閉められた障子越しに入る光が、本日の好天具合を嫌というほど知らせてくれる。
世間は大型連休中だ、さぞかし行楽地は賑わうことだろう。どこか投げやりに土方はそんなことを思った。
もっとも今現在、屯所の自室に篭っている土方のもとへと聞こえてくる賑わいは、行楽とは無関係のものだ。仲間である真選組隊士たちが、楽しげに「準備」とやらを進めているらしい。その物音だ。
一体彼らが何を企んでいるのか――薄々見当はつくものの、否、見当がつくからこそ、わずかな苛立ちと不吉な予感を覚え、土方は煙草の煙を吐くに紛れて深くため息をこぼした。
逃げ出したい。今すぐここから逃げ出したい。
真選組第一の土方が「今すぐ屯所から逃げ出したい」と考える、など、自分でもあり得ない事態だと驚いてしまう。だが、それほどまでに自室どころか屯所そのものが、物凄く居心地悪くてたまらないのだ、今は。
土方は壁に掛けられている日めくりカレンダーをちらりと確認し、再びため息を落とした。そこに示されている今日の日付は五月五日――すなわち、土方の誕生日だ。
そんな日なのだから、聞こえてくる隊士たちの喧騒が何をしようとしてのものかは、嫌でもわかる。わかるからこそ逃げたいとも思う。そしてそれ以上に、なんで今日になっていきなり――と朝方の出来事を思い返しては疑問が浮かんで仕方なかった。
何故なら土方は今日、非番の予定だったのだ。夜勤明けということもあり、朝から終日、休みだった。休みだったはずなのだが――何故か土方は朝から自室待機を命じられていた。
そもそも、誕生日なんだから、と先月の早い段階で土方へ本日の休みを与えたのは、局長である近藤だった。いつも真選組を優先させて働き詰めの土方に、その日くらいはゆっくりしろ、と、気遣った近藤がそう計らってくれた。
正直、誕生日、と言われたところで土方にはなんの感慨も浮かばない。年齢を表す数字がひとつ増えるな、と思うくらいのものだ。だから、その日は休みな、と言われても、別段、感じ入るようなことなどなかった。
けれど、その休みを聞きつけて喜んだ男がいる。それは「恋人」などという、言葉にするにはどうにも気恥ずかしくて仕方ない間柄の男――坂田銀時だ。
休みなら一日一緒にいられるな、と満面の笑みで珍しく喜びをあらわにした銀時は、土方以上にその日を特別に思っているようだった。誕生日を一緒に過ごせるのが嬉しくて仕方ない、と滲ませる銀時の姿に、ならいいか、と土方は有難くその休暇をいただくことにした。
銀時が喜ぶのなら、誕生日の一日くらい、この男にくれてやろう。――そのくらいには、土方もまた、この男に恋着しているのだ。
それに、話の端々から察するに、どうやら銀時が近藤に土方の休みを進言したらしい。
普段、土方が仕事を優先させることに、文句を言いながらも妨害や手出しをしたことのない銀時がそんな根回しをしていたのかと思うと、余計にいじらしくすら思えた。
だから、その日は一日、銀時の好きにさせてやろう、と決めていた。
だというのに、だ。今日になってその近藤から、自室待機を突然言い渡されたのだ。
――ごめーんトシ、ちょっとだけ部屋で待機してて! 勲のお・ね・が・い!
可愛らしさを狙ってのものか、小首をかしげるようにして両手を合わせた近藤に、ぞぞ、と寒くなり、土方は頬を引きつらせた。けれど、近藤のその言動が薄気味悪かっただけで、言われたことに否やがあった訳ではない。銀時は思い切り拗ねて怒るだろうが、仕事であるならそちらを優先させるのは、土方にとって当然のことだ。
だが、いいけど何故?、と問うた土方に、からからと笑いながらも近藤は歯切れが悪かった。
――んー、まァ、俺たちからのプレゼント? 的な?
正直、その時点で嫌な予感はした。自室待機の理由にプレゼント、などという単語が出てくるのだ、訝しく思うのも当然だろう。
嫌な予感に土方が眉をひそめていると、まあ楽しみにしててくだせェ、と背後から声をかけられ、さらに予感は強まった。
――俺たちが全力で祝ってさしあげまさァ。
声で誰かはわかっていたが、土方が思い切り顔をしかめて振り返った先にいたのは、やはり沖田だった。
準備が終わるまでアンタぁ部屋でおとなしくしてなせェ、と続けた沖田の顔には、楽しげな笑みが浮かべられている。それはもう、彼の本性を知っている人間なら、警戒レベルを最高に引き上げる種類の笑みだ。
おかげで、生じていた嫌な予感は、土方のなかでもはや、わずかなのちに迫り来る恐怖と化していた。
逃げ出したい。物凄く。単純かつ純粋に、今すぐここから逃げ出したい。
大体「準備」といっても何を準備するというのか――土方が額を押さえながら本日何度目になるかわからないため息をついたとき、すう、と障子が開かれる気配がした。
「まいどー。万事屋銀ちゃんでーす」
同時に滑り込んできたやる気なさげな声に、土方は目を丸くした。驚いて顔をあげれば、銀時がいつもの飄々とした表情で、よ、と手をあげている。後ろ手に障子を閉め、さも当然のように向かいに腰をおろした銀時をきょとと見つめ、なぜ、と土方は小首をかしげた。
「なんでおめーがここに?」
「いやまァ、俺が、っつーか、俺だから、っつーか?」
「すげェ、全然意味わかんねェ」
「うん、まァ簡単に言やぁ――土方争奪戦だから?」
「いやホント、ちっとも意味わかんねェ」
誇張でもツッコミでもなんでもなく、本当に銀時の言っている意味がわからなくて、土方は呆然とするしかない。
そんな土方の様子に、ホントになんも説明してねーのかよアイツら、と銀時はため息をこぼした。
「時間ねーから簡単に言うとだな、今からゴリラと沖田主催のゲームを始めんだとよ」
「は? ゲーム? 近藤さんと総悟が?」
唐突な展開に土方が眉をひそめると、銀時は「そ」と懐から小さな置時計を取り出した。あとで沖田に返しといて、と言いながら土方の前にそれを置き、ぽん、と叩いてみせる。
「今から十分後、十時きっかりにスタートしまーす。一時間以内に門から外に出れたら俺の勝ちで、おめーはそのまんま万事屋直行コース。その前に捕まったり時間内に脱出できなきゃ奴らの勝ちで、おめーはムっサい連中に囲まれてお誕生会コースです」
以上――と、しかつめ顔で銀時は結んだが、土方はなんの反応も返せず、ただその顔を眺めることしかできなかった。びっくりするくらい銀時の言っていることが理解できない――というか、したくない。
思考を放棄した土方がひたすらぽかんと見つめていると、全く理解できていないのが丸わかりだったのだろう、銀時が苦笑して「質問どーぞ」と促す。
「……誰が、どーするって?」
「俺とおめーが、こっから脱出します。愛の逃避行でも可」
最後のふざけたたわ言は無視して、土方は銀時の言葉を脳裏で反芻した。ここから脱出する――それは土方の望みと合致している。願ったりだ、と土方はうなずいた。
「……で、それを誰がどーするんだ?」
「おめーんトコの連中がこぞって邪魔してきます。捕獲されたらゲーム終了」
制限時間は一時間な、と先ほどの説明を繰り返す銀時に、土方は首をかしげた。
「ウチの連中ったって、今日はそんなに残ってねーだろ、屯所に」
大型連休中は人出もそれに伴う揉め事も増えるから、市中の警戒を強化している。この時間、屯所に残っている隊士など、大した数ではないだろう。その人数相手にこの部屋から外へ出るのに一時間も猶予があるとは、沖田が絡んでいるわりには随分と易しいルールだ。
土方がそう言うと、銀時は「へ?」と目を丸くした。
「そうなの? 沖田君は四分の三くらい詰めてるっつってたけど?」
「はァァァァ!?」
銀時の言葉に、土方は頓狂な叫びをあげてしまった。
あり得ない。警戒態勢を強めているこの時期に、それだけの人数が屯所に詰めているなど、あっていいはずがない。土方がシフトの調整をしたのだから断言できる。
あり得ない。本来なら絶対にあり得ないのだが――近藤や沖田がこのゲームとやらに本気で力を入れているのなら、そんなのお構いなしで隊士たちを残していてもおかしくない、と思える辺りが、いっそ泣きたくなる。頼むから、仕事しろ。
土方が額を押さえていると、つーかさァ、と銀時の暢気な声が降ってきた。
「おめーんトコの四分の三っつったら何人くらいになんの?」
「……三桁弱」
「はァァァァ!?」
今度は銀時が頓狂な叫びをあげた。
本気で阻止するつもりかあの野郎、などと顔を強ばらせているところを見るに、銀時はもっと少人数だと思っていたのだろう。
なにやら急に真剣みを増した銀時に、「――で?」土方は恐る恐る訊ねた。
「阻止されたら……?」
「おめーは「お誕生会」の刑。時間内に脱出できなくても以下同文」
「刑なのソレ!? 刑罰なの、ソレ!?」
「いやもう凄かったぜ? ちょっと見てきたけど、ガキのお誕生会並みに手作り感満載な仕上がりになってたぜ? ウチのガキどもがやんならまだしも、アレをあの連中がやったかと思うと、居た堪れなくなったからね、俺。さすが、ドS王子が率先してるだけあるわ、おめーの嫌がるツボ押さえまくり」
「すっげ刑罰だなソレ!」
準備ってそれか、と土方はがっくり肩を落とした。
なにやってんだよアイツら、つーかもうホントに嫌だ――脱力しきりで土方が頭を抱えていると、ふと視線を感じた。ちらりと目線をあげれば、銀時が常になく真面目な顔でじっと土方を見つめている。
「――んだよ。まだなんかあんのかよ」
眉をひそめて問うと、いや、と銀時はばつが悪そうに視線をそらした。がしがしと髪を掻き回しながら、えーと、などと言いよどむ。
「あとはなんだっけなァ。道具は可だけど武器の使用は禁止、もちろん沖田のバズーカも禁止だから、怪我とかしねェと思うけど、各自気をつけるように――だったかな? まぁとりあえず――」
銀時の声を遮り、ドォン、と聞きなれた砲撃音――沖田が放つバズーカだ――が轟いた。それが狼煙代わりなのか、始まったみてーだな、と呟いた銀時が腰をあげる。
「ホレ、ぼさっとしてねーで行くぞ、愛の逃避行」
土方を促して、カラリと障子を開ける。仕方なく腹を括った――それしか道はない――土方も銀時に続いて外廊下へと出ると、そこにはみっしりと隊士たちが詰め掛けていた。
その光景に、うわー、と土方は半眼になった。ここまでくるともう怒りも呆れも通り越して、いっそ清清しいくらいにコイツら馬鹿だ、とだけ思う。
「おめーら、仕事もしねーでなにやってやがんだ……」
「そんなもん、アンタらの邪魔に決まってんでしょうが」
虚脱しきった土方の嘆きに、飄々とした沖田の声が返ってくる。それを聞き、銀時はうぜー、とため息を落とした。
「てめーら全員、揃って馬に蹴られろ」
「いいですぜい。ただし、どうせ蹴られるってェんならとことん邪魔してやりますがねィ」
「甘ェなァ沖田くーん。障害は多い方が燃えるってなもんよー?」
「おやおや、ロミジュリ気取りですかい?」
「あんなケツの青いガキどもと一緒にされたかねーなァ」
馬鹿にしたような笑みを浮かべる銀時に、沖田もまた、へえ、と口の端をあげた。
「そいつァ結構。こっちも遠慮ナシでやれるってもんでさァ――野郎どもォ」
沖田がにやりと笑う。ざ、と隊士たちが身構えたのを見て、土方と銀時もまた身を低くした。
「――かかりやがれ」
沖田の号令に、うおおお、と鬨の声があがり――本格的にゲームが始まった。
やはり人海戦術でこられると、土方たちには分が悪い。早々に、庭やら建物内やらを駆け回る羽目になった。
銀時とほぼ背中合わせで隊士たちを迎撃していると、向かってくる隊士からするりと身をかわしざま、足を掛けて転ばせた銀時が、
「お、ココだココ」
突然、土方の腕を掴み、通りかかった座敷へと飛び込んだ。
「オイ!」
いきなりなにを、と銀時を咎めるよりも先に、座敷の中にいた隊士たちの姿に気づき、土方はビクリとした。限られた空間で多数の敵――今回ばかりはそう呼ぶしかないだろう――と対峙するのは、厄介だ。そう思い、瞬時に緊張を漲らせたのだが、けれど隊士たちは銀時と土方の姿を見るなり、慌てたように座敷から駆け出して行ってしまった。
一体何事? とあっけにとられながらそれを見送っていたら、
「――俺らが部屋に逃げ込んだ場合、部屋の外で待ち伏せるのはオッケーだけど、中に入ってくんのはダメ」
銀時が訳知り顔で説明する。
どんだけ事細かにルールを決めてるんだ、というか、いつからこんなくだらないゲームを企んでいたのか。想像しただけで頭が痛くなりそうだ。
「……つーか、だったら外で張られてんじゃねーか! 入んなよ!」
「んー、でもまァ、一見の価値はあるかと」
そんなことを言い、銀時が土方の背後を指差す。怪訝もあらわに銀時が示す方を見やり、土方は――硬直した。
鴨居の上に、横断幕のように紙が張られている。そこには「土方副長おたんじょうびおめでとう」などと、下手くそな字が踊り、花紙で作られた花飾りが四辺を縁取っていた。
それだけでなく、他にも紙で作られた輪つなぎが室内を一周するように飾られていたり、風船が浮いていたり、と見ようによっては華やかな――けれど土方にとっては寒々しい光景が広がっている。
――ガキのお誕生会並みに手作り感満載な仕上がり
そう銀時は評し、想像した土方は思わず頭を抱えてしまったのだが、実際は想像を遥かに超えていた。
たしかに、こんな小さく可愛らしい紙飾りを作ったのが厳つい部下たちかと思うと、居た堪れないような、直視できないような気持ちになる。
祝いたい、と思ってくれているのだろう。それは土方も疑っていない。そして、素直に言祝ぐのは気恥ずかしいのだろう、ということもわかる。受ける側の土方だって、そんなのは面映くて御免こうむりたいくらいだ。
だが、祝する気持ち――それの示し方に、問題がありすぎではないのか、コレは。
土方が言葉を失い顔を引きつらせていると、で、と銀時がその顔を覗き込んできた。
「どーよ、副長さん。ご感想は?」
「寒ィ」
全力でヒきながら答えると、銀時はだろうな、と笑った。
銀時曰く「お誕生会の刑」の会場を飛び出すと、やはり部屋の外で待ち構えていたらしい隊士たちの数は、両手に余るほどだった。それらを蹴散らして、再び建物内を駆ける。
既に結構な時間が経過しただろう。行く先々で、おめでとうございますー、だのと叫びながら向かってくる隊士たちは皆、必死だった。必死な顔で土方を捕らえようとしている。
だが――どこか楽しげだった。
訳がわからないまま、このふざけたゲームに参加させられ、そのクリアを――今では結構本気で――目指していた土方も、しだいに馬鹿馬鹿しさに可笑しくなってきた。
「祝うならもっと質素に祝えやコラ」
隊士たちを笑いながらいなして、土方はふと気づいた。
このふざけたゲームやら先ほどの「お誕生会会場」の光景やらのおかげでか、もっと質素に祝え――などと、素直に思える自分がいる。誕生日などどうでもいい、と思っていたというのに。
自分の心境の変化に、だからか――と思い至る。
だからこんな、全力でふざける方向になったのだろう。照れくささをごまかすためにも、そして、土方が嫌がるのも見越して。
――俺たちからのプレゼント? 的な?
だからやはり、コレもプレゼントなのだろう――お気持ちだけで充分です、と固辞したくなるが。
だが――その気持ちが、今は少しばかり嬉しい、と素直に思えた。
死ね、とか、好きです、とか、どちらにせよ物騒なことを口にしながら、隊士たちが突進してくる。
投網を片腕で払い落とした銀時が嫌そうに顔をしかめた。
「副長さん、モテモテー」
あームカつく、と面白くなさげにこぼした銀時を、アホか、と鼻で笑う。
「嫉妬すんな、うぜェ」
「うぜェっておめーなァ」
「するだけ無駄だっつってんだ」
ぎゃあぎゃあと言い合いながら突き進む。ようやく玄関が見える辺りまで達し、土方は内心ホッと安堵の息をついた。
だが、あと少しで外に出られるというところで、「――土方」再び銀時に腕を掴まれた。
「どうした?」
目を丸くした土方をよそに、銀時はすぐ近くの座敷へと飛び込んだ。中にいた隊士たちがわらわらと出て行く。それを見送って、銀時がぽつりと声を落とした。
「あと八分だけど、おめーはどうしてェ?」
唐突なセリフに、は?、と眉をひそめて見やれば、銀時が窺うような目を向けてくる。
「やっぱアイツらに祝ってほしいんじゃねーの?」
「はァ!?」
ここまで来ておいて何を今さら、と思わず土方が半眼になると、銀時は、いやさァ、と気弱そうな声をあげた。
「ここで俺が負けても、夜にゃおめーがウチに来れるようにしてくれるっつーしよ」
ぼそぼそと銀時が続けることには、もし銀時曰くの「ガキのお誕生会コース」となっても、夜には土方を解放して銀時との時間を持てることになっているらしい。
本当に今さらだが、この男との関係が隊内にだだ漏れなことを実感し、土方はまたしても居た堪れないような気持ちになる。
「おめーも知ってのとおり、ウチにゃあ金がねーからよォ」
満足にプレゼントも買ってやれねーし、と何やら情けない表情で殊勝なことを銀時がこぼす。
そういえば、とゲーム開始前にも銀時がなにやら言いよどんでいたことを思い出した。
今の言葉から察するに、恐らく銀時は、真選組が総出で土方を祝おうと――こんな内容だが――しているのを知って、尻込んだのだろう。金がないからプレゼントも買ってやれない――そんなことを、申し訳なく思っているのかもしれない。
「……アホか」
思わず深いため息をこぼしてしまったほど、アホだと思った。土方からすれば、そんなことか、と呆れるしかない。
本当に今さらだ。銀時の懐具合も、何もかもが。
常に銀時が金に窮しているなんて、そんなこと、とうの昔に知っているし、納得尽くでそれでもこうして恋人として関係を続けてきているというのに、何を今さら。
大体にして、率先していたという沖田と近藤だって知っている。誕生日であり非番となっていた今日、その一日を土方が誰と過ごそうとしていたか。知っていて、こんな真似を仕出かした。
それは、あの気恥ずかしくて仕方ない装飾込みで、このふざけたゲームそのものが、沖田をはじめとした隊士たちなりの、嫌がらせをこめた祝いだからだ。それも、土方たちがクリアすることを前提にしてのものだろう。
――俺たちが全力で祝ってさしあげまさァ。
ふざけた方法を用いて全力で祝ってくれるというのなら、土方も全力で応じなければ、無粋だろう。
「あんなガキのお誕生会みてーなの、恥ずかしすぎてやってられっか」
だから、と今度は逆に土方が銀時の腕を掴んだ。
「――逃げんぞ」
ちらりと時計を見ると、残り時間はあと六分。行くぞ、と促すと、ぽかんと土方を見ていた銀時が照れくさそうな笑みを浮かべた。掴んだ腕をぐいと引かれ、触れるだけの口づけを落とされる。
「続きはウチで、ってことで――そんじゃあ行きますか」
「愛の逃避行だったか?」
「そうそう」
先ほどの銀時のたわ言を受けて土方が返すと、銀時は楽しげに笑った。
ちらりと視線を交わして、タイミングを計る。障子を開け、廊下に飛び出し、群がる隊士たちを蹴散らすその足は、真っ直ぐに玄関へと向かう。
絶対ェクリアしてやろうじゃねーか、と玄関を目指して駆ける土方の背中に、副長おめでとうございますー!、と叫ぶ隊士たちの声がぶつかった。