ラプソディア 02


小さな手で銀時を先導する土方が向かっているのは、どうやら自室のようだ。

「幾つくれーなんだろーな、今のおめー」
「さァな。十かそこらじゃねーのか」

そんな他愛のない話をしながら土方の自室に通される。

ふたりきりが気まずかったり気恥ずかしかったり、という、最近では縁遠くなった感覚にどうしていいか戸惑っていると、しばらくして山崎が若い隊士を伴ってやって来た。

籠に山ほど積まれた玉ねぎとまな板と包丁、そして「あとで使いますんで、切ったのこっちに入れてください」と大きな鍋も持って来たところを見るに、脳ミソプリンとはいえ山崎は優秀というか気が回るのだろう。

もっとも、包丁を土方に示し、

「その体で刀持つのは大変でしょうけど、コレなら扱えますよね?いざとなったらためらわずズブリですよ、副長」

などと恐ろしいことを残していったあたり、褒める気など全く起きないが。

山崎たちが退室し、再びふたりきりになった気まずさを吹き飛ばすように銀時はよっし!と大声を張り上げた。

「しゃーねェ!出血大サービスだ、ガンッガンに泣いてやらァ!」
「…出血…」

呟いた土方がまな板の上の包丁へちらりと視線を向ける。

「え、ソッチ!?ソッチにしちゃう!?」
「その方が手っ取り早──」
「ノーーーン!落ち着けェェ土方落ち着けェェェ!」
「…いっそ尺って飲んじまえば早ェのか…」

何かが吹っ切れたのかあるいはブチ切れたのか、土方はそんなことを言う──子供の姿で。

「…勘弁しろって…」

銀時は両手で頭を抱え、深々とため息をこぼした。

「さすがにガキ相手に勃つとも思わねェっつーか、勃ったら勃ったでヤベェし俺もなんかショックだし、むしろ!」

実際、直接的な刺激を受ければ恐らく反応してしまうだろう。
だがそうなったらきっと、銀時のなかに苦々しいものが残ることになる。

今の──子供の姿の土方に対して、いつもの土方に抱いているような邪な欲は、銀時のなかに生じていない。

それどころか、中味が大人のままだとわかっていても、ただただ可愛がり甘やかし、護ってやりたい、とすら思うのだ。

それはきっと、土方の生い立ちや過去を知っているから余計になのだろう。

土方はこの外見のときくらいに親を亡くし、異母兄弟のもとに引き取られ、そして──兄の事件があったのだ。それを思えば庇護欲が湧いても仕方ないだろう。

そんな相手──しかも外見は丸っきりの子供だ──に口淫させたり、ましてやセックスなど、銀時の方が堪えられそうにない。

「ホント、マジ無理だから」

マジ勘弁してくれ、と銀時が力なくこぼしたら、土方は渋々引き下がった。

土方の気が変わらないうちに玉ねぎをみじん切りにしていく。
その手際の良さにか、土方がおお、などと目を丸くして覗き込んでくる。

そんな反応が可愛くて、張り切って包丁を動かせばすぐにボロボロと涙がこぼれ出した。そのたびに手を止めて、土方が舐めるに任せる。

それを繰り返して早数十分。山ほどあった玉ねぎは底をつき、大量のみじん切りが出来上がったがしかし涙では沖田の言う「効き目の強さ」は弱いようで、土方の姿は元に戻らなかった。

土方が自分の小さな両手を見下ろす。次いでくるりと体を確認すると、ため息をこぼした。そこにはあきらかに落胆の色が混じっている。

「悪りィ、玉ねぎ追加すんのちょい待って。休憩させて休憩」

銀時が玉ねぎの刺激で痛い両目を手で覆っていると、土方がずい、と膝でにじってきた気配がした。

肩に小さな両手が置かれ、子供特有の高い体温が近づいてくる。

「…ガキ相手に勃たねェのは仕方ねェ、けど、これくらい、なら、我慢できるだろ」

歯切れ悪く呟いたかと思うと、ちゅ、と音がして唇にあたたかいものが触れた。銀時は一瞬、何が起きたのかわからなくて唖然として固まってしまった。

小さな舌がちろりと唇を舐め、口を開けろと促す。

その感触で我に返り、銀時は思わず「うぉ!?」と土方の体を押しやってしまった。

突然のことにびっくりしたのか、大きく目を丸く見開いた土方が、次いで眉根を寄せ、きゅっと唇を引き結ぶ。

──あ、やべ

傷つけた。そうはっきりとわかる姿に銀時は──ブチ切れた。

「っだァァァもォォォォ!」

くっそ!と半ば自棄っぱちで土方を畳の上に押し倒す。

「元に戻ったら覚えてろよテメー!」

つーかぜってェ戻す、戻してエロいことする、と銀時が宣言すると、きょとと銀時を見上げていた土方が、ハッと何かに気づいたように手を動かし出した。

いきなり自分の帯を解き、着物も肌蹴てしまう。

「なにしてんのお前ェェエエエ!」
「あ?着たまんま戻ったら豪いことになんだろうが」

ほとんど裸になった土方の両手が銀時の首に回される。その背中を抱き上げるようにしながら、口づけた。

小さい口だ。銀時が舌を滑り込ませれば、それだけで一杯になるような口内で、小さい舌が縮こまっている。それをぺろりと舐め上げると、やはり罪悪感のような後ろめたさで胸がつかえた。

どうしたって見た目が子供なのだから、物凄くいけないことをしているような気になるのは、仕方ない──そう自分に言い訳して、舌を絡め、唾液を交わす。

とにかく今はさっさと土方を元の姿に戻してしまわないと、銀時がきついのだ──色々と。

ん、と鼻からあえかな息をもらし、土方がこくこくと唾液を飲み込む。

いつも交わしているような深く激しい口づけではないけれど、何度も何度も舌を絡め、唾液を注いだ。

変化の訪れは唐突だった。

何度目になるのか、こくりと土方の喉が動いたとき、土方の半身を抱えていた腕に重みが増した。

本人もわかったのだろう。銀時の体を押しやって半身を起こすと、自分の手や体を見回した。

「戻った…!」

ほうっと安堵の息が深々と落とされる。ほぼ裸という状態のままで。

「おー、おめっとさん」
「悪かったな、万事屋。おめーにも手間ァかけさせ──」

土方が言い終わるより先に、遠慮なく再び押し倒した。

土方から、へ?と珍しくも間の抜けた声が聞こえたが、無視して自分とほとんど変わらないサイズの体を撫で回す。

今度は銀時の口から安堵の息がこぼれた。

「そうそう、コレコレ。このサイズだよ、なんかちょっと懐かしいくらいなんだけど」
「オイ、万事屋…おま…」
「コレで安心してエロいことできるわー、色々エロエロと」

顔を引きつらせる土方ににんまりと笑みを返し、銀時は唇を重ねた。

先ほどとはうってかわって、貪るみたいな口づけを仕掛ける。

結構きつかったのだ、天使みたいな子供相手にべろちゅーをかます、などという真似をするのは。

そういう趣味の人間なら天国のような状況だろうが、銀時にはそんな趣味はない。
なけなしの良心の呵責やら罪悪感やらでただただ苦しかった。

だから──という意趣返しのつもりはないけれど、せめて今の土方の痴態で早めに上書きしたい、とは思う。

「ん…、んぅ」

舌を絡め取り、表面どうしを擦り合わせ、口内の感じるところを尖らせた舌先で舐め上げる。

角度を変え、わずかに唇が離れると土方が待て、と制止の声をあげた。

「ちょ、万事屋待てって!」
「ムーリーでーす」
「待てっつの!おめーも気づいてんだろーがァ!!」

アレぇぇ!と土方が銀時の背中を叩きながら指さしたのは、廊下側の障子で、銀時は内心忌々しさに舌打ちした。

障子の向こうで何人もの隊士たちが息を呑んで聞き耳を立てていることは、銀時も疾うに気づいていた。妙に禍々しい気配がひとり分あるが、山崎あたりだろうと冷静に察してもいる。

だが、そんなものより、目の前のご馳走──ほぼ裸の土方だ。

じたばたともがく土方の体を抱き込んで、むちゅ、と首筋に唇を落とす。

「まァまァ、ギャラリーなんぞ気にしてねーでコッチ集中しろって」
「できるかァァァ!!」

アホかァァァ!と土方が銀時の髪を思い切り引っ張る。痛ェって!と抗議の声をあげて──銀時はため息をついた。

「──だそうだデバガメ共ー。おめーらの副長サンは見られて興奮する趣味はねェってよー」

気持ち障子の方へと首を曲げて、そこに居る者たちへと声をかける。

「ってワケで、今すぐ全員消えろ。5秒以内に消えなきゃあ俺が消すぞ」

この世から──と殺気を滲ませ、半ば以上本気で凄んだ。

銀時としてはギャラリーが居ようが居まいがさっさと進めたい気持ちが強いのだが、土方の色っぽい姿や声を提供してやるつもりは欠片もない。

だからさっさと消え失せろ──と脅しをかけたのだが、

「かくなる上は」
「死なばもろとも」

などという不穏なセリフが聞こえてきたかと思った次の瞬間にはスパーンと障子が開けられた。

「万事屋覚悟ォォォ!」
「副長を護れー!!」

うおおおお、と野太い叫び声と共に隊士たちが一斉に室内に雪崩れ込んでくる──銀時に向かって。

「ぎゃあああ!キモイわァァアア!」

飛び掛ってきたムサ苦しい集団に銀時は悲鳴じみた叫びをあげた。あられもない土方の姿を隠すように背中に庇う。

「土方てめ、服着ろ服!」

途端、「副長ォォォ!ご無事ですかァァァ!!」などという隊士たちと押し合いへし合いのせめぎ合いになる。

どんだけ土方大事の集団なのか。中には万事屋許すまじ、と刀に手をかけようとしている者も居る。

「うっせェェェ!せっかくのいいトコ邪魔しやがってェェェ!テメーら全員死にやがれェェェ!!」
「お前が死ねェェェ!」

死ね、だの、殺す、だのぎゃあぎゃあと喧しい喚き声がひしめく室内に、

「テメーらァァア!暴れんなら外でやりやがれェェェ!!」

全員切腹させんぞォォォ!という土方の怒号が響き渡った。

見れば誰よりも先に抜刀しているのはほぼ裸のままの土方で──全員色んな意味でその場にぶっ倒れた。



その後、大人に戻った土方は良かった良かったと喜ぶ隊士たちに囲まれてしまい、何故かそのまま祝いの宴へと突入し、結局、銀時が土方と色々エロエロできたのは、翌日の夜になってからだった。

PCサイト拾萬打リク「真選組の人々と銀さんの話」
(13/04/28)



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