秋晴れの市中はとても穏やかだった。
空気は大分肌寒くなったものの日差しはあたたかく、風が通らなければうららかな小春日和そのものだ。
往来を行く人たちも、店先で呼び込みをしている店員たちも皆、のほほんとした空気をまとっている。とても長閑な昼下がりの光景だ。
だが、それらを微笑ましく見やりながらも新八は頬を引きつらせていた。隣を歩く男の穏やかでない気配が、のほほんとした周囲の空気との対比で一層刺々しく感じられて、どうにも居た堪れない気持ちになる。
不機嫌さを隠しもせず、ふてくされた態で隣を歩いているのは、新八の上司である真選組副長、坂田銀時だった。制服姿でそんな空気を撒き散らすのはどうなんだ、と組織の体面上不安にもなるが、既にチンピラ警察の異名がついている以上、今さらかとも思う。
今さらなのだろう――だが、勘弁してもらいたい。そんな男と市中見廻りを行わなければならない自分の精神面のためにも。
何事もなく無事時間が過ぎますように、と朝から新八はひやひやしながら願っていたのだった。
「なんだい銀さん、えらく機嫌が悪いねェ」
「あらやだ銀さん、おっかない顔して、どうしたんだい?」
かぶき町という場所柄、銀時の知り合いも多い。他の場所と違い、銀時が真選組の制服を着ていても、皆こうして気安く声をかけてくる。常なら銀時もそれらにへらりとした笑みで気安く返すのだが、今日ばかりはそうもいかないようだった。歩く先々でかけられる声に「あ? んなことねーよ」やら「どうもしてねーよ」やらと適当に返している。
だが、そんな返事をしておきながら、はっきり言って、不機嫌丸出しだ。そんな銀時を、そうかい? とどこか心配そうに見やる人たちの姿に、新八の方が心苦しくなる。堪らず「ちょっと」と小さい声で銀時を咎めた。
「……銀さん、仕事なんですからいい加減諦めてその顔やめてください。よけいに皆さん心配してるじゃないですか」
「あァ? うっせーよ眼鏡。その顔ってどの顔だよ眼鏡、黙ってろ眼鏡。つか仕事なんだからってなんだよ、まずそっからおかしいだろーが。俺休みじゃん、今日。なんで休みの日にまで仕事しなきゃなんねーんだよ、ふざけてんじゃねーぞ眼鏡。眼鏡割るぞ眼鏡。レンズ割ってフレームだけにすんぞ眼鏡」
「どんだけ眼鏡に恨み持ってんだてめェェェ! つーかそれ名前じゃねーし!」
銀時のあんまりな言葉にガアと喚いたものの――結局新八は深いため息で怒りを散じた。
「……仕方ないじゃないですか。近藤さんも土方さんも居ない以上、銀さんが休めるワケ、ないでしょう」
本日何度となく口にしたことを諭すように繰り返すと、銀時はケ、とそっぽを向いた。あからさまに拗ねているその姿に、子供か、と呆れる反面、銀時の気持ちもわかるだけに新八はそれ以上詰ることができなくなる。
銀時が面白くないと不機嫌丸出しなのも、仕方ないのだ。
今日、十月十日は銀時の誕生日である。そして、誕生日なんだから、と近藤の計らいによって銀時は今日、非番になっていた。
その休みが急遽変更になったのは、昨夜のことである。突然、近藤と土方が今日から京都へと出張しなければならなくなり、銀時の休みが取り消されたのだ。
なんでも京都にも真選組のような組織を置くそうで、そのために京都に出向いていた松平から、何やら手伝えだか意見を聞きたいだとかで近藤と土方が呼びつけられたのだそうだ。
昨夜、それを聞かされた銀時は当然の如く激怒した。冗談じゃねェぞふざけんな、と怒り心頭で断固拒否の姿勢だったのだ。
だが、なら代わりにお前が京に行くか、と土方に言われれば、それも嫌だと返す始末で、最後の方はただただ駄々をこねる子供のようだった。正直、そのあたりで新八の銀時に対する同情は一度掻き消えている。
最終的に土方の、仕方ないだろう仕事だ、という冷ややかなひと言で、銀時の異議はあっさり封殺された。
――書類仕事はあてにしてねーが、せめて見廻りくらいはしろよ。
何か条件でも出されたのか、そんなことを言いつけた土方に、銀時は渋々といった態でうなずいたのだ。
そして、近藤と土方は今朝方早く、京都に向かった――ということになっている。
新八は未だ不機嫌丸出しの銀時を横目で見やり、気づかれていないことに内心胸を撫でおろした。
まだ銀時に知られてはいけない。今、知られてしまったら、その報復の全てが新八にくる。そのさまがはっきりと想像できるだけに、尚さらだ。
だって、土方たちの出張など全くの嘘で、休み返上でこうして仕事をしていることがドッキリの仕掛けだと知ったら、銀時は怒るに決まっている。
とにかく誕生日に何かサプライズで銀時を驚かせたい、と言い出したのは神楽だった。ふつーにお祝いするのはつまんないアル、などとその丸い頬を膨らませ、何かしよう、と新八に持ちかけてきた。
――ビックリドッキリ大作戦アルヨ!
そんなことを言うくせに何をどうするかは思いつかないらしく、新八に作戦を立てろ、と無茶な要求をしてきたのだ。
そこに、そーいうことなら協力は惜しまねェぜ、と真っ先に乗ってきたのは、意外なことに沖田だった。ゾッとするような腹黒い笑みを浮かべていたあたり、サプライズで祝いたいというより、単に銀時を驚かせたいだけだろうと思われる。
――その手のネタなら、土方の野郎が上手ェこと考えやがるぜ。
沖田がそう嘯き、神楽がどうやって唆したのか土方を巻き込み、さらに話が広がってあれよあれよというまに――このひと幕ができあがっていた。
神楽たちに求められ、土方が具体的な案を出したのだ。
――なんでこんなときだけ妙にノリがいいんだ、あの人も……。
普段はツッコミ役にまわり、冷静に周囲を制する人がその役目を放棄したのだから、新八になど止めようもない。この作戦を聞かされたときの脱力感といったら、頭を抱えたくなったほどだ。
何故乗った、と思わず本人に言ってしまった――けれど笑みひとつで流されてしまった――くらい、できれば勘弁して欲しかった。
土方が一枚噛んでいる――どころか策を練った、など、銀時がそれを知ったらますます荒れるだろう。それが容易に知れるだけに、新八は朝から内心冷や汗ものだ。
銀時の不機嫌の理由が、誕生日だからと宛がわれていた休みが潰れたことよりも、今日この日に土方が居ない、という方が大きいと知っているから、よけいにだ。
本当に何故乗ったんだ、と脳裏に浮かんだ眉目好い笑みに内心恨みがましく愚痴をこぼしていたら、不意に新八の携帯電話が震えた。慌ててポケットから取り出せば、屯所からの着信を知らせている。
「――はい、志村です」
『……あのバカは一緒だな?』
「ひっ……!」
返ってきた声に新八は驚いて思わず名前を呼びそうになり、慌てて呑み込んだ。おかげでなんだか悲鳴をあげたみたいになる。それは、脳裏に浮かんでいた人物――土方だった。
何か計画が狂ったのかと思ったが、どこか緊張を含んだ声音から何事かが起きたのだろうかと不安になる。
「はい、居ます」
ちらりと隣の銀髪を見ながら答えれば、チ、と舌打ちが返ってきた。その土方の反応と、怪訝そうに見返してくる銀時の姿に、ああ、と新八はどうでもいいことを理解した。また携帯を持ち歩いていないのだ、この男は。
『今すぐそのバカと一緒にターミナルに向かえ。爆破予告が――』
全てを伝え聞く前に、携帯を取り上げられた。あ!、と新八が咎めるより早く、銀時がそれを自分の耳に押し当てている。
「――で? おめーは戻ってくんの?」
まだどこか拗ねたような口調で銀時が問うたのがそんなことで、新八は状況も忘れて呆れ返ってしまった。どんだけだ、と心の中でツッコミを入れる。
しらっとした目で新八が見やるなか、傍から聞いてる分にはどうでもよさそうな会話を交わした銀時は、
「――あいよ、りょーかーい」
と通話を終えた。
「……土方さん、戻ってくるんですか……?」
夕方、見廻りを終えて屯所に戻ると土方が居る――それも神楽たちとサプライズパーティの支度を整えて――という予定なのだが、事件が起きたらしいことから、引き返してきたという態でも取るのだろうか。
恐る恐る訊ねた新八に、
「あ? 知らね」
携帯を放り返しながら銀時が言う。
素っ気ない返答だが、その声からも表情からも、先ほどまでの不機嫌さは掻き消えている。わかりやすい変化に、どんだけだ――と新八は再び心中でツッコんだ。
「――ま、とにかくターミナルに急げ、だとよ」
行くか、と不敵な笑みでそう言った銀時とともに停めていた車に乗り込み、ターミナルへ向かった。ハンドルを握るのは銀時だ。
その車内にスピーカーから音声が流れ出したのは、あと十分も走ればターミナルに到着するという頃合だった。
『旦那と新八君はこのまま芝浦ふ頭に向かってください!』
スピーカーから聞こえてきたのは山崎の声だ。突然の指示に、新八は「は?」と目を丸くした。
「――どうしたんです? ターミナルは?」
『同一犯による爆破テロの予告です。ターミナルの方は八番隊と九番隊が向かったんで、芝浦の方、お願いします』
慌しくそれだけ告げると、スピーカーからの音は絶えた。一瞬静まり返った車内で、銀時と視線を交わす。
「……芝浦ふ頭か」
わずかに眉をひそめた銀時は、しゃーねェな、とハンドルを切った。ターミナルから江戸湾芝浦へと進路を変える。
だが、車を走らせあと少しでふ頭に着く、というところで再びスピーカーから声が聞こえてきた。今度は沖田の声だった。
『――旦那ァ、こっちは片ァついたんで、日本橋の方頼んまさァ』
「はァ!? もうふ頭に着くんですけど!? 現場に着いちゃうんですけど!?」
思わずといった風に無線機を睨みながら銀時ががなる。だが、返ってきた声は飄々としたものだった。
『今さら来られても無駄足踏むだけですぜィ。それよりそのまんま行ってもらった方が早ェんで』
そんじゃあ頼んます、とあっさりした声を最後に、再びスピーカーが沈黙する。
銀時は忌々しげに舌打ちした。分離帯が途切れているそのあいだから対向車線へと進入し、車を転回させる。苛立っているのがモロわかりな運転だった。
遠心力に振り回されながら新八も、なんなんだ、とこの状況を不審に思う。なんだかとても、嫌な予感がした。
そしてその予感どおり、その後も浅草だ四ツ谷だと振り回され、一度も現着することなくただひたすら東奔西走させられた。おかげで、わずかに浮上していたはずの銀時の機嫌は、すっかり元どおりどころかそれ以上に悪くなっている。
車内はピリピリとした剣呑な空気で満ちていた。それを息苦しく思っているうちに、気づけば陽が暮れかけている。おまけに車が走っているのが屯所の近くだったため、新八はいっそもうこのまま帰りたいとすら思った。
そこに、再びスピーカーから声がしたものだから、新八も銀時もがっくりと頭を下げてしまった。
『――山崎です』
「んっだよ!! 今度はどこだよ!!」
やけっぱちのように銀時が盛大に喚いたときだった。
ガガッとスピーカーからノイズがしたかと思うと、
『――やあ、愚かな幕府に仕える狗の諸君』
変声機を通しているとわかる、異質な声が届いた。
す、と銀時の空気が変わったのが新八にもわかる。
「――誰だてめェ」
『名乗るほどの者じゃあないさ。それに、名乗ったところで君たちはもうすぐなくなるんだから』
「あァ? んだてめェ、いきなりケンカ売ってんのか、あ?」
『我々からの贈り物は気に入ってくれたかな?』
銀時の言葉を無視して、機械的な声が笑っているかのように問うてきた。
贈り物――爆弾のことか。勘づき、新八は銀時を振り仰いだ。ちらりと視線を交わした銀時は、乱暴な口調からは想像がつかないほど冷静な目をしていた。
「ふざけんな、気に入るワケねーだろ。おかげでウチの奴らがキレーに潰してってくれてるもんだから、こっちゃあずーっとババ掴まされてイライラしてんだよ」
『でも、自らの足許には気づかないとは……愚かだねェ、実に愚かな狗だよ。君たちのような野良犬の群れなど、なくなったところで誰も惜しみはしないよ』
再び生じたノイズが意外なほど大きく車内に響く。それを耳障りに思い、顔をしかめたときには、機械を通した声も絶えていた。
「足許……?」
すっと新八は自分の足許に視線を向けた。まさか車の車台の下にでも取りつけられているのだろうか。
そんな推測に新八が青くなっていたら、銀時の硬い声が落とされた。
「――屯所だ」
新八がハッとして振り仰ぐのと、マイクを掴んだ銀時が指示を飛ばすのは同時だった。
「全員今すぐ屯所に戻れ! 爆弾が仕掛けられた、探し出せ!」
だが、スピーカーからはなんの音も返ってこない。銀時は盛大に舌打ちした。
「……回線やられたか」
ガチャン、とぶつけるようにマイクを叩き戻す。パトカーの無線回線そのものが犯人によって使えないようにされてしまったらしい。
クソ、と小さくこぼして――新八はふと思い出した。慌てて携帯電話を取り出す。かけた先は、着信履歴の一番上――土方だ。
土方はもののツーコールで通話に出た。
「大変です、屯所に爆弾が仕掛けられたようです!」
気ばかりが急いて名乗りもせずに状況を告げると、ああ、と至極冷静な声が返ってきた。
『さっきのならこっちにも聞こえた。今、屯所に残ってる隊士全員で爆弾探してるとこだ』
土方も屯所に爆弾が仕掛けられたことに気づいたらしい。既に動いていると知り、新八はホッと胸を撫でおろした。
「僕らも今から戻ります!」
それだけを告げ、通話を切る。銀時は既に屯所へと車を向けていた。
屯所までは五分程度の距離だったが、じりじりとした焦燥に苛まれていた新八には、その移動時間がとても長く感じられる。
屯所に着くと、中は騒然としていた。緊張を漲らせた隊士たちが、建物内を慌しく探し回っている。
「銀さん、僕たちも――」
「新八、外探せ」
「外?」
言うなり銀時は庭へと駆け出してしまった。そのあとを追い何故を問うと、振り返りもせず、多分な、と声だけが返ってくる。
「犯人がホイホイ中に入り込めるとも思えねェ。もし爆弾が配達されてたとしても、この状況じゃそんな不審な荷物、真っ先に誰かが確認してるだろうよ。だったら、外から投げ込まれてんのかもしれねェ」
だから、とそう指示する銀時に従い、新八は庭を探し回った。
犯人と思わしき人物の連絡から、既に十分ほどは時間が経っただろう。爆発までの残り時間はわからないが、そう悠長に構えてもいられないはずだ。
脳裏に浮かぶ最悪の事態に身震いしながらも、ソレらしい物がないかと目を皿にして探し、門側から始め、大広間の見える辺りまで来たとき、ようやくソレを見つけた。
松の木の根元に、両手で抱えるほどの大きさの箱が転がっている。慌てて駆け寄り、手に取って耳を近づけると、中からチッチッ、と秒針を刻むような音が聞こえた。ひっ、と思わず声を呑む。
「ぎ、銀さんありましたァ!!」
振り絞るように悲鳴じみた声を張り上げた。どこだ、と声がして、すぐに銀時が駆けつける。
「こ、ここここれ」
新八が手の中の箱を掲げて見せると、銀時がアホ!、とがなった。
「なんで持ってんだよ! 置け! 地面に戻せ!」
そっとだぞ、と注意を促す銀時にがくがくとうなずきながら、新八はへたり込むようにして箱を地面におろした。隣にしゃがみ込んだ銀時が、強ばった顔で箱に手を伸ばす。
新八のよりも大きな手が箱の蓋に触れ、それをそっと持ち上げようとした、そのとき。パアン、と軽い破裂音が幾つも響き渡った。
「ぎゃああああ!」
爆発だ――新八は思わず頭を抱え、地面にうずくまった。
だが、わずかに火薬の匂いがするだけで、体のどこも痛くない。
一体どうなったのか。おずおずと周囲を見回し背後を振り返り――新八はへなへなと地面にへたり込んでしまった。唖然と見やった先で、どでかいクラッカーを小脇に抱えた神楽と沖田が満面の笑みをたたえている。
「銀ちゃん誕生日おめでとうアル!!」
「おめでとーございやーす」
ふたりの後ろから、おめでとうございまーす! と追従する隊士たちの手にも、普通サイズのクラッカーが握られている。そして、隊士たちのその後ろには、小さく震えている黒髪が見えた。背中を向けているが、それは間違いなく――土方だ。震えているのは笑うのを堪えているからだと、はっきりわかる。そして、新八もまた、だまされたのだということも。
「ってちょっとォ! 計画と全然違うじゃないですか! なんですかコレ!!」
「……ホント、なにコレ、どーいうこと? 計画って、なにソレ、どーいうこと? ……つーか、んだコレ、あァ?」
だまされた憤慨から土方たちに詰め寄ろうとしたそのとき、隣から地を這うような声が聞こえてきて、新八は思わず固まってしまった。
恐る恐る顔を向けると、地面に座ったままの銀時が怒気を押し殺したような不穏な笑みを浮かべている。そんな表情で物騒な空気をまとっている銀時に新八は気圧され、声をなくした。はっきり言って、怖い。
けれど主犯格である神楽と沖田は臆した様子もなくハイタッチなど交わしている。
「サプラーーイズ! アルヨ」
「敵をだますにはまず味方から……てェ教えてくれたのは、旦那たちでさァ」
「大成功アル!」
しれっと返す主犯ふたりに、銀時は乾いた笑い声を落とした。
「そーかそーか、つまり昔のアレを根に持ってお返しにだましてやったってか。ドッキリ大成功ってか。いやー銀さんまんまと引っかかっちゃったわー、神楽ちゃんも沖田君も成長したのねー……って、おめーだろ! こんなメンド臭ェこと考えたのおめーだろコノヤロー!」
銀時がびしりと指差したのは、未だ笑いを堪えてる土方だった。大当たりアル〜、と神楽の暢気な声が響くなか、土方はハア、と笑いを鎮めるように息を落とすと、
「……途中で気づくかと思ったんだがなァ」
いっそ艶やかなまでに微笑んだ。
その言葉に、銀時がはァ!?、と喧嘩腰で噛みついた。
「どこでだよ! どこで気づけってんだよふざけんな!」
「市中はそんなに騒がしかったか?」
目を細めて土方が問う。あァん!? と銀時は凄んだが、しばし考え込んだかと思うとがっくりとその頭を垂れ下げた。
「……パトカー一台も見かけてねェよチクショー!!」
その姿に、神楽や隊士たちからどっと笑いがあがる。大成功ー! などと喜んでいる声までした。
だまされた悔しさやら一日の疲れやら気疲れやらなんやらが一気に押し寄せ、新八が地面にへばりついたまま黙していると、おーい、と近藤の暢気な声が届いた。
「料理届いたぞー」
目を向ければ、朗らかな笑顔で手を振って皆を呼ぶ近藤の姿が外廊下にあった。
「レッツパーリィアル!」
きゃほー、と真っ先に神楽が駆け出す。そのあとを、ひとりで食い尽くすんじゃねーぞ、と沖田がのんびりとした足取りで続いた。
隊士たちがぞろぞろと建物の中へ消えて行き、あとにはへたり込んだままの銀時と新八、そしてふたりを面白そうに見下ろしている土方が残された。
「――いつまで寝てんだ。行くぞ、主役」
土方が楽しげに声をかけ、手を差し出す。銀時は心底嫌そうな顔をしていたが、観念したのかその手を掴むと立ち上がった。近くなった距離で、土方が何事かをささやく。
バッと驚いたように土方を見やった銀時の顔が、じわじわと赤くなっていった。
「――んなセリフでごまかされてやるかっつの!」
そんなことを言い残し、銀時はひとりでずんずんと建物へ向かって行ってしまった。
荒い足取りだが、その背中から先ほどまでの怒りは感じられない。
「……いったい銀さんになんて言ったんですか?」
首をかしげて訊ねると、土方はくつくつと笑いながら「べつに」と新八を見やった。
「大したことじゃねーよ。今日なら皆、アイツに言うだろうことを言っただけだ」
いたずらが成功して喜ぶ悪ガキのような笑顔で、影の主犯はそんなことを言った。