メリーメリー


「いい加減にしろクソガキどもォォォ! 悪りィ子は取って食うぞー!」
 通りの角を曲がったと同時に、男の不穏な怒声とそれとは対照的にきゃーー、と楽しげに笑う子供たちの歓声が聞こえてきて、土方は思わず足を止めた。
 聞き覚えのある声だ、と怒号がした方を見れば、サンタクロースの衣装に身を包んだ男が立て看板を片手に、しっしっ、ともう片手を振っていた。物騒なセリフを放っていたが、追いやられているはずのクソガキども――もとい子供たちは、きゃらきゃらと弾んだ笑い声をあげながら、サンタの周りをうろちょろしている。傍から見れば戯れているとしか思えない、微笑ましくすら見える光景だが、サンタにとっては迷惑なのだろう、「いいから帰れっておめーら」などと仁王立ちで威嚇している。
 子供たちはひとしきりはしゃぎ回ると気が済んだのか、バイバーイとサンタに手を振り、通りを駆けて行った。その背中に「サンタなめんなよー!」などと大人げない声を張り上げたのは、作り物の白いヒゲをつけてはいるがどこからどう見ても良く知る男で、土方はオイオイ、と呆れ返るしかない。
「――んな物騒なサンタなんて聞ーたことねーよ」
 取って食うってなんだよそりゃ――深々とため息を落とすと、そこで土方に気づいたらしいサンタが「ああ?」と胡乱気に振り返る。
「なに言ってんだ、冬の風物詩だろー? 悪りィ子はいねがー、って」
「そりゃサンタじゃねーよ。つーかなまはげも子供取って食わねーよ」
「ああ、ヘソ取っちまうぞー、だったか」
「それも違ェ」
 一体何から知識を得ているのか。土方が呆れもあらわに否定すると、物騒なサンタ――銀時はそれには取り合わず「――にしても」と憐れむような目を土方に向けた。
「こーんな日にまでお仕事とはねェ、副長さんったら淋しいクリスマス送っちゃってまぁ」
「いや、おめーに言われたくねーっつーか、おめーだってこんな日に仕事してんじゃねーか」
 珍しく、と続ければ、いや最後のひと言余計だからね、などとサンタから物言いがつくが、お互い様だという点には同意のようだった。しゃーねェじゃん、などとぶつぶつこぼしている。
 もっとも、こんな日にまで――などと銀時が言うのも、わからないでもない。なにしろ今日は世間一般的にクリスマス・イブ――などという、一種の祭りごとめいた日なのだ。
 だが、それがなんだ、というのが土方の正直な感想だった。警察に盆も暮れも正月もなければ、もちろんクリスマスも関係ない。むしろそういう時期にこそ駆り出される機会が増えるのだ。実際、今月も半ばから、年末の特別警戒として市中の見廻りを強化していた。
 けれど、やはりクリスマスというのは特別なのだろう。さすがに今日ばかりは隊士たちからの愚痴も多く聞こえてきた。それらを黙殺あるいは睥睨で黙らせたものの、少しばかり憐憫を催したのも事実で、だからこそ多忙ななか土方自らがこうして見廻りを行っていたのだ。
 見廻りのルートにかぶき町方面を入れたのには、ちらとでも銀髪の男を見かけることができれば――などという気恥ずかしい理由も確かにある。あるのだが、まさかそれが仕事中らしい姿になるとは思わなかった、と土方は改めてサンタ姿の銀時を眺めやった。
 銀時が手にしている立て看板には、「ミニスカサンタが貴方のご来店をお待ちしております(ハート)」などと書かれている。恐らくかぶき町に相応しいその手の店の、客引きでも行っているのだろう。
 そりゃガキどもに纏わりつかれてちゃ仕事になんねぇな、と土方が得心していると、
「――そんで?」
 と銀時がどこか不貞腐れたように唇を尖らせた。
「副長さんは、今日は夜まで仕事なワケ?」
 訊ねているようで最初からわかっているのだろう、銀時はそんなことを問うように言いながらも「思ったとーり」などと続ける。
 その拗ねてでもいるかのような素振りの銀時に、土方は「当たりめーだ」と平然と返しながらも、内心わずかに困惑した。
 まるで銀時からクリスマス・イブにまで仕事をしていることを責められているかのようだが、その理由がわからない。責められる覚えなど、土方にはなかった。
 思い当たる節がない訳でもない――体の関係はある――けれど、別段この男と付き合っている訳ではないのだ。
 酔った弾みで体の関係を持ち、以降はお互い、気が向いたときや都合の良いときに相手を誘い、体を繋げている。そんな関係が年単位で続いているだけだ。
 もっとも、楽な方に流されてる自覚があるとはいえ、それでも長いことこの関係を続けているのだから、ある種の情を土方は抱いている。だがそれでも、クリスマスがどうの、という間柄ではないはずだ。土方の感情はともかくとして、少なくとも銀時にとっては性的欲求不満を晴らすだけの、気軽な関係のはずだ。
 そんな当惑から土方が黙り込んでいると、小さくため息をついた銀時が、で?、と再び問うてきた。
「何時あがりよ?」
「……見廻りは九時までだ」
「夜更かししなきゃなんねェような仕事はナシ?」
「ああ」
 わずかに気おじしながら土方が答えれば、銀時は「よし」などと、得たりとばかりにうなずく。
「なにが「よし」だ。さっきっから言ってる意味がわかんねーよ」
「銀サンタにはガキどもが寝たらプレゼントをくつしたの中に無理矢理詰め込む、っつー重大な任務があるんですー」
 しかつめ顔で銀時が告げたのはそんなことで、土方は目を丸くした。それがどーした、と本心から返しながらも、しだいに頬が緩んでいく。どうやら銀時はなんだかんだ言いながらも同居している少女には甘いらしい――それを悟ると、ほわりと胸があたたかくなるようだった。
「まァ、ガキはサンタからのプレゼント楽しみにしてるだろーからな」
 土方が小さく笑みこぼせば、だから――などと銀時がその顔を覗き込んでくる。
「副長さんも、日付変わる頃にゃ部屋で布団敷いてサンタさんを待ってなさい」
「――なんだ、不法侵入の予告か。警察に対して犯罪予告たァいい度胸だなてめー」
「やだよーこの人、やさぐれちゃってるよー」
 じとりと睨めつける土方に、銀時は「そーじゃなくて」とため息をこぼす。
「クリスマスくらい世のバカップルどもに倣って、恋人らしくイチャイチャしてもいいんじゃね? ってことだろー?」
 首をかしげ、窺うように土方を見やりながら銀時が言う。その突拍子もなさすぎる内容に、土方は何を言われたのか理解するのに数拍を要した。
 しかし、頭には入ったものの、意味がわからない。
「……恋人?」
 ぱちぱちと瞬きながら訊ねれば、銀時は「恋人」と当然のことのようにうなずいてみせる。その飄々としたあまりにも普段どおりな顔に、土方は小首をかしげた。やはりピンとこない。
「誰と誰が」
「俺とおめーが」
「……いつから?」
「そりゃもちろん――これから?」
「――は?」
 噛み合っているのかいないのか、それすらわからない会話に土方が目を丸くすると、銀時は襟足をバリバリと掻きながら「いや、まァ、さ」などと歯切れ悪く続ける。
「俺だけなんかなー、って思ってちょっといじけたりもしたけどよォ。でもこんな日におめーが見廻りでかぶき町来るってことは、やっぱ期待しちゃっていいよなー、とか思ったりもしてよ」
 ちらりと向けられた赤い瞳に土方の鼓動が跳ねた。こんな日にかぶき町を見廻りのルートに入れた、その理由を銀時に悟られたと知り、じわじわと顔が熱くなる。
 気恥ずかしさと気まずさから土方が言葉を失っていると、その様子に銀時がふっと笑みをこぼした。
「べつに今までとナニが違ェってワケでもねーけどよ、いい加減お互いハッキリさせとこうぜ、ってことで――どうよ?」
「どうよ……って……」
 ハッキリも何も――と赤い顔のまま土方がわずかに眉を下げれば、だから、と銀時が覗き込むようにして顔を寄せた。至近距離で絡み合った視線の先で、赤い瞳が嬉しそうに細められる。
「ヤじゃねーんなら、布団の中でサンタさんを待っててください、ってコト」
 な?、と銀時が微笑みながら土方の肩を叩く。
 恐らくこのサンタは、今夜土方が言われたように待っていると確信しきっているのだろう。それを感じ取ると、まんまと銀時にうまくやられてしまったようで悔しくもあるが、その確信が当たっているだけに言い返せなくて、土方は返事の代わりにサンタを睨みつけた。

「ヘソ取っちまうぞー」ななまはげさんは大泉さん@どうでしょうです。
(12/12/14 SSS up)
(13/01/14 改訂)