鍋から聞こえてくるコトコトと煮込む小さな音がキッチンに満ちている。大分寒くなってきたから、という理由でメニューを決めたのだが、熱でふわりとあたためられた空気よりも、その音の方がぬくもりを感じさせると金時は思った。
鍋の蓋を開け、金時が塩と胡椒で味をととのえるのを、土方が横から眺めている。土方に手伝ってもらうことはないのだが、それでも金時が家に居るあいだの常と同じく、寄り添うように傍らに居るのだ。そのこともまた、金時の胸をほんわりとあたたかくさせた。
出勤前に土方の分の夕食を作るのは、彼と暮らし始めてからの日課だ。
もともと料理はできたのだが、金時ひとりだけだったときは面倒臭がって全く作らなかった。それが今では毎日腕を揮い、ときには手間も時間もかけた手料理を拵えている。面倒臭さなど感じない。それどころか、その日の気温や土方の体調を考えてメニューに頭を悩ませるのも、そのための買い物も――土方と一緒に行けないのが淋しくもあるが――楽しく感じられるのだから不思議だ。
もちろん、土方が食べてくれる、という前提があるから楽しいのだとはわかっている。というより、土方だから、という部分が大きいだろう。
土方は金時が店に出ているあいだに食事とお風呂を済ませてしまう――土方にそうするよう言い聞かせ刷り込んだのは金時だ――から、実際に夕食を食べている姿は見られない。だがそれでも、帰ってきてシンクに食べ終わった食器が置かれているのを見たり、作った料理がなくなっているのを見ると、金時は満足感に満たされるのだ。
今日も美味しく食べてくれるといいな、なんて可愛いことを考えながら金時がその味を確かめていると、鍋の中を覗き込んだ土方がこてりと首をかしげた。
「野菜スープ?」
「似てるけど違うよ。コレはポトフ」
「……なにが違うんだ?」
「……お肉が入ってるか入ってないか?」
金時もまた小首をかしげる。本当はもう少し違うよな、などと思うものの説明などできそうになく、誤魔化すように加熱を止めた。土方がこれを食べるにはまだ時間がある。
「スイッチ切っとくから、食べるときもっかいスイッチ入れて、あたためなおしてな。あと、粒マスタードを……」
添えて食べて――と言いかけて、金時は続きを呑み込んだ。鍋の中のポトフが、土方の手によりマヨネーズまみれになる光景が浮かんだのだ。ならマスタードなど不要だろうかと思い、結局金時は「まァ、その辺はお好みで」と言葉を濁した。
わかった、とうなずく土方に、味見、とスープを少しよそった小皿を差し出す。
どう?、とその顔を覗きこむようにして訊ねれば、飲み干した土方はふわりと微笑んだ。
「ん。うまい」
その笑みで胸にあたたかいものが広がる。よかった、と弾んだ心のままに、土方の唇へ唇を重ねた。
ちゅ、ちゅ、と触れるだけの口づけを何度も繰り返すうちに、しだいに熱があがっていく。熱と、そして欲と。
口づけたまま土方の手から小皿を取りシンクに置くと、きつくその体を抱きしめて深く唇を合わせた。
差し入れた舌で土方の舌を掬い取り、絡ませて、吸い上げる。
「ん……、ふ」
不意に、土方が金時の背中に回した手でシャツをくいくいと引っ張った。
「金時、仕事――」
わずかに唇を離せば土方が困ったように眉根を寄せて言ったのがそんなことで、金時は苦笑する。確かに出勤前だ。家を出るまでの残り時間は一時間を切っている――が、今さらここで抑えなど効く訳がない。
「まだ時間あるから大丈夫。だから――ね? しよ?」
こつりと額を合わせ、至近距離から土方の目を見つめる。ねだるような笑みで誘う金時に土方は「ホントに大丈夫なのか?」と訝しんだが、それでも拒みはしなかった。金時に身をゆだねているような土方を抱きしめ、再び口づける。
口内を舌で舐めあげながら金時は土方の体中をまさぐった。服をたくし上げてあらわになった肌に手を這わせる。肌の感触を楽しみながら撫で回し胸許に移動すると、手のひらに小さな粒が触れた。それを手のひらで擦れば、土方がわずかに体を震わせる。その反応に目を細め、金時は体をかがめるようにしてそこに唇を寄せた。乳首をちろりと舌で舐め唇に挟み、舌先で転がすように刺激する。じゅ、と強めに吸い上げると土方の体が再び震えた。
「ん、っ」
鼻から抜けたあえかな息が、甘く響く。
彼の体はここで快感を得るようになっている。そう教え込んだのは金時だ。何度も可愛がって、快感を引き出したのだ。何度も――何度も。
初めて土方を抱いたあの夜から、変わったことが幾つかある。
ひとつは土方が常時煙草を吸うようになったことだ。
手馴れた素振りから見当をつけたとおり、やはり土方は喫煙者だったらしい。毎日結構な量を消費している。彼の体のことを考えれば控えさせた方がいいのだろうが、それでも煙草を吸うその姿がとても自然なように見えて、金時は好きにさせていた。それどころか、ストックの残量を数えてはマヨネーズ同様切らさないよう買い足している。
そして、もうひとつ変わったことが、今行っている行為だ。
あの夜以降、土方とのセックスが日常的なものになった。
毎日毎日、場所も時間も関係なく体を繋げている。おまけに、媾合が一回きりで終わったことなど、未だかつてない。覚えたてのガキみたいに何度も求めては腰を振り、土方のなかに精を吐き出している。
玄関で、リビングで、バスルームで、そしてベッドで――何度も、何度も抱き合った。
今日のようにキッチンでしたこともある。そのときも出勤前で、土方のための食事を作っていた。
そのときのことを思い出せば、金時は記憶の中の土方にも劣情を煽られた。
「んっ、ぅ」
小さな喘ぎに金時が目を上げれば、記憶の中ではなく現実の土方がシンクに腰を押しつけるようにして、金時が与える快感に体を震わせている。下着ごとズボンを引き下ろすと、土方の性器は乳首への愛撫だけでも既に反応を示していた。
土方が感じているのが嬉しくて、同時にホッとする。
新八の言葉どおり開き直った金時だが、それでもやはり土方をいいように扱っているだけだろう、という罪悪感に絶えず苛まれていた。だからこそ、せめて土方を気持ちよくさせたいと、そんな勝手なことを思う。それが身勝手な贖罪だというのは自分でもわかっていたが。
「土方、こっち。掴まってて」
土方の体を反転させてシンクのふちに両手をつかせ、背中から覆いかぶさる。金時が自分の唾液で濡らした指をそっと後孔に差し入れると、土方は息を詰めて体を強ばらせた。
「力、抜いて」
伸びをするように土方の耳許に唇を寄せ、ささやく。耳殻を舐め上げ、そのまま舌を差し入れると、土方が一瞬ひゅっと息を呑んだ。ここも土方の感じるところだと、金時は既に知っている。
ぐちゅぐちゅと舌で耳を犯し、差し入れた指で抜き差しを繰り返して後ろを解す。もう一方の手では土方の性器をゆるゆると扱き、昂ぶらせていく。
「あ、あ、ああっ」
耳と性器を刺激しながら後孔を慣らす指を二本、三本と増やしていくと、何度も金時を受け入れているそこは、しだいにやわらかく解れていった。きゅ、と指に絡みつくような動きすら見せる。それは、金時がなかに自身を埋めているときにも見せる動きだ。
そのときの気持ちよさを思い出すと、金時の腰に熱が集まる。堪らず指を一気に引き抜くと、急いた手つきで自分のベルトを外した。腿の辺りまで下着と一緒にズボンを下ろせば、土方の体を弄り回し、その痴態と声に煽られた金時の性器はすっかり勃ちあがっている。
咥えていた指を失いひくつく孔に先端をあてがった。
「息、吐いてね」
そう土方にささやいた声は興奮しきって掠れている。土方がうなずいたのを見て、ぐ、と腰を押し進めた。
「あ――ぁ、あ……」
土方のなかは熱くて狭い。そこを押し開くように侵入すると、内壁が金時自身を締めて吸いつく。奥へと迎え入れるような動きを味わいながらゆっくりと進み、根元までなかに収めた。
「全部入ったの、わかる?」
耳の後ろにキスしながら、答えを待たずに金時は腰を揺らした。最初はゆっくりと、そしてしだいに速く強く、腰をぶつける。
土方の感じる場所を狙って抽挿を繰り返しながら土方の性器を扱きあげると、なかがいやらしく蠢き、入口はきつく金時自身を締めつけた。頭の芯が蕩けそうになる。なかの動きも入口の動きも、どちらも堪らなく気持ちいい。
快感がゾクゾクと腰から背中を駆けて、これではいつまで持つかわからないな、と金時は内心苦笑した。自分が早い方だとは思わないが、土方相手では余裕もなにもなく、簡単に快楽の頂へと追いつめられてしまうのだ。
「あ、ああ……」
土方が感じるままに声をあげる。その甘い嬌声にも、快楽に酔ったような陶然とした表情にも、金時の劣情は煽られる一方で、抽挿を速めながら金時は自分の限界が近いことを悟る。
土方も一緒に、と彼の性器に手を回せば、土方の先端からはとろりと先走りがこぼれていた。ぬるぬるとしたその体液を鈴口に塗りこむようにぐり、と指のはらで擦ると、土方の腰が跳ねる。
「ん、んっ、っぅあ、ああ……っ!」
そのまま土方自身を擦りあげ、強く突き込む。奥を穿つと体を強ばらせて土方が達した。手のひらに土方の吐き出した熱を感じるのとほぼ同時に、金時も吐精する。
「んあ、は……ぁ」
金時の精を受け、土方が背中をしならせて恍然と吐息をこぼす。その鼻にかかった甘い声が鼓膜を揺らすと、じん、と腰の辺りが甘く疼いた。土方のなかに挿れたままの金時自身に再び熱が集まっていく。
土方もそれを体で感じ取ったのだろう、びくりとしたように金時を振り返った。
「金時……っ!」
「ん? なァに?」
土方の非難するような目に気づきながらも、金時は微笑んでみせる。掠れた自分の声は、未だに熱と欲を孕んでいた。
「時間……っ、ねェ、だろっ、っア……!」
わずかに金時が腰を揺らめかせると、土方は体を捻るようにして後ろに手を伸ばした。金時の腰骨の辺りに触れ、そのまま押しやろうとする。その小さな抵抗に金時は目を細めた。
「ん、平気だから、もーちょい。ね? いいだろ?」
「あ、バカ、動く、な……っア!」
再び硬度を取り戻した性器でなかを掻き回すように腰を動かすと、途端、土方は背中を反らせて喘いだ。その上擦った自分の声が恥ずかしかったのか、すぐに唇を噛み締める。仰け反った白い喉が声を殺して震えるのを目にしたら、無理にでも啼かせたくなり、金時はガツ、と強く腰を打ちつけた。
跳ねて逃げようとする土方の腰を両手で掴み、本格的に律動を再開する。
「っ、あ、もぅ、しつけェって……!」
土方が涙を湛えた目でギッと金時を睨みつける。そんな赤い目許と潤んだ目では、ちっとも怖くなどない。
むしろその反応に金時は頬がゆるむのを抑えきれないくらいだった。
あの夜以降変わったことの最たるものといえば、ときおりこんな風に土方が感情をあらわにするようになったことだ。
煙草のせいなのかセックスが原因なのかはわからないが、土方がいつもよりガラの悪い口調で話し、ときには金時にキツイ目を向けてくる。今のように。
それは、記憶を失くす前の――素の土方に戻っているように思えて、その変化に金時は内心安堵し、喜んでもいた。
そもそも、記憶がないからといって土方の人形のような状態は、不可解すぎるのだ。記憶喪失になったことで性格が変わることもあるらしいが、土方のどこまでも受動的で己のない様子はそれを越えているように思える。
改めてそのおかしさを実感し、不審に思った。だからこそ、土方がこんな風に自我を見せてくれるのが嬉しいのだ。もっとも、当の土方本人は自分のそんな変化を自覚していないらしいのだが。
土方が自覚していなくても、そしてその記憶が戻らなくてもせめて、こうして土方が自分の意思を取り戻してくれればいい――そう金時は願っていた。
自我を見せる土方は、最初に庇護欲を抱き好きになっていった土方とは全く違う。別人と言っていいくらいの相違だ。けれど、金時はどちらの土方にも、とっくに惚れている。どちらも同じように愛おしいのだ。
どちらも愛おしい――それはセックスにおいても同様だった。
先ほどのように金時が与える快感を素直に享受し、快感のままに喘ぐ土方も、今のように声を押し殺し、快感を堪えている土方も、どちらも可愛くて愛しくて、金時の欲情を煽るのだ。
金時の性器が出入りするたびに、先ほどなかに放った白濁がぐちゅぐちゅと卑猥な音をたてる。それにすら興奮して、金時は激しく腰を振った。
「んっ、っ、……ぅ」
乱暴と思えるほどの律動に、土方はシンクのふちについた手で自分の体を支えているのが辛くなったのだろう。肘ががくりと折れ、土方の上体が倒れた。その体勢ではシンクの中に頭を突っ込みそうで、金時は胸の前に回した手で土方の体を起こした。そのまま自分の胸に寄りかからせる。
金時が後ろから掻き抱き支えても、それでも土方の体はずり落ちそうになる。その自重を利用し、深く奥まで貫いた。
「ああっ!」
「……っ」
奥まで開かれる感覚に、土方が悲鳴じみた声をあげる。同時にざわめいたなかが金時自身をきつく締めつけ、金時は小さく唸った。歯を食い縛り、思わず射精してしまうかと思ったほどの強烈な快楽をやり過ごす。もう少し長引かせたい。絡みつく肉に逆らって抜ける寸前まで引き抜き、再び奥まで強く突き込んだ。
「バッ……! や、深……」
快楽を滲ませた目が、それでも金時を咎めるように睨みつける。それが堪らなく嬉しくて、ゾクゾクした。
ますます激しく下から突き上げる。前立腺を狙いすまして腰を打ちつければ、土方が堪えきれないように声をもらした。
「あぁ、あっ……!」
二度目は触れていなかった土方の性器もいつのまにか再び勃ち上がり、律動に揺れている。体液に濡れるそれに手を伸ばし、鈴口をぐりと抉るようにすると、土方の体が痙攣した。
「あ、あ――……」
「ひじかた……っ」
長く細い悲鳴のような嬌声をあげて土方が二度目の精を放つと、なかもぎゅう、と締めつけが強くなり、激しく蠕動する。金時自身を引き絞るような動きに逆らわず、金時も白濁を吐き出した。
タオルとキッチンペーパーとで後始末をすると、土方はすぐに服を着こんでしまった。余韻を楽しむ素振りもない。金時が、土方ったら無粋ー、と拗ねた振りをしてみせても、しれっと――否、むしろきょとんとしている。
「時間だろ、早く行けよ」
そんなつれないことを言いのけるくせに、まだほんのりと頬が赤く事後の気怠げな気配をまとったままの土方はとても色っぽくて、金時はぎゅうと抱きしめた。いやだー、と駄々をこねれば、宥めるようにぽんぽん、と背中を叩かれる。ふたりとも服を着てしまったが、それは甘い後戯のようで、金時はふわんと笑った。
射精と同時に熱が引き、冷静になるのは男のさがだ。金時も、やった後に相手からべたべたされたりするのは嫌で、いっそ離れてほしいとすら思っていた。
なのに土方相手だと、射精した後でもずっと抱きしめていたいと思う。幸せな気持ちで満たされ、さらに愛おしさが増していくのだ。
「あー……。お仕事行きたくなーい」
「なに言ってんだ」
「サボっちゃおっか。んで、このまんま土方といちゃいちゃ続行ー」
「店長や神楽が困るんじゃねーのか?」
「……なんでソコでそいつらの名前出すかな……」
ふたりの名前が出た瞬間、金時の機嫌が下降する。俺も一緒に居たい、などという可愛い言葉を望んだりはしていない――言う訳がない――が、それでも面白くない。神楽はともかくとして――土方にしたら彼女は恩人だろう――新八まで気遣うようなことを、土方が言うだなんて。
だが、あからさまにムッとふくれても土方はどうした?、と首をかしげて訝しそうに金時を見やるだけで、その理由になど気づいてもいないだろう。土方がそうなのはわかっている。だから責めるつもりはない。けれどやはり金時は――面白くなかった。
「帰ってきたら、続きな」
そんな嫉妬心から、足が立たなくなるまでやりまくります、と邪な宣言をすれば、土方にいいから早く行け、と背中をぐいと押されてしまった。
見れば、既に時間はギリギリだった。そろそろタクシーが到着する。仕方なしに金時はカウンターに放り出していたジャケットを掴み、行ってきます、と渋々リビングを後にした。
そうして、後ろ髪を引かれる思いで玄関へと向かい、靴を履こうとしたときだった。
ガタン、と物音がリビングの方からして、金時は動きを止めた。気になってリビングに戻ると、土方がキッチンカウンターにもたれるようにして倒れている。
「――オイ、大丈夫か!?」
慌てて駆け寄り肩を抱いて起こすと、土方のその顔は当初のように茫洋としたものだった。茫としたままゆるりと周囲を見回し、ややして金時に目を移すと、ぱちりと瞬く。
「……え?」
「……土方? どした?」
「あ――ああ、悪い。平気だ」
緩慢な動きだが、土方は自力で立ち上がった。カウンターに体を預けるようにしながら、金時に微笑んでみせる。
「大丈夫だから、気にすんな。仕事だろ? 行って来い」
そんなことを言う土方に、再び背中を押される。
逡巡したものの、結局金時は土方に促されるまま店へと向かった。けれど、仕事中もずっと不安が胸中で渦巻いていた。
とても――とても嫌な予感がしたのだ。
そして、その嫌な予感は嫌な形で現実のものとなった。
その日以来、土方が頻繁に倒れるようになったのだ。ただ茫としているときもあれば、気を失うときもある。酷いときには半日ちかく意識を戻さないときもあった。
金時には原因もわからなければ、どうすればいいのかもわからない。病院に連れて行って医者に診てもらいたいと思っても、人前に出すな、という神楽との約束が枷になり、それも叶わなかった。
せめて、と神楽に連絡を入れて例の闇医者に来てもらえるよう話をつけたが、あのジーさんで大丈夫なのか、と不安が残る。
神楽も心配したのだろう、今関わっているものを調整したらすぐにそちらに行く、と言った。
「しばらくソッチ居れるようにするヨ」
だから金ちゃんは仕事とトシちゃんの世話、ちゃんと両立させろヨ、と金時を鼓舞するような少女の声が虚しく胸中に落ちた。
今日も倒れ、先ほど目を覚ました土方は、ソファの上に横たわり茫洋とした目で天井を見つめている。
「どっか痛ェ? 頭とか、痛くねェ?」
床に座り、その髪を梳きながら金時が訊ねると、土方はふるりとかぶりを振った。
「痛くはねェ。ただ、ときどき頭ん中がボーっとするんだ」
突然頭がぼうっとして、気づくと倒れている――土方は自分の症状をそう説明した。
「ポンコツだな」
ふう、と目を伏せ、そんな風に自分を評する土方に、すっと金時の全身から血の気が引いた――そんな気がした。
それが、失うかもしれない、という怖さからのものだと気づくと、金時の体は恐怖で固まってしまった。