赤い花、白い花



亡き人へは白い花を。赤い花は、あの人へ──



夜になってから土方の自室に押しかけた銀時は、畳に寝転がりながらこの部屋の主を見上げていた。

その土方はといえば、床脇の地袋の上に置かれた、この部屋では見慣れない物を優しげな表情で見つめている。

それは、細い花瓶に挿された二輪の赤いカーネーションで、昼間、神楽と新八が土方に贈ったものだった。


* * *


昼間、出かけていたらしい神楽と新八は、それぞれ手に赤い花を携えて帰ってきたかと思うと、傍らに居た銀時には目もくれず真っ直ぐに土方のもとへ駆け寄った。

「ニコ中、はいコレ!」
「受け取ってください」

にこにこと邪気のない笑みを浮かべて、子供ふたりが赤い花を土方に差し出す。

若干気圧されながらも花を受け取った土方が首をかしげると、その姿に神楽と新八が勢い込んで話し出した。

「母の日にはカーネーション、って、屁怒絽さんが言ってたアル!」
「おまけに安くしてくれたんです、屁怒絽さん!」
「……俺ァおめーらの母親じゃねーぞ」

神楽と新八の説明に、土方は困ったように眉をひそめたが、子供ふたりは気にした素振りもない。「似たようなもんアル」という神楽のひと言が全てを表している。

困惑に不満を混ぜたような顔で土方が押し黙ると、新八が「て言いますか」と苦笑しながらフォローを入れた。

「赤いカーネーションはどうしようね、って神楽ちゃんと相談したときに、土方さんが真っ先に浮かんじゃったもので」
「赤、は……?」
「そうヨ、マミーには白アルヨ。だから赤いのはニコ中にヨ」

言葉足らずな神楽の補足に、それでもああ、と銀時が納得したように、土方もまた思い至ったらしい。そうか、と呟きを落としたのが聞こえた。

「亡くなった人へは、白い花か……」

手許の赤い花を見つめて、土方がぽつりとこぼす。
はい、と新八は微笑んだ。

「白いカーネーションは墓前に供えてきました」
「私も一緒に行ってきたアル!」

マミーのは私の部屋に飾ったヨ、と胸を張るように神楽が言う。

そうか、と再び落とすと、土方は膝をつき子供たちを見上げるようにしてふう、と微笑んだ。

「……ありがとうな」

そう言うと、新八と神楽を両手で抱え込む。

ぎゅう、と抱き締められ、新八も神楽も驚いたように目を丸くしていたが、次いで照れ臭そうな、それでいて嬉しそうな満面の笑みを浮かべた。

その光景に銀時は、なんだか入っては行けないようなわずかな疎外感と、それ以上の愛おしさを覚え、胸の中がじわりとあたたかくなったのだった。


* * *


「──盆入りしたら、新八ん家の墓参りに行くか」

未だ赤い花を見つめていた土方にそう声をかけると、ようやく黒い瞳が銀時の方を向いた。ぱちりと瞬いた双眸が、何故を問うている。

「お宅の息子さんは地味で眼鏡で地味ですが頑張ってますよ、とか、報告に?」

他愛も無い思いつきだったけれど、口に出してみて、それもいいかもしれない、と自分でも思った。

そうだな、と同意した土方の笑みが、ふっと愁いを帯びる。

「チャイナんトコのは──遠いだろうなァ」
「あー、アイツんトコはなァ……」

土方の言葉に、銀時は眉根を寄せた。

恐らく神楽の母親は故郷である星に眠っているのだろうが、その星がどこなのかすら、銀時たちは知らないのだ。

適当な思いつきの発言だっただけに銀時が困って頭を掻いていると、土方は何かを思いついたかのようにすっと腰をあげた。

銀時が何事かと見守るなか、土方は障子を開けると外廊下へと出て行ってしまう。

「──どしたよ?」

銀時が後を追えば、土方は濡れ縁まで足を進め、軒から上を見ていた。

「こっからじゃあ遠いだろうが──」

昔よりも大分星が見えにくくなった空を見上げ、土方がふわりと微笑む。その姿に土方の意図を察し、銀時も空を見上げた。

「お宅の娘さんは大飯食らいだわ酢昆布娘だわ破壊魔神だわ──」
「多い多い、文句多い」

銀時の報告に土方が淡々とツッコミを入れる。その呆れ顔をちらりと横目で見やってから、再び空へ視線を戻した。

「けどまァ、元気にやってるよ──こっちのおかーさんに甘やかされてな」
「……それァ誰のことだ」

じとりと銀時を睨んだ土方だったが、すぐについ、とその目を空へと向けた。

「大事な娘預かってんだ、責任持って面倒見るよ……」

空の──その遥か遠い先で眠る神楽の母親に向けてだろう、土方が誓うかのようにそう告げる。

わかっている。
この男が神楽に甘い最大の理由は、神楽が女の子だから、ということ以上に、わずか十四歳にしてこんな道を歩ませている、という負い目とか引け目とか責任感とか、そういうことからだ。

だが、わかっているからこそ、銀時は釈然としない思いだった。
神楽が真選組に居るのは、彼女が選んだことだ。それで土方が負い目などを感じる必要など微塵もない。

なのにそれで甘やかすのが面白くなくて──

「──以上、おかーさんな土方君は終了ー」

銀時は土方の腕を掴むと、彼の自室へと引っ張り込んだ。

脈絡のない銀時の唐突な行動に、土方は「オイ!」と驚いたような声をあげたが、それを無視して畳の上に転がす。

「昼間は我慢してガキ共に占領させてやったんだ、その分こっからは銀さん甘やかせよ、存分に」

むう、と唇を尖らせると、土方は思い切り呆れたような半眼になった。

「勝手に人をガキ共の母親にしたり終了っつったり、なんなんだテメーは、やきもちかうぜェ」
「おォ、妬いてんだよ、悪りィかバカヤロー」
「開き直るなバカヤロー」

そんなことを言いながらも、土方は寄せた唇を避けることなく受け入れた。

「……盆入りしたら一緒に行くから、シフトの調節よろしく土方副長殿」
「たまにはてめーもシフト作れ」

口づけの合間にそんな会話を交わしながら、銀時はふっと武州へ足を延ばそうかと思い立った。

彼の義兄と、なによりも彼を産んでくれた母親へ、土方は元気でやっていると報告をして、そして心からの感謝を伝えに。

連れ立って行こう。

白い花を携えて。

(13/05/13 blog up)
(13/07/07 up)

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