恋の罠ワナ
いやもうホント、なんでこんなことになっているんだ――。
直視できない――否、したくない現状にきつく目を瞑り、土方は内心困惑の息を落とした。
土方は今日、非番だった。
丸一日完全に休みというのはかなり久し振りのことで、それゆえに浮かれていた――という訳ではないが、どこか心が軽やかだったのは否めない。
否、昼前に屯所を出て、なじみの定食屋に入ったときまでは確かに機嫌が良かったかもしれない。さらに言うなら、頼んだカツ丼に持参のマヨネーズをたっぷりと掛け、さて食べようかと箸を手にしたそのときまでは、ものすごく機嫌が良かっただろうと思う。
だが、
「オイオイオーイ、これから人がメシ食おうってときに、横で犬のエサびちゃびちゃ食われちゃたまんねーんですけどォ。こっちの食欲激減するんですけどォ。アレ、それって営業妨害じゃね?」
人を馬鹿にしているとはっきりわかる口調で、あきらかに喧嘩を売っているとしか思えない内容を投げつけられた瞬間、全てが台無しになった。機嫌が一気に急降下する。ピキ、とこめかみが引きつったのが自分でもわかるほどだ。
「あァ?んだとコラ」
怒気もあらわに声の方を睨めば、予想通り好き放題にはね散らかした銀色の天然パーマが視界に入った。空席ひとつ挟んで、同じくカウンターに座っているその男には、見覚えがある。
否、見覚えがある、などという穏やかで可愛げのある間柄ではない。銀髪天パの男――坂田銀時とは、初対面で斬りつけて以降、微妙な腐れ縁めいた関係が続いていた。
とはいっても、親しい訳ではなく、むしろ反対方向にベクトルは向いているだろう。何かにつけ彼や彼の関係者と関わりが生じては、そのたびにくだらない諍いが勃発するのだ。個々間のみならず、土方の属する真選組と銀時の営む万事屋とで対立することも珍しくはない。
銀時の方も土方が気に食わないのだろう。顔を合わせるたびに、なんやかやといちゃもんをつけてくる――今のように。
今までのあれやこれやを思い返し、土方がムッとしていると、カキョ、という軽い音がした。なんだと見れば、銀時が小豆の缶詰を開け、それを丼飯に掛けはじめる。
白米の上に艶々と光る小豆が乗せられるのを土方は呆然と見つめ――しだいにふつふつと怒りが湧き起こった。
なんでこんなけったいな食い方をしている男に、味覚のことをとやかく言われなければならないのか。
「つーか人のこと言えんかコラ。なんだそのふざけた食い方はよ。白米に謝れ。腹かっさばいて謝れ」
「はァ!?んだとコノ。犬のエサ食ってるような奴がなに言ってんだ。つーかおめーこそ白米に謝れや。謝罪会見開いて全世界に向けて謝れや」
「んだとコラ」
それが開戦のゴングとなった――のだろう。
互いの飯を貶しあいながら食事を済ませると、顔も見たくない、とばかりに早々に店を出た。だというのに、示し合わせた訳でもなく、いつぞやと同じように行く先々でかち合ってしまう。
そうなれば、張り合うようにくだらない勝負へと雪崩れ込むのは必定だ。
サウナでの耐久レースはもちろんのこと、遊戯場にあった卓球で全力のラリーを繰り広げ、しまいには卓球台を破壊してしまった。
ふたり揃って追い出されるように健康ランドを出て、特に行く先も決めず歩いていたというのに、進む方向が同じというだけで意地を張って足が早まり、それがしだいに競歩を経て全力疾走での競争へと変貌する。
いつのまにか町のはずれにまで達してしまい、「こっちに用はねェんだよ!」「俺だってねェよ!」などと喚き合いながら折り返して賑わう界隈まで戻ってくるに至ると、さすがに馬鹿馬鹿しさが込みあげた。
銀時も同じようなことを思ったのだろう、
「も、埒があかねェ。こうなりゃここできっちりカタつけようぜ」
ゼエゼエと肩で息をしながら、すぐ横に垂れている布を指し示す。
あ?とそちらに目を向ければ、それは飲み屋の暖簾だった。まだ夕刻だというのに、既に店は開いているらしい。
――ここできっちりカタつけようぜ。
銀時のその言葉は、呑み比べで勝負を決しよう、ということだろう。面白ェ、と土方はその勝負に乗ることにした。
「上等だ、精々あとで吠え面かきやがれ」
「おめーがな」
「いや、おめーがな」
お前がお前が、などと言い合いながら、土方は銀時とともにその暖簾をくぐった。
それから数時間、カウンター席に並んで座り、どれだけの量を空けたのか。
――いったいなにやってんだ。
最初の定食屋から感じていた虚しさがふうと思考の表面に浮上し、土方は内心ため息をこぼした。
せっかくの休みがこんなくだらないことで潰れた、ということが、ではない。こんなくだらないこと、にしかならない自分たちが、不毛で遣る瀬無い。
何故、こんな風に喧嘩じみた遣り取りしかできないのだろう――銀時と顔を合わせるたびに、こんな子供じみたくだらない張り合いになってしまう現状が、とてつもなく虚しかった。
せっかく、こうして飲み屋でふたり、隣り合わせているというのに、交わしている会話といえば、互いに馬鹿にし、罵る言葉ばかりだ。
自分のことは棚に上げて、銀時の態度を鑑みると、気持ちがふさいでいく。
そんなに鼻につくほど嫌いだというのなら、いっそ土方のことなど放っておけばいいだろうに。突っかかって難癖つけずにはいられないほど、憎憎しく思われているのか――改めて実感し、土方は胃の辺りをぎゅう、と握り締められたかのような痛みを覚えた。普通、こういうときに痛むのは胸なんじゃないのか、と自嘲気味に思う。
別段、誰からも好かれたい、などとたわけたことは思っていない。むしろ、大半の人からは嫌われているだろう自覚もある。
だが、それでもやはり――好いた相手からこうまで毛嫌いされているのを思い知るのは、心が潰れそうなほどに痛かった。
なんでこんな男を好きになってしまったのか――土方自身にもわからないうちに芽生えていた感情は、自覚したと同時に絶望を叩きつけた。男の自分が男を好きになってしまったというだけでも笑止の至りだというのに、それがよりによって常にいがみ合っている銀時だなんて。
確かに、出会った当初はその常にふざけただらしない言動が腹立たしかったが、銀時のことを知れば知るほど、内心好ましく思っていた。筋の通った男だと認め、その強さに惹かれてもいたが――それがまさか恋情に変わるなど、思いもしなかった方向に転がると、まるで自分自身に裏切られたかのような、暗澹とした気持ちに襲われた。
好きだとはいえ、だからといってどうこうしたいとまでは思っていない。けれど、こんな想いを抱いていることが銀時に知られたら、と考えるだけで血の気が引く思いだった。
ただでさえ、顔を合わせるたびに罵り合うような間柄だ。男同士な上、そんな相手に惚れられていると知ったら、銀時はきっと嫌悪もあらわに土方を見るだろう。知られていない今ですら、こうして絡んでくるのだ。
それを想像すると恐怖で身が竦むが、それでも嫌いになれない自分が、どうしようもなく愚かで惨めに思えた。
もういい、と、飲みほしたグラスをタン、とカウンターに置く。
銀時はきっと、敵前逃亡だのなんだのと馬鹿にするだろうが、こんな惨めな空気をこれ以上味わうよりはましだろう。
くだらない戯れ事にはこれ以上付き合っていられない、という素振りで土方が席を立とうとしたそのとき、
「旦那方、その辺にしといちゃどうだい?」
店の親父からやんわりとたしなめられた。
この前みたいに暴れられちゃあ敵わないよ――親父が困ったような笑みを銀時に向ける。どうやら銀時は以前にもこの店でひと悶着起こしたことがあるらしい。
いや、この前のアレはさァ、などと銀時が言い訳めいたことを並べ立てる。その隙に、渡りに船とばかりに土方は幾分多めの紙幣をカウンターに置いた。
「釣りはいらねェ」
そう言い席を立つと銀時が目を丸くして土方を見上げてきたが、それを無視して店を出る。
サア、と吹いた未だ生ぬるい風は、胸の内のもやもやとした感情を鎮めてくれそうにはなかったが、それでも幾分、頭は冷えた。
くだらないいがみ合いばかりだったが、それでも非番の日を銀時と過ごすことができた、と喜ぶべきか――そんな情けないことを考えながら屯所へ帰ろうと足を出したそのとき、背後でガラリと戸が開いた。
同時に、
「なんですかー、副長さんは勝負を途中で投げ出すんですかー。とんだ腰抜けだなァ、オイ」
どこまでも馬鹿にしきった声がかけられる。
これ以上惨めな思いをするくらいなら相手にしなければいい――思考は冷静にそう判断する。だがそれとは別の部分で、カチッとスイッチが入った。
「あァ?んだとコラ。もっぺん言ってみろてめー」
憤りのままに振り向けば、銀時が後ろ手に店の戸を閉めるところだった。
てっきり馬鹿にした笑みを浮かべているものと思ったが、予想に反して銀時はどこか拗ねたように口を尖らせている。
「鬼の副長さんは勝ち目がねェからって逃げ出す腑抜けですかーコノヤロー、って、二回も言われてェってどんだけMなのお前?」
「誰が逃げるかァァ!」
「Mはいいのか、認めるのか、やっぱMっ子かおめー」
「それも違ェェェ!認める以前に違ェェェ!」
やっぱってなんだそりゃ!、と土方ががなると、銀時はにんまりと笑った。その笑みに、しまった、と思うと同時に、なんだかホッとしてしまった自分が、土方は不思議だった。
そんな心境に内心首をかしげているあいだに、「んじゃあ決着つけよーぜ」と銀時に押し切られるようにして、万事屋にて呑み比べを仕切りなおすことになっていた。
万事屋に着くなり、銀時が
「あ、神楽はお妙が店休みだからって泊まりで遊び行ったから、邪魔は入んねーぜ」
などと言いながら、ある酒を全部――とはいえ大した量ではなかったが――テーブルに並べだす。
そしてなし崩しのまま、呑み比べ第二戦へと突入した。
速いペースでビールから焼酎を経て日本酒へと移る。
半分ばかり残っている一升瓶を傾けた辺りから、正直土方は記憶が定かでない。覚えているのは、あるだけ全ての酒を呑み尽くしても勝負がつかなかったことくらいだ。
眠気が全身を満たしているときのような茫とした意識のなか、銀時がそれならコッチで勝負だ、とかなんとか言っていたが、それすら土方は聞き取れていなかった。
ただ、
「アレ?もしかして土方君は自信ねェの?」
とニヤリとした嫌な笑みで銀時が言うものだから、カチンときて反射的に「上等だコラァ」と乗ってしまった。
なんのことかも碌に聞いていなかったというのに、浅はかだったとしか言いようがない――ものの数分で後悔した土方は、そのときの自分を殴って止めに行きたくなった。
荒い息を吐きながら、いやもうホント――と直視できない、否、したくない現実に土方はきつく目を瞑った。
――なんでこんなことになってんだ…。
それは飲み屋で抱いていたような虚しさゆえではなく、こうなるに至っている現状が理解不能、という純粋な疑問と困惑だった。
胡坐を崩したような体勢でくっつくように向き合い、お互いのブツを掻き合う――などという状況に、何故陥っているのか。そして、何故この男がこんなことを仕掛けてきたのか――全くもってわからない。
既に芯が通り先走りが滲み出ている銀時の性器を握り、上下に扱きながら土方が途方に暮れていると、ふっと銀時が笑った気配がした。
「オイオイ、そんなぬるい手コキじゃあ俺ァイケねーぞ」
耳許でからかうように言われ、ぞくりと背筋が粟立った。感じているからか、わずかに声が掠れて妙にエロくさい。
そんな声で、そんな近くで喋るのは反則だろう――土方は内心の動揺を押し殺して、ぎろりと睨めつけた。
「っせェ。深酒しすぎで勃たねェだけなんじゃねェのか?」
「勃たねェような酔い方してねーっつーか勃ってんだろーがしっかりと!おめーの方こそ悪酔いして下からより上から吐きてェってか?」
「ぬかせ。てめーが手ぬるい真似してるだけだろーが」
言い返しながら、土方は熱い息をこぼした。
実際、銀時の手つきはやわらかく緩慢なもので、じわじわと快感を高められてはいるが、堪えきれないようなものではない。
ふとそこで、意外だな、と思った。
この男のことだから、もっと強引に射精へと導くような、手荒で容赦のない手淫をしてくるのが普通ではないだろうか。勝負と言っているのだから、なおさらだ。
お互いのブツを掻き合う、という喜劇じみた状況から逃避するかのように土方がそんなことを思っていると、ふーん、と銀時の呟きが落とされた。
「俺が勝っていいんだ?」
「あ?」
銀時の言っている意味がわからなくて眉をひそめると、いきなりぐり、と先端を強く捏ねられ、土方は息を呑んだ。
急激に生じた快感をこらえようと奥歯を噛み締め、うつむく。途端、居た堪れない光景が目に飛び込んできて、慌てて瞼を閉じた。
もう勝敗うんぬんより、どうにかこの状況から脱したくて仕方なかった。銀時の性器をいじっているのも、このまま銀時の手で射精に導かれるのも、どちらも嫌で堪らない。
なんとかしてこの状況を切り抜けられないものか、と半ば惚けた頭で必死に策を練る。すると、うつむけている顔を銀時が覗き込んできたのがわかった。
そんなに屈辱やら快楽やらで歪んでいる顔を見たいのか――怒りとほんの少しの悲嘆を噛み殺していると、引き結んだ唇の上をぬるりとしたものが通り過ぎていった。
は?、と思わず顔をあげ、瞠目する。
先の状況から、銀時に舐められた、としか思えなかった。だが、銀時がそんなことをする理由も意味もわからない。むしろ、そんなことをする、ということ自体がありえないだろう。
きょとと見やった先では、銀時が意外なまでに真面目な目をしていた。酔いのためか快感のためか、顔は赤く染まっているが、どこか――こんな状況には不似合いなほどに、その表情は強ばっている。
その顔に思わず見惚れていたら、不意に
「――好きだ」
熱を帯びた低い、真剣な声が鼓膜を震わせた。
銀時が何を言ったのか――理解すると、どくん、と鼓動が強く跳ねた。心臓と一緒に性器も脈打ったように、大きさを増す。それに気づいたのか、銀時の手がカリ首を強く擦った。
「――ッ、あ!」
背筋を駆けた快感に、押し殺しきれず上擦った声が漏れた。途端、カァ、と顔が熱くなる。
恥ずかしさとみっともない声に泣きたくなっていると、銀時に片腕で抱きこまれ、口づけられた。
口内で好き勝手に動き回る銀時の舌に翻弄されて、もはや土方の手は銀時の性器に触れてすらいない。ただ必死に、銀時の肩を掴むことしかできなかった。
口腔の感じるところを舐め上げられ、それと同時に性器を強く扱かれると、急激に射精感が込みあげる。
「んんッ」
銀時の手に追い立てられて堪えきれず、あっというまに吐精してしまった。自分の放ったものが銀時の手を汚した、という羞恥すら忘れるほどの快感だった。
だが、射精後、急速に興奮が冷めると、つられるように酒の酔いも何もかもが醒めていく。
「ほんじゃあ俺の勝ちってことで文句ねェな?」
冷静さを取り戻した思考に、嬉しげな銀時の声が届く。その言葉に、ハッと我に返った。そこにあったのは、全身に冷水をかけられたかのように、寒々しい現実だけだ。
――好きだ。
その言葉に心から喜んだ自分が惨めで、憐れだった。偽りごとを口にしてでも、銀時はただ勝ちたかっただけなのだ――と唇を噛み締める。
胸中に渦巻いているのが怒りなのか、落胆なのか、悲しみなのか、それすら自分でももう判別できなかった。
ただ、とにかくこの場から立ち去りたくて堪らない。銀時の顔も見たくなかった。
「――離せ」
未だ土方の腰に回されている銀時の腕を押しのけようとしたら、その手を取られた。逆に肩を押され、ソファの上に転がされる。
「なにしやがる」
のしかかる男を下から睨みつけると、銀時はきょとと瞬いた。
「あ?勝ったんだから当然だろ」
「は?なにが当然だよ、意味わかんねェ」
「勝った方が負けた方を好きにしていい、って。ちゃーんと最初に言ったぜ、俺」
「はァ!?ふざけんなてめー、フカシこいてんじゃねーぞ!」
「いや言ったから、俺。聞いてねェおめーが悪りィんだろーが」
言いながら、銀時は土方の衿をがばりと広げた。突然のことにびっくりして固まる土方をよそに、銀時の手が素肌の上を滑る。掠めるように乳首を触られ、土方は慌ててその手を掴んだ。
「アホかてめ、なにとち狂ってやがんだ!」
「酒の勢いだとか勝負にかこつけてじゃねーと、できねェことってあるよなー」
「意味わかんねェっつーの!言ってることもやってることも、ちっとも意味わかんねーよ!」
「さっき言っただろーがァァァッ!てめ、人の瀕死の告白なかったことにしてんじゃねーぞ!」
「瀕死!?死に体!?ピンピンしてんのに!?」
「ソコォォォ!?食いつくとこソコォォォ!?ってか言い間違えただけなんですけどォォォ!」
あーもー、と頓狂な声をあげた銀時が噛み付くように口づける。途端、土方は再び硬直してしまった。ついて行けない現実に、脳が機能を停止させてしまったかのようだった。
ひとしきり口内を貪って満足したのか、銀時は唇を離すと土方の顔を覗き込んだ。
「好きだっつっただろ」
その目も声も、やはりやけに真剣で、土方は訳がわからなくなる。
「…本気かよ…」
勝負に勝ちたいがために口にした嘘ではなかったのか――土方が呆然と見上げていると、銀時はいじけたようにむくれた。「人を疑うのって良くないと思いますゥ」などと言いながらぎゅう、と土方を抱きしめる。
「そりゃ、今までが今までですし?どーすりゃ信じてもらえっかわかんねーけどよ。せめて俺の気持ち、嘘って決めつけんのだけは止めてくんね?」
まるで請うかのように、銀時がすり、と頭をすりつける。首許をくすぐるふわふわとした髪の感触が、銀時に抱き締められていることを強く実感させた。じわじわと銀時の言葉が胸のなかに広がる。
好きだ――と。
堪らなくなって、銀時の背中に腕を回した。好きだという思いを込めて抱き返すと、銀時の背中がぴくりと震える。
「え、っと、土方君?コレは期待していいの?ってか期待しちゃうけどいいの?」
いつもと同じ調子のようでいて、どこか気弱な銀時の声に、胸が震えた。上手く言葉に出せない代わりに抱きつく腕に力を込めれば、銀時もまた、強く抱き返してくる。それだけで、泣きたくなるほど嬉しかった。
叶わないものと、最初から諦めていた想いが通じた喜びを噛み締めていると、不意に銀時の腕が動いた。しゅるりと帯をほどかれ、長着の中に入り込んだ手が背中を撫でて、すう、と下にさがる――尻に。尻たぶを揉まれ、土方はぎくりと身を竦ませた。
嬉しさで満ちていた胸中に一滴の不安が落ちる。
――勝った方が負けた方を好きにしていい、って
――ちゃーんと最初に言ったぜ、俺。
そう言って、銀時は土方を押し倒したのではなかったか。
じわじわと不安が広がる。
「…好きに、って…なにする気だ、テメー」
まさか――と、浮かんだ想像に土方が青くなると、その顔を覗き込んだ銀時はにんまりと満面の笑みを浮かべた。
「めでたく両想いってことでー、土方君にーガンガン突っ込んでーあんあん啼かせてー、ザーメンまみれでどろっどろのぐっちゃぐちゃになるよーなことをしまーす」
「いきなりかァァァ!最悪だァァァ!てめー最悪だァァァ!」
「あんな泣きそうなツラしたおめーが悪いんですゥ」
「してねェェェ!つーかソレ、責任転嫁ァァァ!」
「してましたー。店ェ出るときしてましたー」
「妄想ォォォ!それおめーの妄想ォォォ!」
ぎゃんぎゃん喚いたところで、銀時が手を止めることはなかった。あれよあれよという間に土方から身ぐるみ引っぺがす。
そうして、宣言どおり銀時に突っ込まれて揺すぶられて散々啼かされた土方は、翌朝目も当てられない姿で目覚めることになった。
先行きが不安になるような始まりだが、それでもちょっと――否、結構幸せだと思ってしまったあたり、手遅れなのだろう。
そう、好きだと気づいた最初から、手遅れだったのだ。
だるい腰を押さえながら、土方は諦めの息をこぼしたが、それでもやはり――口許には甘やかな笑みが浮かんだ。
PCサイト壱万打リク
「じゃんけんあたりから始まった銀土百番勝負で最後はする勝負なくなってあっちの方向で勝負してアレ?って感じの話」
(12/07/15)
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