0721の日
後ろ手に縛られ転がされ、土方は腹の上に乗り上げた男を信じられない気持ちで眺めることしかできなかった。
土方に跨っているのは、この万事屋の主、銀時だ。
銀時とは今日、ふらりと入った飲み屋で偶然鉢合わせ、喧嘩めいた遣り取りをしながら酒を酌み交わした。
この男と差しで飲んだのは初めてだったが、意外と楽しく思ったのを覚えている。
だから、なのか。同じタイミングで店を出た銀時に誘われるまま、この万事屋に来てしまった。
来てしまった、などと、後悔めいたことを思うことになるとは、そのときは思わなかったのだ。
もーちょい飲もうぜ、という誘い文句だったというのに――と土方はそれから今の状況に変じている意味がわからない、と内心泣きたくなる。
万事屋につき、事務所のソファで何杯か酒を飲んでいた。くだらない、軽い口論めいた会話はあったものの、それで銀時が怒ったとも考えられない。
普通に――土方にしてみたら、普通に酒を飲んでいた。――はずだった。
しばらく酒を飲んでいたら、便所にでも行こうとしたのか不意に立ち上がった銀時が、ふらりとよろめいた。
オイオイもう足にキてんのかよ、などと馬鹿にする様なことを口にしながら土方も立ち上がり、その腕を取って体を支えようとして――逆に腕を取られた。
なに?と思った時には腕を引かれ、隣の和室に連れ込まれ、腕を縛られ――今の状況の出来上がりだ。全くもって意味がわからない、と跨る男を内心涙目になりながら睨みつける。
唯一自由になる脚をバタつかせたところで、銀時はびくともしなかった。膝が背中に当たっても、体勢上そんなに力が入らないため、ダメージも少ないのだろう。
銀時の押し殺した声が鼓膜を揺らし、土方は居た堪れない思いで歯を食いしばった。
居た堪れない、どころではないだろう。銀時は土方に跨り、自慰をしているのだ。
土方の自由を奪い押し倒した銀時が弄っているのは、自身の性器だ、居た堪れないどころの話ではない。
銀時はうっとりとした顔で土方を見下ろしながら、自身を慰めている。
荒い呼吸と水気を帯びた音が室内を満たし、温度すら上げているように思えた。
荒ぐ銀時の息に釣られるように、土方の息も鼓動も荒いでいく。
どうしていいかわからないまま土方が言葉を失くしていると、かち合った視線のその先で、情欲を滲ませた赤い瞳がじんわりと笑んだ。それだけで何かが背筋を駆けたようにゾクリとする。
不意に、自身を弄る手は止めずに銀時が上体を倒した。土方の首許に顔を埋め、匂いを嗅ぐかのように、すん、と鼻を鳴らす。
頬に触れる天パの感触にも、首許に触れる荒い息の感触にもぞわぞわと肌が粟立ち、土方はヤメロ、と身じろいだ。
「…ちょいタバコくせェのな、やっぱ」
笑い含ませた銀時の声に、やはり土方の匂いを嗅いでいたのか――と羞恥で熱くなる。
「ヤメロてめェ!」
土方が顔を背けて肩を波打たせても、銀時はすんすん、と何度も嗅いでくる。
かがめられた銀時の体勢から見えはしないが、性器を弄る手も動きを増しているのだろう。ぐちゅぐちゅという音がさらに大きく響いて土方の聴覚を犯し続け、はあ、と熱い息が首筋にかかる。
それだけで土方もまた、体が熱くなった。触れてもいない土方の性器も、昂っているとわかる。
銀時のふざけた行為以上に、そんな自分の反応が恥ずかしかった。叶うなら今すぐにでも銀時を蹴り飛ばして、この場から立ち去りたい。
土方がきつく目を瞑り、唇を噛み締めて羞恥を堪えていると、ややして銀時が低く呻いた。びくりと小さく体を震わせたのち、硬直したかのように体を張りつめた動きで、吐精したのがわかる。
やっとこの訳のわからない戯れが終わったのだ――土方が内心ホッと息をついていたら、「――土方」銀時に呼ばれ、思わず体を強ばらせた。
そんな土方に構わず、「ホレ、見てみ?」とどこか楽しげな口調で銀時が言う。
その声音が、土方には信じられなかった。
何故、こんな状況で、そんな笑い含んだ声を出せるのか――それが、信じられない。否、理解できない。
土方が体を固まらせたまま目を瞑っていると、銀時に顎を掴まれ、背けていた顔をぐい、と上向かされた。
「目ェ開けねーとちゅーしちゃうけど、いいの?」
楽しそうに銀時が言う。仕方なしにゆるゆると目を開けると、眼前に銀時の手が突き出された。その手のひらには先ほど吐き出した精液がべったりとついている。
いっそ泣きたい心持ちで土方がその白濁を見つめていると、いきなりその手に頬を撫でられた。
「――ッ!」
ぬるりと頬に塗り広げられるのは、あの手のひらについていた白濁だ。
愕然として一瞬呆けてしまった思考が、次いで激昂に染まる。
「ッ、なに、して――」
土方は怒気もあらわにがなろうとした。だが、口を開いたと同時に銀時の指が中に押し入ってきて叶わなくなる。
途端、青臭いエグ味が口の中に広がり、土方は盛大に顔をしかめた。吐き気すら覚える。
そんな土方を見つめ、銀時はハハ、と笑い声をあげた。
「やっぱザーメン似合うわ、おめー」
思ったとーり、などと続けるその声は、やはりどこまでも楽しげで、土方は目許を引きつらせた。
「っの変態が…ッ!」
「その変態に釣られておっ勃ててるおめーはどうなの?」
言うなり銀時の手が土方の下肢に伸び、半ば勃ちあがってる性器を長着越しに握った。突然生じた直接的な快感に、思わず息を呑む。
咄嗟にこぼれそうになった声を噛み殺しながら、土方はギッと銀時を睨みつけた。
「っせェ!さっさとこの縄外して退きやがれ!」
「次はおめーがやって見してくれる、ってんなら外したげるけど?」
「な…ッ!」
ふてぶてしい笑みで返された内容に言葉を失う。
冗談だろ――そう思いたいのに、弧を描いた口許に反して熱っぽく真剣な銀時の双眸がそれを許さなかった。
本気で――本気で土方に自慰を強いているのだ、この男は。
「ふざけんな…!なんでそんな、テメーなんかに…」
いつもと同じ口調でいつものようなことを言っても、自然、土方の声は震えてしまった。腹の奥底から恐怖にほど近いものが生まれ、背筋を這いのぼったかのように、ぞくりとする。
「いつもシてるみてーにやりゃあいいだけだろ」
何でもないことのように言う銀時が、本気でわからない。
わからないから――怖かった。
言葉を失くし、身じろぎひとつ出来なくなった土方に、銀時がふっと笑いかける。
「じゃあー、恥ずかしがり屋さんな土方君にー、選択肢をあげまァっす」
「選択、肢…?」
「そ。自分でやるか――俺にやらせるか」
こつ、と額をあわせ、唇同士が触れそう距離で、そんなことを言う。
「もちろん、俺がするってなったら、最後までフルコースだから」
どっちにする?――至近距離から覗き込む赤い瞳が、銀時の本気を伝えてくる。
その目に射抜かれて、土方の唇はわなないた。
「――――」
あえかな声に、赤い瞳が細められた。
どれを答えても最後までフルコース。この後はSが美味しくいただきました。
(12/07/22 SSS up)
(12/12/08 改訂)
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