ノット ラビットマン

 もう一週間だぞオイ――。
 じりじりとした焦燥に苛まれながら銀時は机に突っ伏した。
 人目を偲ぶお付き合い――などという、密かで甘ったるい関係を持つ相手との最後の逢瀬から、かれこれ一週間が経とうとしている。そしてそれ以降、会えない日々が続いていた。否、会うどころか、町なかでその姿を見かけることすらないのだ。これはおかしい、非常におかしい。
 最後に会った夜に何か原因でもあったか――と記憶を手繰り寄せても、いつも通りだったとしかいいようがなくて、ため息だけが出る。近々捕り物があるかもしれない、とは言っていたが、負傷しただとかニュースになっていないから、その身に何かあった、という訳でもないのだろう――と思いたい。
 町なかで見かけないどころか、連絡ひとつくれやしない相手をちょっとだけ恨めしく思うものの、彼の仕事を鑑みると不満以外のものが浮かんでくるから堪ったもんではない。危険な仕事だということは嫌というほど知っている。なにしろ泣く子も黙る武装警察、危険の最前線に飛び込んでいくのが仕事だ。
 そこの副長である土方十四郎がお付き合いの相手――なのだから、こうして音沙汰がない上に市街でも見かけない、という事態にやきもきしてしまっても仕方があるまい。
 黒電話を見つめながらうだうだと机の上に頭を転がしていたら、同じようにソファに転がっていた神楽がむくりと起きだした。
「銀ちゃん、定春の散歩の時間ネ。行くアルヨ」
「あー、新八とふたりで行って来い。俺ァそれどころじゃねーの、心が淋しくてやってらんねーの、兎だったらとっくに死んじゃってるぞ、コレ、どーしてくれんだコレ」
 出かけた先で今日は会えるかも、という期待が外れたときの失望たるや半端ない。思わず定春のふこふこな毛皮に身をうずめて、ちょっとーもーやだー、などと泣き言を繰り出したくなるくらいだ。
 そんな気分を味わいたくなくてそう言うと、なに言ってるネ、と呆れたように神楽が半眼になる。
「新八はお通ちゃんのコンサートだって、とっくに出かけたネ。銀ちゃん、聞いてなかったアルな」
 いいから行くアル兎男、とウンコ袋を突きつけられ、銀時は渋々腰を上げた。



 もうすぐ夕暮れに染め上げられるだろう界隈をだらだらと歩いていると、神楽が突然「あ」と足を止めた。何事かと振り返ると、少女はポカンとした顔で一点を見つめている。
「マヨラ? ……が、変アルヨ、銀ちゃん」
 落とされた聞き捨てならない言葉に神楽の視線を追うと、馴染みの団子屋その店先に、その人物はいた。ドS気質の部下と茶を飲んでいる。久し振りに見るその姿に心が弾み、思わず声をかけようとして――銀時の動きが止まった。確かに神楽が言った通り、変だ。
 固まっていると、不意に土方が顔をあげ、銀時たちの姿を認めた。途端、わずかに顔をしかめ、ぷいと逸らす。普段と変わらぬ態度、いつもの見慣れた光景だ。だが。見慣れた光景の見慣れた制服、見慣れた顔、そこにひとつだけ見慣れない――髪型。
「……ひじかたくん?」
 ぽかん、と口を開けて見つめる銀時に、土方は居心地悪そうに眉をひそめた。結われた長く艶やかな黒髪が、少しの動きにもさらりと揺れる。
 長い――髪?
「土方君んんんんんん!?」
「うっせェェェ! 俺だよ文句あっかチクショォォォ!!」
 どーしたー、とばかりに叫んだら、それ以上の勢いと音量で返され、「あ、間違いなく土方だ」と、なんだか安心してしまった。なにゆえその姿――という疑問は残るが、途端いつもの調子が戻ってくる。
「なになに、どーしたんだよ一体」
「本物か、本物アルかコレ」
 どっかりと土方の隣に腰をおろし、軽い口調で訊ねる。神楽などは早々に順応して、さらさらとしたその髪をいじって遊び始めた。土方が嫌そうに眉をひそめる。
「――オイ、やめろチャイナ」
「おおー、ツルツルで気持ちいいアルよコレ。いいなコレ」
「え、本物? つけ毛じゃなくて? 何事?」
 一週間前会ったときは、自分と変わらない長さだったというのに、わずかな時間でどうしてこうも伸びたのか。銀時が疑問に思っていると、言いたくないとばかりに口を閉ざしている土方の向こうから回答が返ってきた。
「この前の捕り物でヘマしたんでさァ、この人」
 呆れたように沖田が肩を竦めてみせる。土方の眉間がさらに深く刻まれた。

 沖田が言うには、四日前の捕り物は、武器やらクスリやらを密輸し不逞浪士に流した疑いがある廻船問屋に対してのものだったそうだ。不逞浪士との取り引きの日に、現場である倉庫を急襲し、捕り物自体はすんなりいったのだと言う。
 ただ一点、逃げようとした問屋の主が手当たり次第に薬品をぶちまけ、土方がそれをひっかぶりこうなってしまったことを除けば――と。

 それが劇薬じゃなくて良かったよ、と内心胸を撫でおろす銀時をよそに、沖田はつまらなそうに続ける。
「調べてみりゃあ、かけられたのは『カミガ・ノ・ビール』ってェ、育毛促進剤の一種でして。このザマはそいつの効用ってワケでさァ。つまらねー効用ですがね」
「すげー効き目じゃん、世のハゲたち大喜びじゃん!」
「パピーに送ってあげなきゃアルヨ!」
 やいのやいのと興奮する銀時と神楽に、いや、と沖田は首を振る。どこか神妙なその姿に、ふたりもはしゃぐのをやめた。
「こいつァ生きてる毛根にしか効き目はねェんでさァ」
「オイ……それって……!」
 ぽつりとこぼす沖田につられて銀時がシリアスな反応を返すと、神楽も「嘘ネ……」などと口許を押さえた。そのふたりに沖田は哀しげな笑みを向ける。
「死んだ毛根にゃあ、なんの効果もありやせん」
「ハゲは……ハゲのままなのか……」
「……仕方ないアル……一度死んでしまったものは、仕方ないアル……」
 がっくりと肩を落とす神楽をよしよしと慰める。
「諦めんじゃねーよ、この広い宇宙、きっとどっかに効く薬がある。おめーだけは信じてやれ」
 段々気分が乗ってきて、芝居がかった口調でそう言うと、土方の冷ややかな目が向けられた。
「楽しそうだな、そこのバカ一座」
 視線と同じ温度の声により、即興の一座は閉幕となった。はァい、と三人、口を揃えておとなしくなる。
「――ま、言ってしまえば髪が伸びちまっただけ、ってェなつまんねー顛末でさァ」
 ふい、と顔をそらして沖田が言う。そのどこか苛立っているかのような様子を訝しみながらも、でも、と銀時はさらさら揺れる土方の長い髪を見やり、根本的な疑問を口にした。
「伸びただけなら切りゃいいじゃん。なんでまだそのまんま? イメチェン? イメチェンかコノ」
「それァ近藤さんが――」
 言いさして、土方は顔をしかめた。口を噤んだのは、銀時がムッとしたのを感じ取ったためだろう。代わりに沖田が言を継ぐ。
「そりゃもう懐かしい懐かしい、ってェ大はしゃぎでして。昔を――武州にいたころや、江戸に出て来たばかりのころを思い出す、初心を忘れないためにもしばらくそのままでいてくれ、って、こーいうワケです。おかげであと三日はこのうっとーしい姿ァ見なきゃなんねーんでさァ。まあそれを飲んじまう土方さんも土方さんですがね」
「……へー」
 面白くない理由に銀時が目を眇めると、土方はケ、とそっぽを向いた。

 昔、土方の髪が長かったのは知っていた。
 たまたまお妙の店で一緒になった近藤が、目の前を通り過ぎた、黒く長い髪を高い位置で結った女性を見て、
「――昔のトシみてーだなァ」
 と、呟いたのだ。
 問い詰めたところ、昔の土方はあの女性のような髪形だった、江戸に出てきたときも長かったという。ではいつ切ったのか――訊くと、真選組を立ちあげたころだ、と近藤は答えた。
「ある日ふらっと出かけたと思ったらバッサリ切って帰ってきたんだよ、アイツ。そりゃーもう、皆ビックリだよ」
 理由を訊いたら、制服に似合わなかったから、と、あっけらかんと答えたのだという。

 かつてはそんな理由で髪を切った奴がねー、と銀時が胸中で不満を噛み殺していると、土方から疲れたかのような弱い声が落とされた。
「……近藤さんだけじゃねーだろ」
「そーですね、昔からいる奴らァなんだかんだ言って、皆懐かしがってますねィ」
「くくる位置まで押しつけやがって」
「それに慣れてたんだから、仕方ねーでしょう」
 当然だろうとばかりに返す沖田に、土方が珍しく口ごもる。でもよォ、などと言いよどみ、結局はため息を落として反論をやめてしまった。
 その姿が、なんだか途方に暮れているようで、銀時の眉根が寄る。この状況が居た堪れないのだろうか。
 それなら、と土方の耳許に顔を寄せた。
「――今日ウチ来ねェ?」
 制服を着ている土方を誘っても、いつもは非番の前日くらいしかうなずいてくれない。けれど、今日は乗ってくれるんじゃないか――そんな予感からささやけば、一瞬縋るような目をよこした土方は、小さくうなずいた。
 そうと決まれば話は早い。神楽に耳打ちし、今日はこのまま新八の家に行ってもらう段取りをつける。慣れたもので「五箱で手ェ打つアル」と、袖の下を強要する手口も堂に入っている少女は、定春を連れてひらりと雑踏に姿を消した。そんな神楽に内心手を合わせる。聡い上に、酢昆布五箱で手を打ってくれるあたりなかなかに慈悲深い。それでふたりきりの時間が手に入るなら安いものだ。
「ちょっとコレ借りるな」
 軽い調子で沖田に言えば、どうぞとばかりに手を振られた。
「煮るなり焼くなり坊主にするなり簀巻きにして江戸湾に沈めるなり好きにしてくだせェ」
 ひと息に言い放ったその反応は、予想通りのものだった。
 ――任せるからどうにかしろソレ。
 そう言っているとしか思えなかった沖田の言葉だが、土方には通じなかったらしい。
「簀巻きだァ!?」
「まあまあ――ってか坊主はいいのかよ」
 激する土方の腕を掴み、歩き出す。
 案外あれで沖田も様子のおかしい土方を心配しているみたいだよ、とは、言っても信じてもらえそうにないから黙っておいた。



 万事屋に着くなり、土方は安堵したようにホッと息をついた。その様子に苦笑が浮かぶものの、ちょっと、否、かなり嬉しい自分は随分いかれていると思う。
「もしかして屯所に居づれェとか?」
 銀時が部屋の箪笥から紺色の単衣――土方のものだ――を取り出して手渡すと、土方はいや、と首を振った。
「居づれェ、とか、そんなんじゃねーけどよ……」
 そう言いながらも表情は浮かないもので、「けど?」とその先を促しながらも銀時は急くことをしなかった。ややして単衣に着替えた土方が、まるで自分の姿を顕示するかのように両手を広げてみせる。
「――こんな格好してみろ、途端に昔話の始まりだぜ」
 口の端に浮かぶ自嘲めいた笑みが痛々しくて、倒れ込むようにソファに座った土方の隣に腰掛け、その体を抱き寄せる。すんなりと銀時の胸に身を任せた土方は、静かに視線を落とした。
「最初のうちは、それもいいかと思ったがな。確かに懐かしいだろうし、こんなこと、そうそうあるもんじゃねーからな。でも、一週間は長ェだろ」
「……長ェなァ」
 つーか長かったなァ、と内心独り言ちる。だろ、と銀時の本意を知らない土方はため息をついた。
「昔から知ってる奴らが懐かしがるのはいい。それで話が盛りあがんのもな。でも、そーじゃあねェ奴らにゃあ……ついてけねーだけだろ」
 ぽつりとこぼした言葉に、なるほどね、と銀時は納得した。実際、銀時も「そーじゃねェ奴ら」のひとりだ。その目の前で、たとえば沖田が言っていたように近藤がはしゃいでたりしたら、ムカついて殴っていたかもしれない。否、間違いなく殴っている。嫉妬と、そのころを知らない自分が抱く疎外感ゆえに。そして土方は、そういう思いを抱く者の存在を、気に病んでいるのだろう。
 近藤が言ったから――と、その望み通りにする土方がちょっとだけ腹立たしかった。だが、優しいよなァ、とも思う。自分にとってはどうでもいいことだけど、近藤や周りが喜ぶなら、と好きにさせたのだろう。それでいて、そうではない者たちのことも気に掛けて、ひとり思い煩うあたりが、土方らしい。とてもわかりにくい、けれど彼らしい優しさに、ほんの少しの嫉妬めいた感情と、それ以上の愛おしさがじわりと広がる。
「まァな、拗ねる奴がいてもおかしかねーわな。おめーのせいじゃねーけどよ」
「総悟の奴が言ってただろ。それを飲む俺も俺だ、って。それもそーだなって思ったら、なんかな……。どうせあと三日だ、そのあいだ我慢すりゃあいいと思ってたが――」
「切る?」
 長い髪を手遊びながら訊ねると、ああ、ときっぱりとした答えが返ってきた。決心したことで気持ちが晴れたのだろう、どこかすっきりとした表情で土方が勢い良く立ち上がる。するりと手から逃げていった髪の感触と、離れていったぬくもりを惜しんだ。
「見てェって奴らも、もういいだけ見ただろ」
「ちょ、待て待てつーか待て」
 今にも床屋に行きかねない土方の腕を慌てて掴み、ソファに引き戻した。勢い余って押し倒すかたちになってしまい、土方が顔をしかめる。
「なんだよ」
「まだここに居るんですけどー」
「なにが」
「まだもーちょい見てェって奴」
 銀時が言うと、土方は一瞬目を丸くし、次いで困ったように眉をさげた。
「――朝にゃあ戻らなきゃなんねーんだよ。その前に切っとかねーと」
「任せろ、超早朝だろーと、知り合いの床屋叩き起こしてやっから」
 床屋の親父にとっては傍迷惑な約束を口にすると、土方は諦めたように苦笑し、銀時を見上げた。
「おめーも大概物好きだな」
「どんな姿でも見てェって思うのが人情ってもんだろ」
 特に、どうしようもないほどに心を傾けている相手ならなおさらだ。この数日、ついぞ目にすることができなくてやきもきしていただけに、わずかな時間でも共にしたいと思って当然だろう。
 そう考えて、
 ――ん?
 ふと疑問が生じた。
 土方がこの姿になったのは四日前、捕り物があった日だという。その前の数日は、捕り物の準備やらなんやらで忙しかったとして、だ。ではその後の――今日に至るまでの数日はなんだったのだろう。
「――もしかして、見られたくなくて俺のこと避けてたとか?」
「は? なんの話だよ」
「だって、一週間も会えなかったじゃねーか。町で見かけることもなかったしよ」
 目を丸くする土方に、むう、とふくれて言うと、途端半眼になった。
「検査だなんだで、昨日まで仕事外されてたんだよ」
「連絡のひとつもなかったしよォ」
「べつにそんなのァ今に始まったことじゃねーだろ」
「それもそーだけど、そこがまずおかしくね? よこせよ連絡くらい。ガンガン行こうぜ、その辺は!」
 呆れが見える土方に食い下がるように言い募ると、深いため息を落とされた。
「そーかそーか、俺に会えなくてそんなに淋しかったか」
 言いながら頭を撫でてくれるのは嬉しいが、その表情も声音も憐れみを滲ませているだけに素直に喜べない。だから銀時はふくれ面のまま、顔を寄せた。唇が触れ合う、ぎりぎりの距離で、額を合わせる。いかにも拗ねてます――という態を装って。
「俺が兎じゃなくて良かったなー、感謝しろよチクショー」
「誰になにを感謝しろっつーんだよ。つーかなんで兎?」
「……俺が俺なことを俺に?」
「意味わかんねーから」
 バカだろお前、と土方が噴き出す。バカって言った方がバカなんですー、などと返しながら、唇を合わせた。ああやっと笑った――と、心の底から安堵して、その体を強く抱きしめる。
 込み上げる感慨に、ふと、淋しさで死んでしまうような性質じゃなくて良かった――と、たわけたことを真面目に思った。



 翌日、約束通り早朝に叩き起こした床屋の親父によっていつも通りの髪型に戻った土方は、さっぱりした顔付きで帰って行った。案の定、親父には散々文句を言われたが、土方のその表情だけで、全て世は事もなし、である。
 肩を落とした近藤とばったり出くわしたのは、その日の昼のことだった。心地よく惰眠をむさぼっていた川原の土手に、ゴリラがかもし出すどんよりとした空気が流れ、うんざりする。
「もー、まただよ! また誰にもなんにも言わずにバッサリだよあのコ!」
「どーでもいいってこったろ、本人にゃあ」
「――わかってるよ、トシがそんなことに頓着する奴じゃねーって。でもよォ、今回は皆で断髪式やろうって言ってたのによォォォ」
 近藤がおいおいと泣き崩れる。号泣だ。鬱陶しい。断髪式とかふざけるな。
「……だから先に切ったんじゃね?」
 そのメンツに沖田あたりが加わっていたら、どんな目に合わされるか知れたものではない。早々に切って正解だな、と内心独り言ちたら、じとりと恨みがましい目を向けられた。
「……おめーが手助けしたって聞ーたけどー?」
「おー、なんか困ってるみてーだったからよ、ちょーっと仕事持ちかけたら乗ってきたぜー、毎度ありー」
 あくまで仕事、とごまかしたが、土方が困っていたから、というのは本当のことだ。
「なんでそこで持ちかけるかなァァァ! バカァァァッ!」
「うるせェェェ! 人の商売にケチつけんなァァ!」
 喚く近藤に怒鳴り返しながら、おめーのせいだよ、と心の中でなじる。
 なんで――などと言われても、土方のあんな顔を見るのが嫌なのだから仕方あるまい。あんな、困ったような、どうしていいかわからない、とでもいうような顔。自分がさせるならまだしも、他の要因でだなんて、許せる訳がない。髪が長いとか短かいとか、そんな些事は二の次だ。
 近藤の嘆きなど、知ったことじゃない――というかむしろ、ざまァみろとすら思う。もっと嘆け、などと銀時が溜飲をさげていると、ひとしきり喚いてすっきりしたのか、近藤はあっさりと立ち直った。
「――まァ今さら済んだこと言ってても仕方ねェわな。今回は写真もいっぱい撮ったから、それだけでも良しとしなきゃな」
 つまんねェ、と舌打ちする銀時をよそに、近藤が聞き捨てならないことを言う。
「――写真だァ?」
「おう」
 見るか?、と手渡された携帯には、アホかと思うほど大量に土方の写真が入っている。今朝方までの姿の土方だ。他人の手もとにこんな写真が残っているだなんていただけない。後ろから抱いて、白い背中に流れる黒く長い髪が動きに合わせて揺れるさまを視覚的にも堪能したあとだけに、なんだかとってもいただけない。
 銀時が手にした携帯を川に投げ捨てるか、と考えていると、あ、と近藤が声をあげた。
「べつに俺だけじゃないからな! みんなガンガン撮りまくってたからな!」
 お妙さんに変なこと言うなよ、と慌てふためく近藤に、妙の写真――もちろん新八に撮ってきてもらう――との交換という手があるか、と一瞬迷い、ん?、と銀時の動きが止まる。
「みんなだァ!?」
 おう、と返す近藤の暢気な声に、ぐらりと怒りが湧く。土方の写真を持っている隊士をとッ捕まえてデータを全部消去して回る、など、やりたいが気の遠くなる話だ。何やってくれてんだ、と、自然、怒りは元凶に向かう。
「おめーのせいだバカヤロォォォ!」
「なになになんなのいきなりッ!」
 バカー!、と携帯を地面に叩きつけた。ぎゃー、と近藤の悲鳴があがる。
「ちょ、ソレ俺のォォォ!」
「こっちのセリフじゃァァァ!」
 狼狽える近藤の姿にも、怒りは収まらない。人のものをなに好き勝手にしてやがる、と滾る頭に、ふと感情を無視した妙案が浮かんだ。浮かんだものの、写真集にして売ってくださいお願いします――とは、さすがに言えなかった。

(10/10/22)