サブ土
銀土前提のサブ土です。やっちゃってるので苦手な方はご注意ください。





見慣れない小綺麗な部屋は、随所から滲み出る高級さからどこか余所余所しさを感じる。

人を選ぶ冷たさすら覚えるが、反して室内に流れる空気は卑猥な熱を含んでいた。

その熱さと薬のせいで頭がくらくらする。

淫らに響き渡る水気を帯びた音に聴覚も犯され、土方は強い酩酊感に襲われた。

「んッ、ん、ぅあ…」

快楽を滲ませたよがり声などあげたくないのに、突き上げられるたびに抑えようもなく溢れてしまう。

けれど、そんな自分をみっともないとか、はしたないとか、思うような余裕はなかった。

頭の中も、擦られ続ける内側の粘膜も、どろどろに溶けてしまったかのように、熱い。

「あっ、あっ、あ…!や、」

硬く張りつめた性器に一際奥深くを抉られ、背筋が波打つ。腰を震わせながら、土方は何度目になるかわからない絶頂を迎えた。こぷりと性器から体液がこぼれる。

達したばかりだというのに、その感覚にさえ感じてしまい、土方の性器はまたゆるりと頭をもたげた。

そのさまを笑うかのように、貫く男が土方のなかを掻き回す。

「あァ、あ、…ッ」

未だ燻り続ける熱と、体内で蠢く肉の塊に、どうしようもなくて体を震わせることしかできない。

そんな土方とは対照的に、土方にのしかかり貫く男は少しも乱れていないように見える。下肢の前だけくつろげた以外は、衣服すら乱してもいない。

与えられる快楽に翻弄されながらその腕にしがみつき、理性すらとけた頭の片隅で土方は、嫌だ――と強く思った。

男に抱かれていることが、ではない。

自分を抱くのがこの男だということが――銀髪天パの男ではない、という現実が、とても嫌だった。


* * *


その日は、とある幕臣から呼び出されて近藤とともに一軒の料亭へと赴いた。

正直、その男に呼ばれた時点で土方は気が重かった。その幕臣は、土方に対して邪な欲を抱いているらしく、以前から遠まわしに誘いかけられていたのだ。

今日は近藤も一緒だから、と内心渋々でやって来た。だが、通された座敷に見廻組局長・佐々木異三郎と副長・今井信女の姿を見つけ、土方はホッと胸を撫で下ろした。

どうやら今日は趣意が違うらしい。

酒が入るなり、見廻組と真選組とをそれぞれ比較し、揶揄するようなことを言う幕臣に、狙いを悟った――気でいた。

両組織のあいだに亀裂を入れたいのだろう。互いに、今以上にいがみ合い、上層部が手を下すまでもなく、互いに潰し合いをするように――そんな思惑を感じた。

だから土方は、まさかそんな下卑た手を使われるとは、思ってもいなかったのだ。

勧められるままに杯を傾けていたら、ふいにぐらりと眩暈がした。途端、強く跳ねた鼓動に、酔いが回ったのかとも思ったが、体の奥底から生じた感覚に、違う、と愕然とした。
これは酔いとは違う。

そんな土方の様子に目ざとく気づいた幕臣が、「これはいけない」と気遣う素振りで仲居を呼び、部屋を用意するよう言いつけるのを聞き、間違いないと確信した。

催淫剤か、媚薬の類が酒に混ぜられていたのだ。土方は自分の失態を胸中で罵った。

土方だけ呼び出されたのなら、最初から警戒もしただろう。だが、今日は近藤とふたり揃っての召し上げだった。おまけに、見廻組のふたりも居たため、完全に油断していたとしか言えない。

内心ほぞを噛みながらも、土方は「休んでいきなさい」という幕臣の言葉を固辞し、近藤もまた、自分が連れて帰るから心配ない、と強く言い切った。

土方たちのそんな態度に、幕臣が、しかしね、と不興顔になる。

「私としても心配なのだよ。具合の悪そうな副長さんを、そのまま帰したとあっては寝覚めも悪い」

私の顔を立てると思って――と、どこまでも土方の身を案じている振りで、そんな言葉で脅しを含ませる幕臣に、近藤はですが、と食い下がる。

その声に、土方は諦めざるを得なかった。

このまま土方を庇い逆らえば、近藤が今後どんな悪質な目に遭わされるか知れたものではない。

徐々に熱を帯びていく体を忌々しく思いながら土方は、では――と頭を下げた。

「――お言葉に、甘えさせていただきます」

その瞬間の、驚いたような近藤の顔が脳裏に焼きついた。喜色の滲んだ幕臣の笑みとは、とても対照的だった。

仲居に案内された部屋には、既に布団がひと組敷かれていた。その光景だけで、吐き気を覚える。

ふわりと香が鼻腔をついたが、それも催淫作用のあるものなのだろう――そう考えると、幕臣の用意周到さに呆れを通り越して馬鹿馬鹿しくすらなった。

自棄気味に布団の上へと倒れ込み、土方は熱くなる体をきつく掻き抱いた。

脳裏をよぎった銀色に、あの男には知られないといいのだが、と、それだけを思う。

ほどなくして現れた幕臣は、目を血走らせて土方にのしかかった。急いた手つきでスカーフを剥ぎ取り、あらわになった首許に手のひらを這わせる。

す、と首筋を触られただけで、息を呑むほどの快感が生まれた。

その感覚に抗いようもなく、土方が暗澹を噛み締めながら目を瞑った、そのとき。

「――殿」

幕臣の名を呼ぶ声がしたかと思うと、返事を待たずに襖が開けられた。男が慌てたようにそちらを振り返る。

「ああ、失礼。お楽しみを邪魔するつもりはないのですが、屋敷から従者が見えられましてね。――殿にお知らせせねばと思いまして」

釣られるように土方も目を向けたその先で、佐々木異三郎が飄々とした顔で軽く頭を下げた。

幕臣が、なんだ、何事だ、と喚き、今は手が離せない、などとふざけたことを口走る。

「さあ、それは私にもわかりかねますが――なんでも、大至急お戻りいただかねばならない事態が発生したとか。今にもこちらに踏み込んで来そうなご様子だったので、僭越ながら私がお知らせに伺ったのですが――呼んじゃいましょうか、従者の皆さん」

そう言い佐々木が踵を返そうとすると、幕臣が慌てふためいたように「待て」とそれを止めた。

ぎり、と歯を喰いしばった心底悔しそうな表情で、今行く、と土方から離れる。

入口に立つ佐々木とすれ違う際、幕臣は胡乱気な顔を向けたが、佐々木は「ご安心を」とうなずいてみせた。

「我々歯車は歯車であることを自覚していますから、「余計なこと」はいたしませんよ」

そんなことを嘯く佐々木をぎろりと睨みつけ、幕臣はどすどすと足音も荒く出て行った。

乱暴に襖が閉められた室内に、腹の読めない佐々木と体を強ばらせたままの土方が残される。

さっさとてめーも出て行け――律儀にも襖をきちんと閉め直す佐々木に土方が内心吐き捨てると、まるでそれが聞こえたかのように佐々木の口からため息が落とされた。

「意外と迂闊ですね、土方さん」
「っせェ…」
「ただの料亭ではなく、料亭旅館ですよ、ここは。それくらいの危機感は持っていないと、あなたのようなタイプは痛い目見るに決まってるでしょ」

土方の許へと歩み寄り、滔々と言葉を並べる佐々木が心底憎たらしい。嫌味を言いたいだけか、それとも嫌がらせかはわからないが、早く出て行ってほしかった。

体の中で燻る熱に、もう堪えられなくなってきている。土方の下肢はすっかり勃ちあがり、ズボンを押し上げていた。

吐き出したくて堪らないのに、佐々木がいるせいでそれも叶わない。

「出てけ…!」

土方が荒ぐ息を抑えながらギリと睨みつけると、佐々木は何かを考え込むように首をかしげた。そうですね、などと、意味ありげな呟きを落とす。

「丁度いい機会なんで、見てみますか。痛い目」

佐々木が何を言っているのか、咄嗟にはわからなかった。

は? と眉根を寄せると、「痛い目」と再度口にした佐々木に、つい、と指先で顎を掬われる。

その感触にすら全身が震えるほどの快感が走り、土方はそこでようやく意味を解し――言葉をなくした。


* * *


「んぁ、あ、あ…あ…」

律動に揺れる視界のなか、佐々木の片眼鏡が灯りを受けて光を弾いているのが、絵空事のように思えた。否、単に現実と認めたくないだけだろう。

佐々木のやり方は、けして丁寧なものではなかった。

土方を気遣う素振りなど一切なく、おざなりのように後孔を慣らし、一気に突き入れてきた。

その衝撃で土方が達しても、意に介した様子もなく好き勝手に腰を動かしている。

息も整わないうちに激しい律動に揺さぶられ、呼吸もままならないほどに苦しかった。

だというのに土方はいとも簡単に高められ、快楽に喘ぎながら何度となく絶頂を迎えた。

たしかに薬のせいもあるのだろう。けれど、それだけではない。

土方の体が、男に抱かれることに慣れているからだ。

きつく目を閉じ、土方は自分をこんな体に変えた男を思い浮かべた。

その男――坂田銀時とは、ずっといがみ合い、喧嘩を繰り返すような仲だった。

ときには本気で叩き斬ってやろうか、と刀を抜いたこともある。

それがいつからか、声を荒げることなく話をするようにもなり、互いの空気が少しずつやわらいでいった。

それを心のどこかで嬉しく思っていた、そんなある日のことだ。――銀時から好きだと告げられた。

滅多に見せない銀時の真剣な目に、トン、と土方の鼓動が跳ねた。言われた言葉を脳裏で反芻すると、胸中に温かい感情がじわじわと広がり――それでようやく土方は、自分もそうだったのだと気づいたのだ。

ずっと、好きだった。特別な意味で、銀時が好きだったのだ。

思いを交わしてからのち、それから何度体を重ねたのかなど、わからない。

ただ、初めて銀時ともどかしく布団にもつれ込んだとき、土方をきつく抱きしめたその腕が、かすかに震えていたのを覚えている。

――ヤベェ、すっげ緊張してる

そんなことを言い、困ったような嬉しそうな恥ずかしそうな――そんな顔で銀時が笑ったことも。

その表情に、泣きたくなるほどの愛しさを覚えたことも。

どうして今、自分を抱いているのが銀時ではないのだろう――涙の滲む目で見上げた先にいるのが、ふわふわと揺れる銀髪の男じゃない。それだけが途轍もなく嫌で、どうしようもなく悲しかった。

――よろずや、

無意識のうちに唇がその呼び名をなぞっていた。

それを見取ったのか、佐々木が軽く目を瞠る。ややして、そうですか、と得心したようなことを感情の読み取れない声で言ったかと思うと、唐突に土方の目を手のひらで覆った。

「な――!」

突然遮られた視界に土方は狼狽の声をあげたが、佐々木は意に介した様子もない。

「私も鬼ではないので。せめて、情人に抱かれてる夢でもご覧なさい」

あの方ならきっと――と独り言ち、佐々木が上体を寄せた。

「ぅあ、アッ!」

深くなった結合に、土方が喉をそらせて喘ぐと、想像よりも熱い息が耳許にかかる。

視界がないなか、その熱さは記憶の中の男と重なり――土方は惑ってしまった。

「――すげーいいぜ、土方」

銀時とは違う声、なのに――

――すっげ気持ちいい

浮かんだのは快感を堪えている銀時の顔で、薬と快楽により惚けた頭は――混乱した。

「――駄目ですね、私エリートなもので、ガラの悪い喋り方はどうにも性に合いません」

佐々木がため息とともにこぼす。その言葉も、淡々とした口調のくせに息が荒いでいるのも、土方のなかには入ってこない。

自分を抱く男の背中に、きつくしがみついた。律動を生む腰に、淫らに足を絡める。

「よろずや…」

ただその名だけがほろほろとこぼれ落ちた。

惑っている自覚もなく土方が快楽を求め追っていると、佐々木がふっと笑みをこぼした気配がした。

「困りましたね。迂闊な土方さんをちょっといじめようと思っただけだったんですが――」

本気になってしまいそうですよ、私――困っているとは思えない声がそんなことをこぼしたが、土方の耳には入らなかった。

(12/07/04 SSS up)
(12/12/08 改訂)

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