんなんだ、と呆れた思いで見やる。
まさか戯れとはいえ夫婦の誓いを交わしたいとでもいうのか。

その程度でこの男が納得するなら、乗ってやってもいいか、とは思う。だが、

――死が二人を分かつとも――

誓えるはずもない詞に、あのなァ、と土方はため息をついた。

「間違いなく、先におっ死ぬのは俺の方だろーよ」
「多分なァ」

お前無謀なトコあっからなァ、と銀時がしみじみこぼす。無謀言うな、と土方は顔をしかめた。

――遺るのは、お前なんだよ。

いつか訪れる最期の――それまでの時間をくれてやる、とは言ったが、そのあとのことまで約束した覚えはない。

「死んだあとまで縛るつもりはねーよ。――忘れろ。さっさと忘れて、へらへら笑ってろ、おめーは」

いつか自分が息絶えたあとも、変わらず笑っていてくれれば、それだけでいい。

そう土方が願い、告げた言葉は、やだ、とあっさり拒否された。ひくりと土方の頬がひきつる。

「やだ、じゃねーよ、ガキかてめーは」
「いいじゃねェか、未練タラタラ覚えてたってよ。つーか忘れられるワケねーだろ。むしろ思い出しておかずにするっつの」
「アホか」

ふざけたことを言う銀時を睨みつける。銀時はへらりと笑ってその目を受け流すと、土方の前髪を掻きあげ、あらわれた額に唇を寄せた。

こめかみの少し上――以前、怪我をした箇所だ。

今でも触れればその跡がわかるそこに、ゆっくりと口づけられる。

「いいんだって、俺は今もこの先も、おめーしか欲しくねェんだから。死んだからって手離してやる気はねーよ」
「アホか。そんなの…」

辛いだけではないのか――想像して、土方の眉根が寄る。

そんなのは駄目だ、といっそ泣き喚いてしまいたい衝動を抑えていると、いいんだって、と銀時の暢気な声が耳をくすぐった。

「言ったろ、全部承知で惚れてるってよ。俺がいいっつってんだから、いいんだよ」

だから、な?、と銀時は土方を覗き込み、甘えるように詞を求める。
土方は目を伏せると、渋々口を開いた。

「――分かつまで、なら、誓ってやる」
「うっわー、どこまでも頑固な、お前」

呆れたように土方を眺めた銀時は、ややしてしょーがねェな、と苦笑を浮かべた。

「じゃあ以下同文で銀さんも誓います、ってことで、契約成立ー」

夫婦夫婦ー、と嬉しそうに笑う銀時に、こんなひと言で――と呆れたが、言ったところで無駄だろう。土方は先ほどの銀時の言葉を思い出し、諦めの息をこぼした。

――本人たちがいいんなら、それでいいんだって。

そういう、ことなのだろう。

もとより、ここには神に仕える聖職者などいやしない。
誓うなら、それは己自身にと、相手である目の前の男に、だ。

きっと、エセ神父のもと婚姻を誓った者たちも、それをわかっていたのだろう。

ならば――誓ってやろうじゃないか。

誓いのキッス、などとふざけたことを言いながら唇を寄せる銀時の口づけを受けながら、諦観にも似た思いでひっそりと心に誓う。

――死が二人を分かつとも――

全部承知で――と、それでも手を伸ばしてくれた、その覚悟の深さを改めて思い知り、土方も覚悟を決めた。

(10/11/24)

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