ファミリア

 ブオン、と塊みたいな排気ガスを吐き出して、新八たちを乗せてきたバスが走り去る。小さくなるまでそれを見送ってから、新八は横に立つ銀時たちを見上げた。新八の視線に気づいてか、銀時が地図と周囲の景色とを見比べる。
「――コレだな」
 行くかー、とだるそうに言った銀時を先頭に、バス停のすぐ横から伸びている細い小径へと足を踏み入れた。
 周囲は山深く、色鮮やかな緑が夏の風に揺れている。その葉擦れの音がやけにはっきりと聞こえるのは、江戸で耳にしているような喧騒がないからだろう。
 すげーなんもねェな、などと銀時が隣を歩く人物に声をかける。それに対し、山ん中の温泉なんてそんなもんだろ、と返したのは、新八でも神楽でもない。ふわふわ揺れる銀髪と同じくらいの高さで、さらさらと風になびいているのは、黒く真っ直ぐな髪だ。
 そのふたりの背中に、新八は奇妙な違和感を感じていた。見慣れない光景が絵空事のようで、まだこの現実について行けてないのだろう――自分でそう結論づけるものの、もやもやとしたものが胸につかえたままだった。


 それは約一週間前のことだ。神楽が商店街の福引で、一等の温泉旅行を引き当てて来たのだ。それも、家族旅行用のものだったのか、四名様ご招待、という太っ腹な内容だった。
 四名、ということで、最初はいつものように銀時と神楽と新八、そして新八の姉である妙の四人で行こう、という話になった。
 だが、妙にその話をすると、彼女は「折角だけど……」と困ったような顔で辞退した。どうやら勤め先の店で風邪が流行っているらしく、店の女の子たちが何人も寝込んでいるのだという。そのため、風邪もひかず元気な妙は、当分店を休めないのだそうだ。
 翌日、万事屋でそのことを告げると、銀時は何やら考え込み、神楽に至ってははっきりとわかるほどに落胆した。「えーーー」とソファの上でゴロゴロ転がりながら、駄々をこねだす始末だ。
「アネゴ行けないなんてつまんないアルー。新八ィ、お前アネゴと代われヨ」
「なんでだよ! ていうか、そしたら僕が行けなくなるんだけど!? アレ、それでも構わないってこと!? 僕行けなくても全然構わないってこと!?」
「おー、よくわかってるじゃねーか、ちょっとだけ見直したアルヨ。ちょっとだけな」
「正直だなオイ!」
「新八はおいとくとして、あとひとり、どーするアル? バーさんでも誘うアルか?」
 新八にとっては散々なことを言い捨てて、神楽が銀時に問い掛ける。それまで新八と神楽の遣り取りに珍しく口を挟まなかった銀時が顔をあげ、ゆるゆるとふたりの方を向いた。
「あの、よ」
 だったら――と、どこか緊張した面持ちで口を開く。その表情に、一体何を言い出すんだろう、と新八が知らず息を詰めると、銀時は「誘いたい奴がいんだけど」と続けた。なんだ、と思わず拍子抜けしてしまう。
「なんだ、そんなことですか……。いったい誰です?」
 そう問いながらも、長谷川か桂あたりを誘うのだろうと新八は思っていた。
 だから、銀時が物凄く言いにくそうにしながら、ようやくのことで「……ひじかた」と口にしても、一瞬、誰のことなのかわからなかった。
「ああ、ひじかたさんですか……。――って、え? 土方さん!? 土方さんって、あの土方さん!? 真選組の!? え、どうしてです!? そんな仲良かったですっけ!?」
 新八が知る限り、土方、という名の人物などひとりしか居ない。だがその人物は、こんな状況で誘いたい――などと、銀時が名を出すには、とても不適当な相手だ。仲が良いどころか、むしろ反対だろう。彼らが犬猿の仲だと思っているのは、新八だけではないはずだ。
 新八が驚愕もあらわに騒ぎたてると、銀時はばつの悪そうな顔でがしがしと頭を掻いた。
「いや……その――、な」
「そんな仲だからアルヨー、新八ィ」
 口ごもる銀時に代わって神楽が返答をよこす。その声に、は!?、と新八はもちろん、銀時までもが驚いた。
「そんな、仲……?」
「え、ちょ、神楽!? おま、知ってたってか!? マジで知ってたってか!?」
「当たり前ネ。なんべん私が新八ん家泊まれ、って追い払われたと思ってるアルか」
 確かにここ数ヶ月、神楽が志村家に泊まりに来る頻度が上がっている。そしてそれは、銀時が誰かを家に――しかも夜に招いているからで、つまりはそういう相手ができたのだろうと新八も察していた。そう、察してはいたのだ。だが、まさかそれが銀時と犬猿の仲――だと、今の今まで思っていた土方だったとは、想像だにしなかった。その上、旅行に誘いたい――ひいては新八や神楽に対して「そういう相手」だと告げるような真似をするだなんて。
 呆然とする新八の前で、銀時は悪あがきのように「いや、でもさ」などと神楽に言い募ろうとするが、少女のしらっとした目が冷ややかになるばかりだった。
「新八ん家泊まって帰ってくると、家の中ニコチン臭いアル。これで決定打ネ、ファイナルアンサーヨ」
「マジでか! ファブってたんだけど!? めっちゃ念入りにファブってたんだけど、臭いしたってか!?」
「してたアル。ごっさしてたアル。夜兎の嗅覚なめんじゃねーぞ」
「夜兎怖ェェェェェ!! つーか神楽が怖ェェェェェ!!」
 銀時が盛大に喚きながら頭を抱えてしゃがみ込む。夜兎の嗅覚が怖いのか、子供とはいえ女は怖い、なのかはわからないが、確かに新八もちょっと怖いと思った。銀時にほんの少しだけ同情する。
 その銀時はひとしきり喚いてみせると、諦めたのか腹を括ったのか、深々とため息をついた。
「……いや、まァ、うん。おめーらにもそのうち話そうと思ってたしな……」
 そんな前置きをして、銀時は土方といわゆる「そういうお付き合い」をしている、と告げた。だから、この温泉旅行に誘いたいのだ、とも。
「べつに、おめーらに見せつけようってんでも、認めて欲しいってワケでもねーけどよ。さすがにおめーらにまで隠しとくのはメンド臭ェっつーか……」
 銀時にしては珍しく歯切れが悪い。表情もどこか気遣わしげで、見慣れないそんな姿に新八までもがなんだか心許なくなってくる。
「だから、まァ……おめーらがアイツ居ても気にしねェってんなら、よ……」
 言いよどむように語尾が消えてしまい、新八は思わず神楽と顔を見合わせた。一瞬眉根を寄せた神楽が、次いでいつもどおりの飄々とした顔で「べつにいいアルヨ」とうなずく。それに続くように、新八もまた首を縦に振った。
「……僕も構いませんが……」
「でも私たちの前でイチャイチャしやがったらぶっ飛ばすから覚悟しろよコノヤロー」
 そんな遣り取りがあって土方を誘うことになったのだが、新八は正直彼がこの旅行に来られるとは思っていなかった。なにせ相手は武装警察真選組の副長だ。妙以上に忙しい人だということは、本人に聞くまでもなくわかっている。その土方が休みを取れるとも、こんな旅行などのために休みを取るとも思わなかったのだ。
 だが、土方は銀時の誘いを受け入れた――らしい。翌日、これまた言いにくそうに銀時が告げてきた。
 そうして本日、四人揃ってこうして宿へと連れ立っているのだった。


 前を行くふたりの背中をぼんやり眺めながら、新八は今朝の様子を思い出していた。
 今はふたりとも、なんでもないような顔で他愛もない会話をしているが、今朝早く万事屋で落ち合った土方は、どこか思い詰めたような硬い表情をしていた。先日見た銀時のようだ、と思えば、その銀時もまた強ばった顔をしていて、新八はなんだか落ち着かない気持ちになったのを覚えている。例えるなら、ふたりともなにかの宣告を待っているかのような、そんな表情だった。
 だからこそ、普段と変わらない態度で「早く行こうヨ! 温泉温泉キャホー!!」とふたりに声をかけた神楽に救われた思いだった。
 銀時と土方もそうだったのだろう。「おー、行くかー」と銀時はいつものように気のない声を出したが、その一瞬前、土方と視線を交わし、ふたり揃って小さく安堵の息をついていたのが見えたのだ。
 もしかしてふたりは、新八と神楽の反応を窺っていたのだろうか、と今になって思う。そして、その推測もまた、どこか居心地の悪さを覚えるものだった。
 実はフォローの人である土方はともかくとして、銀時が自分たちの顔色を窺うような、そんな素振りを見せるなど、不気味だとしか言いようがない。おまけに、事は銀時の色恋に関してなのだから、新八たちの感情など気に掛けなくてもいいだろうに、とも思う。
 そう、銀時の恋路なのだ――前を歩くふたりに改めて意識するが、やはり新八には絵空事のように感じられる。
 ――なんでこのふたりなんだろう。
 それが新八には不思議だった。
 このふたりに関しては、とにかく仲が悪い――という認識しかなかったのだ。町なかで顔を合わせても、巻き込まれた何かしらの騒動で偶然鉢合わせても、いつだって喧嘩腰な遣り取りばかりしていたはずだ。
 それが、いつのまにそんな関係へと発展させていたのか――それが不思議で仕方がない。
 銀時も土方も、大人の男だ。ダメな、とか、バカな、とか頭に付けたくもなるが、ふたりとも、歴とした男だ。土方など、以前近藤が「真選組一のモテ男」と言っていたように、女性からモテまくっているのも知っている。
 そんな人が銀時と――と思うと、どうにも現実味が湧かない。大体、銀時だって意外と女性にモテているのだ。ときおり爛れた女性関係をにおわせるようなことを口にしていたことからも、銀時が同性に対してのみ恋愛感情を抱くという性質とは思えない。その点では土方もそうだろう。沖田の姉とのことを、はっきりとではないが山崎から聞き及んでいる。
 そんなふたりが何故、お互いを選んだのか――。
 そんなことを考えながら小径を進み、橋をひとつ越えたところで、ようやく旅館が見えてきた。

 その宿はさほど大きくもなく、建てられてから結構な年月が経っているだろうと思われた。そこには古さというより、寂の趣を感じる。
 カラリと玄関の戸を開けると、宿の中はしんと静まり返っていた。入ってすぐ正面にある帳場にも、人の姿はない。
 今日の予約を入れた際、利用するバスの時間も伝えていたのだけど、と無人の屋内に新八が首をかしげていると、オイ、と銀時と神楽にせっつかれた。見れば、やれ、とばかりに顎で指図される。
「すみませーん!」
 僕かよ、と思いながらも仕方なしに大声を張り上げると、奥の方でガタン、と大きな音がした。何事かと目を丸くしているあいだもガタガタと何やら物音が続く。
 ややして、バタバタと足音も荒く駆けて来たのは、パッと見、どこのチンピラだ、と言いたくなるような風体の男だった。顔付きも恐ろしげで、新八などは思わずビビってしまったほどだ。
 そんな新八と、平然としている銀時たちに、男ががばりと頭を下げる。
「す、すみません、もうお着きになったとは……えーと、四名でお越しの坂田様、ですね?」
「え、あ、はい」
 なんだかファミレスで待たされたときみたいな奇妙な応対だな、と思いながらも新八がうなずくと、男は引きつった笑顔で新八たちを順に見やり――その視線が土方に移ると、ハッとわずかに目を見開いた。途端、男がうつむき加減になる。
 そんな態度に訝しく眉をひそめていると、男は「どうぞこちらへ」とさっさと歩き出した。慌てて履物を脱いでその背中を追うが、男は新八たちを待つ素振りもない。おまけに「こちらです」と部屋へ案内すると、そそくさと去ってしまうという有り様だった。
 男の不審な挙動に内心首をひねりながらも部屋にあがり、ぐるりと室内を見回す。通された部屋は、ごく普通の客室だった。十帖ほどの和室に、ゆったりとしたスペースの広縁がついている。
 腰をおろしホッと息を落とすと、温泉に来たのだ、という実感が移動の疲れを伴って湧いて――やはり変だ、という思考に落ち着く。
「――なんだか、様子が変ですよね」
 座卓を挟んで向かいに座った銀時へと声をかけるが、返ってきたのは、んー、という気のない声だった。その反応に目許を引きつらせる新八をよそに、銀時は卓上に置かれていた菓子を頬張りながら「そーいや」と隣に座る土方へと視線を向ける。
「なんかおめーのこと知ってるっぽかったけど、知り合い?」
「いや、見たこともねェ」
「ふーん。ま、おめー面割れてっからなァ、一方的に知られてんのかもな」
「そんなとこだろ」
 銀時と土方が、そう言葉を交わしながらちらりと視線を交わす。そこには色事を思わせるような熱はなく、そのことに新八は何故かホッとした。内心胸を撫で下ろしていたら、「どーしたネ」と広縁から外の景色を眺めていた神楽が振り返った。
「あやしーアルか? この温泉」
「いや、べつにそーいうワケじゃあ――」
「なら」
 そういう訳ではない、と言いかけた新八を遮り、神楽がにんまりと笑う。え? と思う間もなく、駆けて来た神楽に腕をがっしと掴まれた。
「探検するしかないアルな!! 行くぜ、ぱっつぁん!」
「え、ちょ、神楽ちゃん!?」
「あとは若いふたりに任せて邪魔者は退散するアル〜」
 からかうようにそう言うと、神楽は新八の手を引いて、部屋を飛び出した。背中に銀時の「オイ、おめーら!?」と驚いたような声がぶつかったが、神楽は軽やかに笑うだけで取り合わない。
 半ば――というかほとんど神楽に引きずられるようにして、建物中を駆け回る。ついには宿まで飛び出してしまい、新八は慌てて声を張り上げた。
「ちょっと神楽ちゃん、探検ってどこまで行くのォォォ!!」
「そんなもん決めてないアル」
「なら止まれェェェ! まずいいから止まれェェェ!」
 声の限りに新八が叫ぶと、あいよ、とようやく神楽の足が止まり手を放される。あまりにも急停止すぎて、新八の体は前方に吹っ飛ばされた。悲鳴をあげながら転がり、壁に激突する。
「ったァ……」
 傷む体をさすりながら周囲を確認すると、どうやら宿の裏手らしい。てっきり激突したのは塀かと思ったのだが、それは小屋の壁面だった。恐らく宿の物置小屋なのだろう。
「……で? なんか怪しそうなのあった?」
 とてとてと歩いてきた神楽にそう訊ねると、は? と神楽が小首をかしげる。
「怪しそーなのって、なんのことアルか?」
「オォイ! 探検って言ったの誰!? って言うか探検って――」
 新八が喚いたそのとき、がたん、と小屋の中から小さな物音が聞こえた。何事かと口をつぐみ耳を澄ませば、かすかに呻き声らしき音も聞こえてくる。
「――神楽ちゃん!」
「行くぜ、ぱっつぁん!」
 頼もしく言い放ち、神楽が小屋の戸を開ける。新八も後を追い、薄暗い中に足を踏み入れた。
 そこはやはり物置として使われていたようで、大小さまざまな箱やら行李やらが雑多に置かれている。否、まるでそこに投げ捨てられたかのようだった。
「……こっちアルな」
 物音を頼りに、神楽がぽいぽいと物を放り投げ、奥へと進む。すると、入口からは物に隠れて見えなかった人影が現れ、神楽も新八も驚いた。
 それは、縄で縛られ猿轡を噛まされた人たちだった。そんな姿で、五、六人ほどが床にうずくまるように転がり、新八たちを見上げている。
「大丈夫ですか!?」
 障害になっている箱を乗り越え、新八は一番手前にいた女性に駆け寄った。女性は青ざめた顔でうなずいたが、次の瞬間、
「んーー!!」
 大きく目を見開いた。恐怖に満ちたその視線は、新八の後ろに向けられている。
 バッと新八が後ろを振り返るのと、おやおや、などと笑い含んだ声が届いたのは同時だった。
「お客さーん、困りますねェ勝手にこんなトコ入られちゃァ」
 そう言い、ゾッとするような笑みを浮かべているのは、新八たちを案内した男だ。他にもふたりほどの男がいて、そのうちのひとりは、あろうことか神楽を捕らえている。
「神楽ちゃん!?」
 なんで、と新八は驚愕した。神楽なら、この程度の連中など余裕で撃退できるだろう。なのに神楽は「あーれー」などと棒読みの如く感情が篭っていない声をあげるだけで、抵抗ひとつしない。
「たーすけーてアールヨー」
「ちょっとォォォ! こんなときになにふざけてんのォォォ!?」
 新八が叫び、駆け寄ろうとすると、「動くな!」と男から脅された。歯噛みしているうちに、新八もまた男たちに捕らえられる。神楽とそれぞれ縄で縛り上げられ、女性たち同様、床に転がされた。
「このガキどもどうする? バラしちまうか?」
 男のひとりが新八と神楽を見下ろし、物騒なことを口にする。それを、いや、ととどめたのは、新八たちを案内した男だった。
「もう少し待て。人質に使えるかもしれねェ」
 そんなことを言い、男たちは小屋をあとにした。ご丁寧にも、神楽が避けた障害物を再び元に戻して行く、という周到さだった。
 男たちの気配が遠くなるのを待ち、神楽が女性に近づく。「ちょっと我慢ヨ」と言うなり、彼女の猿轡をぶちりと歯で噛み切った。
「オイ、お前たちココでなにしてるネ。さっきの野郎ども、何者アルか」
 神楽が問うと、深呼吸を繰り返していた女性は、実は――と口を開いた。
「私はこの宿で女将をしております。こちらは板長の主人と、番頭の――」
 女性――女将が言うには、ここに閉じ込められているのはこの宿の人たちで、先ほどの男たちは未明に宿へ押し入ってきた強盗だった。
 宿中の金品を漁り、さらには板場の食材を食い散らした男たちによって、いよいよ始末されそうになっていたところに新八たちが到着したため、慌てた男たちがこの小屋へと押し込めたのだという。
 到着したときに聞こえた物音の正体がわかり、納得する。その一方で、女将の言葉に新八は段々と不安になっていった。
 土方を見て驚いていた男が、実は宿に押し入った強盗で、その男は新八と神楽を「人質」と言っていた。それは、銀時と土方に対しての人質、という意味だ。恐らく銀時が言っていたように、男は土方を見て真選組の副長だと気づいたのだろう。
 あの男たちが銀時や土方に害をなそうをしたところで、まず間違いなく返り討ちにあうだろう、と容易に想像がつく。だが、もし新八たちを盾に取られたら――そう考えると、一抹の不安が拭いきれなかった。
 新八がひとり青くなっていると、その様子に気づいたらしい神楽が「新八ィ」と声をかけてきた。
「銀ちゃんとマヨラなら心配ないネ。アイツらならあんな雑魚ども秒殺アル」
「でも、僕らを人質に取られたら、銀さんたち不利じゃない?」
「そんなモンでおとなしくするよーなタマじゃねーだろ」
「……そう言えば、なんでおとなしく捕まったのさ。神楽ちゃんこそ、そんなタマじゃねーだろ」
「かよわい女の子に向かってなに言うアルか、このメガネ」
「かよわくねーよ! 全ッ然かよわくねーよアンタ! むしろ最強だよアンタ!」
 思わずツッコミを入れたら、神楽の足が飛んできた。脛をしたたか蹴られて、息が止まる。
 やっぱり全然かよわくない、と恨みがましく思いながら新八が痛みに呻いていると、ケ、と吐き捨てた神楽がややしてため息をついた。
「……サービスアルヨ」
 ぽつりと落とされた声はどこか弱々しくて、新八は目を丸くした。新八の顔を見、神楽が眉を下げて笑う。
「……新八、前言ってただろ? アネゴが心底惚れて連れて来たんなら、誰だっていい、って。アネゴが幸せになれるなら、それでいい、って。それ、ちょっとわかったアルヨ」
「……神楽ちゃん?」
 確かに神楽の言った言葉は、新八自身も覚えている。だが、それがどうしておとなしく捕まったことと、サービス、などという言葉に繋がるのかがわからない。
 新八が困惑に眉根を寄せると、神楽は「ホントはちょっと嫌だったアルヨ」とぼそぼそと続けた。
「きっと、マヨラじゃなくても嫌だったヨ」
 マヨラ、のひと言で、ようやくなんのことかが知れた。ぱちりと目をしばたたかせる新八に、神楽がうん、とうなずいてみせる。
「銀ちゃんはみんなの銀ちゃんアル、万事屋の――私たちの銀ちゃんアル。ずっと、そう思ってたネ。だから嫌だったアルヨ」
 その気持ちは、新八にも理解できた。なんだか自分たちが蚊帳の外に追いやられたようで――置いてけぼりにされように思えて、どこか淋しかった。面白くなかった――嫌だった。
 ああそうか、と新八はようやくそこで、自分の感情を理解した。
 銀時と土方、そのふたりの姿に感じていた、もやもやとした感情は、やきもちだ。それも、蔑ろにされたようで面白くない、などという子供じみたものだ。
 自分たちを窺うような素振りを見せる銀時たちに、居心地の悪さを感じていたのも事実だが、それ以上にそんな我が儘な感情を抱いていた。
 己の内にあった複雑な思いを確認し、新八は情けなく眉を下げる。すると神楽は、でも――と淋しげな笑みを浮かべた。
「あんな銀ちゃん見るのは、もっと嫌だったアル。情けねーツラしやがって、あのマダオ」
 可愛くないことを言いながらも、神楽の姿はどこか辛そうだった。神楽もまた新八と同じく、複雑な感情を抱き、そんな自分を情けなく思ったのだろうか。そう察し、新八は素直にうん、と同意した。
「……不気味だよね、銀さんが僕らの顔色見るなんてさ」
「槍降らないのがおかしいくらいアル」
 言うと、神楽はフン、と鼻を鳴らした。
「だから、ちょっとだけサービスタイムくれてやったネ。ふたりっきりでしっぽりやればいいアル」
 意味をわかっているのかいないのか、いつもの調子でそんなことを言う少女にハハ、と頬を引きつらせて苦笑しながら、でも、と新八は頭上を見上げた。
 夏至を過ぎたとはいえ、まだ日は長い。山の向こうに太陽が沈んでも、空が明るさを残しているのは、天井近くの高窓から見える色でわかった。だが、既に夕刻を過ぎていることだろう。
「……さすがに心配してるんじゃない……?」
 この小屋に閉じ込められてから、もうかなりな時間が経っている。新八がそう言うと、神楽はこてりと小首をかしげた。
「そろそろ一発くらい終わってるアルか?」
「オイぃぃぃ! やめて! そーいう生々しいこと言うのやめて神楽ちゃん!! 大体どっちがどっちだよ!!」
「そんなもん――」
「やめろォォォ! 言っちゃったけど訊いたワケじゃないから! 言っちゃったけど答えるのやめて!! ホントマジ勘弁してくださいごめんなさい!!」
 縛られたまま、新八が地面に額をつけんばかりに頼み込むと、神楽のしらっとした目が向けられる。
「これだからメガネはダメアル。このダメガネが」
 メガネ関係ねーだろ! と喚く新八をよそに、神楽は「えいや!」と可愛らしい掛け声をあげた。と同時に、彼女を拘束していた縄がいとも容易くぶちりと切れる。新八が唖然として見やるなか、神楽は楽々と新八や女将たちの縄を引きちぎっていった。
 やっぱり全然かよわくなどない――否、かよわくない神楽だからこそいい、と新八が再認していると、きょろきょろと辺りを見回した神楽が「……面倒アルな」ぽつりと呟く。嫌な予感に、なにが? と新八が問う間もなく、神楽の拳が女将たちの背後に繰り出され、壁をぶち抜いた。
「オイぃぃぃ!」
「物どかすの面倒アル。こっちのが手っ取り早いネ」
 面倒、という理由での破壊行動に新八は青くなる。だが、当の神楽は悪びれもせずにあっさり言い放つと、自分が開けた穴をくぐって行った。続いて外へと抜ける女将たちが、いいから、と咎めなかったのが救いだった。
 新八がしんがりで全員外に出ると、空はもう暗くなりかけていた。これからどーするネ、と神楽に問われ、新八は女将たちを見やる。
「……女将さんたちは、いったんどこかに身を隠しててください」
 身を護る術もないだろう女将たちを抱えて、銀時と土方に合流するのはとても不可能に思えた。それなら、自分と神楽のふたりだけで銀時たちを捕まえる方が確実だろう。あのふたりにかかれば、強盗団を殲滅することなど容易いはずだ。否、神楽ひとりでも容易いとは思う――。
 新八がそんなことを考えていたら、不意に「オーイ」と声が聞こえた。
「チャイナー、メガネー、どこ行きやがった」
 もうすぐ飯の時間だぞー、と新八と神楽を探す声は、土方のものだ。それが、小屋の反対側――入口側の方から聞こえてくる。
「よかった、これでもう安心ですよ!」
 銀時たちを探して合流する手間が省けた、と新八は安堵した。その気配が伝わったのか、女将たちもホッと息をつく。だが、女将たちを連れ、小屋を回って入口側に行こうとした新八を、シッ、と神楽の小さな手が制した。
「……待つアル」
 常になく真面目な声で押しとどめると、神楽は足音と気配を殺し、壁に張りつくようにして移動した。戸惑いながらもそれに倣い、新八と女将たちも息を殺して彼女の背を追う。神楽を真似てそっと入口の方を覗いたと同時に「お待ちください」と聞きなれない男の声がして、新八は思わず飛び上がりそうになった。
 だがその声は、新八に向けられたものではない。覗き見た先、ガラの悪そうな男たちに囲まれているのは、土方だった。
「お客様、こちらは従業員以外は立ち入り禁止でして――」
 そう言い、新八たちを部屋まで案内した男がずい、と足を踏み出す。その男を胡散臭げに見やり、土方は「ああ?」と煙草の煙を吐いた。
「立ち入り禁止だとか、どこにも書いちゃいなかったがな」
「でも規則は規則なんで」
 言うと、男は懐から匕首を取り出し、土方に向けた。
「禁を破った代償に、アンタの首ィ取らせてもらいますよ――真選組の副長さん」
 土方を取り囲んだ男たちが、全員武器を取り出す。やはり、土方が真選組副長だと気づいていたのだ。新八がハラハラと見つめていると、男たちを見回して土方は鼻で笑った。
「やっぱり、カタギじゃねェな、てめーら」
 煙草を落として足で踏み消すと、土方はギッと男たちを睨みつけた。一瞬で土方の空気がガラリと変わったのが新八にもわかる。
「――ウチのガキども、どこにやった」
 怒気もあらわに土方が凄む。その言葉に、新八は胸を打たれた。
 ウチの――と、土方はそう言った。それは単に、連れ、という意味でしかないのかもしれない。だが、それでも――嬉しかった。
 神楽も同じように思ったのだろう、「なーに銀ちゃんみたいなコト言ってるアルか、アイツ」などと可愛げのないことを言いながらも、どこか照れ臭いような、そんな顔をしている。
 もっとも、新八も同じような顔をしていることだろう――そんなことを思っていたら、背後から、お、と聞きなれた声がした。
「なんだ、おめーらこんなトコに居やがったのかよ……って、そちらどちら様?」
 ビクリとして振り返ると、そこに居たのは銀時だった。
「銀さん!」
「銀ちゃあん! コレ、ここの女将とその愛人ネ」
「違うから! ご夫婦だから! こちらご夫婦と従業員さんだから!!」
 適当なことを口にする神楽に習性としてツッコミを入れてから、新八は肝心なことを思い出した。慌てて銀時を振り仰ぐ。
「あ、銀さん大変です! 向こうで土方さんが、ひとりで強盗たちに囲まれてて……!」
「あ? 土方? べつに平気じゃね?」
 だが銀時の返事はいつもどおりの飄々としたもので、勢い込んだ分だけ気勢を削がれた。へ? とポカンとする新八をよそに、銀時はひょこ、と顔を出して入口側を覗くと、やっぱな、などと独り言ちる。
「ホレ、もう終わってら」
 銀時に釣られて新八も覗き込めば、確かにもう終わっていた。ひとり無傷で立つ土方の足許に、強盗たちが転がっている。
 その光景を呆然と見つめていると、振り返った銀時が首をかしげた。
「つーか強盗?」
「あの、実はこの温泉に強盗が――」
「あー、メンド臭ェからそーいうことは直接お廻りさんに説明しろ。おーまわーりさーん!」
 銀時は自分から訊いたくせに、新八が説明しようとするのを遮ると、面倒臭そうに頭を掻きながら土方に声をかけた。
 その声に振り向いた土方が、新八たちの姿を認めて――思い切り呆れ顔になる。
「おめーら、んなトコでなにしてんだ」
「女将救出劇アルヨ、神楽ちゃん大活躍アルヨ! 存分に褒めるがいい、トッシー!」
 神楽が跳ねるように土方のもとへと駆けて行く。その勢いに若干気圧されながらも、土方は眉をひそめた。
「トッシーじゃねェよ」
「ああ、トシにゃんだったアルな」
「それも違ェ! つーか誰から聞いた!」
 おめーか!?、と土方が銀時を睨みつける。俺じゃねェって!、と銀時は慌てたようにかぶりを振った。
「トシにゃんが嫌ならトッシーで手ェ打つヨロシ」
 嫌ならトシにゃんアルヨ、とにやにや笑う神楽に、土方は顔をしかめながらも、諦めたらしい。深々とため息をこぼし、神楽の頭をぽん、と叩く。
「……妙なトコでこんなのの影響受けてんじゃねーよ……」
「こんなのって、もしかしなくても俺のこと!?」
 こんなの呼ばわりされた銀時が喚くのを無視して、土方は新八へと視線を向けた。その意味するところを正確に読み取り、
「えっと、実はですね――」
 新八は事の仔細を説明しだした。


 女将たちを先に宿へと戻し、強盗共に縄をかけて小屋に放り込むと、土方は屯所へと連絡を入れた。相手は山崎だろう、宿の場所と事情を説明し、近くの番所から人を寄越すよう告げる。
 通話を終えた土方に、伸びをした銀時が「これで終了?」と訊ねると、ああ、と肯定が返ってきた。
「あとは奉行所に任せる」
「ん、なら俺らも戻るかー」
 温泉に来たってのにちっとも癒されねェよ、などとぼやきながら、銀時が宿の方へと歩き出す。たしかにな、と同意した土方が、その隣を歩く。
 並んで歩くふたりの背中を見つめる新八のなかには、もうもやもやとした感情はなかった。今なら手をつながれても、呆れはするかもしれないが動じることはないだろう、とすら思う。そして。
 ――あれ?
 唐突に、ふたりが手をつなぐどころか、新八たちの前では接触すらしていないことに気づいた。
 今も銀時と土方は、ただ並んで歩きながら言葉を交わしているだけだ。その姿は、傍から見ている分には、とても恋人同士には見えない。
 けれど、ふっと垣間見えた銀時の土方を見る表情は、愛しさが滲み出ている穏やかなもので、他人の恋路だというのに新八の胸も締めつけられるようだった。
 ふたりのことを認めて欲しい訳ではない、とあのとき銀時はそう言った。
 表面上はどうあれ、認めて欲しくない訳はないだろう、と思う。だが、もしかしてそのときの銀時は、知って欲しかっただけなのかもしれない――新八はふと思った。
 男同士ということも相俟って、大っぴらにはできない関係だろう。心無い連中にだったら、どんなことを言われるか、知れたものではない。それでも――新八たちには知っておいて欲しかったのではないだろうか。
 自分たちのことを、自分たち以外の者に――間違いなく惚れ合い、付き合っているのだと。
 そう考えると、そのささやかな願いが、なんだかとても遣る瀬無く思えた。大声で言いふらして認めさせればいいだろう、と癇癪を起こしたくなるような、泣き喚きたくなるようなもどかしさを覚える。
 ――だって、
 だって、銀時と土方だ。ずっと、犬猿の仲だと思っていたふたりなのだ。そのふたりが恋仲にまで進むのに、どれだけの葛藤や覚悟があったのか――それは新八の推察でしかないが、すんなり行く訳がないことだけはわかる。そして、新八たちにその仲を告げるのに、どれだけ銀時と土方が不安そうにしていたか――つい数時間前まで実際その姿を見ていたのだ。
 だから。認めさせればいいだろう――そう喚く自分がいる。けれど、そうもいかない、と冷静に判じる自分もいて、新八はますます遣る瀬無くなる。
 きっと簡単じゃないのだろう――未だ子供の域を出ない新八には、そんな漠然とした言葉でしか想像ができない。けれど、大人であるふたりには、もっと現実味を帯びた問題として、様々な事象が浮かんでいるのだろう。
 それがとても遣る瀬無くて、切なくなる。簡単じゃない、とわかっていても、それでも――。
 だったら――と新八は決意を噛み締めた。
 ずっと覚えている。絶対に忘れない。
 そして、もし、心ひとつで――気持ちだけで護れるものがあるとしたら、このふたりのそんな秘めやかな想いを、ふたりの結びつきを、護り抜こう。この先、誰がどんなことを言おうとも、ふたりにどんな難事が降り注ごうとも、新八だけは、絶対に。この心の全てで、護り抜く。新八にできることなんて高が知れているけれど、それでも――決めた。
 どうしてか浮かびそうになる涙を堪えながらそう心に誓っていると、不意に視線を感じた。そちらへと目を向ければ、神楽がじいっと新八を見つめている。
 気恥ずかしさをごまかすように小さく笑えば、神楽もまた、ちょっとだけはにかむように笑みをこぼした。
 幸せになれるなら、それでいい――その気持ちがわかった、と言った少女もきっと、新八と同じような思いを抱いているのだろう。新八にはそう思えた。


 新八の見当どおり、時刻は疾うに夕刻を過ぎていた。本当ならもう夕食の時間だろう。だが、女将たちは解放されたばかりで、食事の支度などできていない。
 女将は、急いで夕餉の支度をするが、少々時間がかかるから先にゆっくり温泉につかってきてくれ、と申し訳なさそうに頭を下げた。気にしないでくれ、と制しながらも、まだ湯に浸かっていなかったこともあり、新八たちはその勧めをありがたく受けることにした。
 聞けば銀時たちもまだ温泉に入ってなかったという。何故かを問うと銀時は「こんなあやしーところでマッパになれっかよ」とあっさり答えた。
 銀時も土方も、最初から怪しんでいたらしい。その上、神楽と新八が探検と称して出て行ってしまったものだから、心配して――特に土方が――余計に温泉どころではなかったのだという。
 そうして男湯と女湯とにわかれて温泉を堪能した四人は、現在だらだらと部屋で転がっていた。もとい、転がっているのは銀時と神楽だけだが、だらけた空気は全員共通だった。朝からどこか気配が硬かった土方も、浴衣姿ですっかりくつろいだ様子だ。
「……定春も連れて来たかったアルな……。一緒に温泉、入りたいアル」
 伸ばした足を行儀悪くばたばたさせていた神楽が、不意にぽつりと呟いた。気持ちはわかるが、どだい無理な話だろう――新八が困って苦笑すると、銀時も無理無理、とばかりに手を振る。
「しょーがねェだろ。あんなデカイのが入れるペット風呂なんて、あるワケ――」
「――探してみる」
 銀時の声を遮ったのは土方だった。銀時がきょとんと傍らの人物を見上げる。
「……ひじかた?」
「ペット風呂はねェかもしれねーが、家族風呂付きで犬入れても許してくれるトコならあるかもしれねェだろ」
 江戸に戻ったら探してみる――そう続けた土方の言葉に、がばりと起き上がった神楽の顔が輝いた。
「また皆で温泉アルな!」
 それは心の底から嬉しそうな笑顔で、見ている方まで心がほんわりと温かくなる。
「今度はアネゴも来れるといいアルな!」
 満開の笑みで神楽が言うと、銀時はオイオーイ、と呆れ顔になった。
「なんっか順調にコブが増えてってるんですけどォ!?」
「銀さんたちとは部屋を別にしますから、それでいいでしょう?」
 非難がましい銀時に新八はにっこりと笑ってみせる。言外に「邪魔しないからしっぽりやってろ」と含ませると、土方はもちろんのこと、銀時までぐ、と言葉に詰まった。じわじわと顔が赤くなっていくふたりの姿に、神楽が半眼になる。
「今さらテレてんじゃねーヨ、マダオどもが」
「あ、でも今日は僕も神楽ちゃんもいますんで、勘弁してくださいね、マジで」
「あ、新八ィ、どっちがどっちか、わかったアルか?」
「いや、そこまで踏み込みたくないから僕。わかってても言わなくていいからね、神楽ちゃん」
「だからお前はダメガネなんだヨ。だから童貞なんだヨ。女のひとりもコマせないんだったら銀ちゃん見習って野郎のひとりも押し倒してコマせヨ」
「だから言うなっつってんだろォォォ!」
 神楽の無遠慮な言葉がぐさぐさと突き刺さる。新八が涙目になりながら叫ぶと、だあああ、とかいう奇声を発しながら銀時が起き上がった。
「もうやめてェェェ! 土方君、初心なんだからやめてあげてェェェ!」
「うっせェ誰が初心だ! つーかテメー、ほんっといい加減にしろよ!? 思いっきりテメーの悪影響出てんだろーがチャイナに!!」
「俺ェェェ!? 矛先俺ェェェ!? ってかコイツがこうなのは最初っからで俺のせいじゃねーよ!」
「銀ちゃん私の前でも下ネタばんばん言うアル。ごっさ悪影響だろ、原因おめーだろ」
 冷ややかな目で銀時を見やる神楽に、つーか、と土方が妙に真剣な顔を向けた。
「チャイナ、おめーも少しは恥じらいとか慎みとか、覚えろ。少しでいいから、マジで」
 むしろ頼むから、と真顔で土方が続けると、あー、と銀時が暢気な声を神楽に投げる。
「んじゃあ丁度いいから、その辺のことは土方君に教わりなさい。コイツの恥らいっぷりマジ半端ねェから。余計煽られるだけだっつーのに、いつまでたっても恥じらいっぱなしで銀さんの銀さんが大変だから。ってかおめーら足して二で割ったら丁度いいんじゃね――」
「その前にテメーもちったァ人並み程度の慎みを身につけやがれェェェ!」
 ガキどもの前でなに言ってやがんだァァ!、と土方の拳が炸裂した。ぐげ、と銀時が畳の上に潰れると、イエーイ、と神楽の陽気な声があがる。
「トッシーやっちまえー。ボッコボコにすればいいアル」
「神楽ちゃぁぁあん!? 銀さんになんか恨みでもあんのお前ェェェ!」
 ぎゃあぎゃあ喚いていると、女将がやっと夕餉の支度ができたと知らせに来た。対応した新八ごしにその騒ぎを見て、女将が思わず、といった風にころころと笑う。その笑みに釣られ、新八も笑ってしまった。

 ――また皆で温泉アルな!
 神楽が言ったように、また、皆で温泉に来れるといい。
 今度は福引で当たったから、という理由ではなく、そう――言うなら家族旅行として。そうして皆で来れるといい。

 未だ喧しい三人を見ながら、新八はそんな未来を想像する。
 それは、とても胸があたたかくなる予想図だった。

(12/08/12)