W副長で耳にキス
深夜と呼んで差し支えない時刻にもなると、真選組の屯所内は昼間の喧騒が嘘のようにひっそりと静まり返る。
ほとんどの隊士は既に寝ていることだろう。
屋敷内で起きているのは、夜詰めに当たっている隊士たちと、自分たちくらいなものだ──屋敷の奥に位置する土方の部屋で、その部屋の主を押し倒しながら銀時はそんなことを思った。
「……ん」
あえかにこぼれた土方の声は口づけにうっとりと感じ入っているようで、それだけで銀時の熱も欲と一緒に上がり、さらに深く唇を合わせた。
逸る気持ちを残っているわずかな理性で抑えながら土方から夜着を脱がせ、その肌をまさぐる。胸許を撫で回した手のひらに胸の尖りが触れた。小さな粒を指先で捏ねるように刺激する。
土方は小さく体を震わせながらも銀時に身をゆだねていたが、頬に滑らせた銀時の唇が耳許へと辿り着くと、途端ひくりと体を竦ませた。
確かにこの感じやすい男は耳も性感帯のひとつだが、いつも以上の反応だ。
銀時がどうした?、とその顔を覗き込めば、顔を真っ赤にした土方からギロリと睨みつけられる。
「今日は、そこ、ヤメロ……!」
そんな顔でそんなことを言う土方に銀時はきょとと目を丸くし──思い至って口の端が上がった。
今日は、のそのひと言で意を解したのだ。
昼間、土方と落ち合ったのは、甘味処の小さな個室でだった。
個室とはいえ、衝立と仕切り布で目隠しがされている程度のものだったが、それでも目立つ制服姿を隠せるだけで充分だ。
銀時より先に到着していた土方は、非番ではないのに着流し姿だった。恐らく山崎の張り込み先にでも寄ってきたのだろう。
薄汚れた壁にもたれる土方の横に腰をおろし、彼が手にしている品書きを覗き込む振りで顔を寄せる。
「──居たぜ、それっぽいの。今新八が後追ってる」
衝立と布程度では防音など期待できる訳もないため、耳許でささやく。
それは、土方が今一番警戒している攘夷浪士に関する情報だった。土方が警戒している以上、銀時にとっても最優先事項となり、市中の見廻りと平行してその男の所在を探っていたのだ。
そして今日たまたまその姿を見かけ、土方へと連絡をつけさせると新八に後を追うよう命じ、自分はこうして土方と落ち合うことにした。それは今後のことを──その方針を軽くでも打ち合わせるためだ。
ちなみに今日はさすがに携帯電話を持ち歩いた方がいいんだろうな、などとそんなことをほんの少しだけ反省したりもした。──すぐにそのひとり反省会はお開きになったが。
「そうか」
そう呟くと、土方はふう、と目を伏せた。
恐らくその形の良い頭の中では、今後の予測が何パターンも巡らされているのだろう。
しばらくは銀時もおとなしくその横顔を見つめていたのだが、何やら考え込んでしまった整った顔に悪戯心が湧き──つい、目の前の耳に口づけてしまった。
「──オイ」
思考の邪魔をされたくないというのが一番の理由だろう、ヤメロ、と土方が腕を払うようにして銀時を引き剥がそうとする。その腕ごと抱き込むようにして抵抗を封じると、耳殻を舐め上げそのまま中に舌を差し入れた。
「ッ、バカ! よせ!」
こんなところで、とひそめた声で土方が非難する。それに取り合わず、小さく暴れる体を押さえながら耳を攻めたてた。
とはいえ銀時とて何もこんなところで致そう、などと思っていた訳ではない。周りに気づかれないようささやかな抵抗を見せる土方の反応が楽しくて、からかっていただけだ。そのはずだった。
けれど、「ア……!」と思わずといった具合にもれた小さな嬌声に一瞬理性が掻き消えたらしい。──気づいたら、壁と座卓の間、その狭いところへ土方を押し倒していた。
そのとき丁度良く土方の携帯が鳴り、仕事モードへと完璧に切り替わった男から思い切りどつかれたことで銀時の度を越した悪戯は終了したのだが、それがなければちょっと本気でやばかった。頭が焼き切れたまま、やってしまっていたかもしれない、と銀時は内心冷や汗ものだった。
だが、やばかった、と思う反面、違う意味では未だヤバイ。
だから、そのときの分も──とばかりに夜になってから土方の部屋を訪れたのだった。
ぐちゅぐちゅと濡れた音をたてて、猛りきった銀時自身が土方のなかを出入りする。その光景だけで早々にイってしまいそうだと、銀時は毎回思う。
「は、ァ……ッ、あ……」
屯所だから声を抑えているのだろう土方から、それでも堪えきれずという感じで嬌声がこぼれると、なおさらだった。
その土方は、昼間、中途半端に昂ぶらせるような真似をしたせいか、いつも以上に感じているようだった。悦すぎる快感を逃したいのか、どうすることもできないその表れなのか、ゆるゆると頭を振り、荒い呼吸を繰り返している。
土方のいいところに当たるように突き上げれば、途端土方の体がひくりと跳ね、なかが銀時に絡みつき締めつける。
「っア……!」
未だなかで得る強い快感に慣れないのか、土方は目を瞠ると、どうしていいのかわからない、とでもいうような表情で銀時を見上げた。
蠢くなかの動きが堪らなく気持ちよくて、縋るようなその表情にどうしようもなく煽られる。
何度もそこを狙って腰を動かした。奥へぶつけるように差し入れて、入口に引っかけるように引き抜いて──何度も、何度も。
夢中になって腰を打ちつけていると、シーツを握り締めていた土方の手がゆるりと上がり、銀時の肩を掴んだ。
「あ……っ、さかた、も……や、」
やめろ、なのか、いやだ、なのか。銀時の肩を押しやろうとしながら、土方がそんなことを言う。けれどその声も表情も、嫌そうには見えない。これは、過ぎる快楽が怖いのだろう、未だに。
何度体を重ねてもそんな反応を見せる土方が、また銀時を堪らない気持ちにさせる。
銀時は大丈夫だと微笑んで土方の頬を撫で──ふと、土方が耳まで赤く染めていることに気づいた。
その姿に昼間と同じ悪戯心と純粋な興味が湧く。
──今日は、そこ、ヤメロ……!
抱えた土方の脚をぐ、と深く折り曲げ、身を伸ばすようにして上体を倒した。
「ぅあっ!」
深くなった結合と角度が変わったためか、土方が首を仰け反らせて悲鳴じみた声を小さくあげる。その形の良い耳に顔を寄せた。
ちゅ、と唇を落とすと、それだけで土方がふるりと体を震わせる。
その反応に笑みをこぼしながら、銀時は再びそこに舌を差し入れた。
「ア! あ、バカ、ヤメ……ッ、ア!」
ぐちゅぐちゅと耳を犯しながら、強く腰をぶつける。奥の奥まで擦りつけるように突き上げれば、土方からは、あ、あ、と扇情的な声がひっきりなしにあがった。
やはり、昼間あんな場所であんなことをしたのが羞恥心を掻き立てたのか、いつも以上に感じているらしい。腰を打ちつけながらも銀時はにんまりと笑んだ。
ちょっとコレは、色々楽しいことが試せそうではないか、などと内心ちょっと浮かれてもいた。否、実際アレやコレやと試したいことが浮かんでいた──のだが。
結局銀時のその野望は果たすことができなかった。
翌朝土方から、当分昼間は半径一メートル以内に近寄るな、とお達しが出たために。