人の性とはおかしなもので、眉をひそめるほど忌み恐れているものに対しても、畏怖と同じだけ興味が湧くらしい。
チンピラ警察と揶揄され厭われている真選組がその良い例だ。
税金泥棒などと口さがなく言われているが、真選組にまつわる噂は市井の好奇心を満たすには事欠かない程度に溢れている。当の隊士たちには聞こえないよう、秘めやかに、面白おかしく、町民のあいだでささやかれているのだ。現れては立ち消え、また新たな飛語が流れる――といった具合に。
それが妙におかしな様相を表し始めたのは、ここふた月ほどのことだった。
玉石混交の噂が突如大量に流布されたかと思うと、対象がひとりに絞られ始めた。そしてそれは、隊士たちの耳に届くにまで至っている。
今でも根強く残っている噂は主にふたつ――否、三つ。
曰く。
真選組は鬼の副長・土方で持っている。故に土方さえ亡き者にできれば烏合の衆と成り果て、瓦解する。
「奴がいなくなりゃあ俺が副長の座につくだけの話でさァ」
フン、と面白くなさそうに沖田は鼻を鳴らした。
曰く。
土方は将軍の覚えもめでたく、眷顧を受けている。どうやら将軍は土方の見目が好きらしい。
「なんで将軍がニコ中のツラが好きって、わかるネ」
「俺が知るかっつーの。オモシロおかしく話作ってんだろ」
酢昆布をくちゃくちゃと齧りながら神楽が首をかしげる。その隣で団子に齧りついていた銀時は興味なさげに返した。
曰く。
隊内でも一、二を争う剣の腕を持つ副長・坂田は土方にベタ惚れ。
「――で? オチはどこでい」
「オチ求めるなって、噂話にオチ求めてやるなって」
「コレが一番つまんねーアルな。マジネタじゃなくてもっと笑えるモン持ってこいやァ!」
「笑い求めるなって、噂話に笑い求めてやるなって――って、笑えないの!? え、なにそれ、マジネタってなにそれ!?」
冷ややかな反応を返す沖田と神楽に銀時は慌てふためいてみせたが、左右からしらっとした目を向けられただけだった。
とある団子屋の店先で、泣く子も黙る真選組の制服――それも幹部のみが着用を許されているデザインの――を身にまとった三人組が、緋毛氈の敷かれた縁台に陣取っていた。とりとめなく喋りながら、銘々好きなものを食べている。つまるところ、ひと休みという名のサボりだ。
「――なんでい、奴に関わることばっかりじゃねーか」
ケ、と不快感もあらわに沖田が吐き捨てる。
本来ならば今日はその「奴」こと土方と見廻りを組んでいるはずの沖田がこうして一緒に団子を食べているのは、サボっていたところを銀時たちが発見し、捕獲したからだ。
今ごろアイツはご立腹だろうなァ――などと、銀時が遠い目でその姿を思い浮かべていると、キャー、という黄色い声が遠巻きに聞こえてきた。何事かと目を向ければ、頬を桃色に染めた娘たちが、銀時たちの方を見ながらきゃいきゃいと騒いでいる。「カワイー!」などという声まで聞こえてきた。
「可愛い言ったら私のことアル」
神楽がフフンと得意げに笑う。
「なに言ってやがんでィ。可愛いってェ言葉が似合うのは、どっかの小娘より俺の方だろ」
神楽を鼻で笑い、沖田が言う。実際、面と向かって可愛いなどと言われようものなら、その相手を魂の核から隷属するくらい調教してやるだろうに、黙っていられなかったのは神楽への対抗心からだろう。
「なにをこのクソガキャ!」
「やるかチャイナ」
案の定、あっさりと挑発に乗った神楽に張り合うように沖田が迎撃体勢をとる。バチバチと火花を散らすふたりに挟まれた銀時は、呆れながらも「アレじゃね?」と気の抜けた声をあげた。
「むしろ俺じゃね? カワイーっつったら俺じゃね? この天パのはね具合が――」
「ぜってェおめーじゃねーよ」
「旦那じゃねェこたァ確かですぜ」
途端、二対の冷ややかな目が同時に向けられる。一触即発のくせにツッコミのタイミングは綺麗に揃うってんだから癪に障る――銀時は深いため息をこぼした。
矛先が銀時に向いたことで気勢を削がれたのだろう、沖田も神楽もふい、と顔を逸らした。それが狙いだと気づいてか、座り直すと少しばかりおとなしい態で茶など啜っている。
未だ熱い視線で見つめる娘たちに、散れとばかりに手を振って、沖田は息をついた。
「コレもちょいと前に消えたファンフォーラムとやらのせいですかね」
食べ終えた団子の串を皿に放り投げ、誰に訊くでもなく独り言ちる。
「うっとーしいったらねーですぜ」
「まァすぐ消えたんだから可愛いもんじゃねーか」
沖田の淡々とした、けれど低温の怒りを滲ませた声に、銀時は肩を竦めた。
ネット上に真選組のファンフォーラムなるものがあると銀時が知ったのは、二ヶ月ほど前のことだ。発見したのは新八だった。熱狂的に応援しているアイドルのファンフォーラムに通っていて、そこで存在を知ったのだという。
どんなものかと覗いたそこでは、様々な情報が飛び交っていた。どこから仕入れた、というものから、んなバカな、というものまで。巷に流れている風説以上に疑わしいくせに、まことしやかに流れるそれらは、さすがにどう扱っていいものやら――と一歩引いてしまうようなものだった。
挙句の果てになんの冗談か、先ほどの娘たちのように隊士に黄色い声をあげるような者たちが現れ出すに至ると、閉口するしかない。
隊士たちの中には浮かれている者もいたが、その熱い視線の大半が土方や沖田に向けられていると知っているだけに、銀時にとって愉快な訳がなかった。
だが、最初のうちは騒がれることに対して面白がっていた隊士たちの中にも、しだいに辟易する者が現れ始めた。沖田もそのひとりである。
いつ隊内から鬱憤が噴出するか――。
突如そのサイトが閉鎖されたのは、そう思われていた矢先のことだった。つい数週間前のことだ。
真選組隊内で男色が流行――などという醜聞甚だしい話が流されるに至り、ついに真選組から正式に忠告が入ったのだという。
あっさり閉めたのだからそう目くじらを立てるほどでもないだろう、と銀時は思うのだが、沖田からしてみれば未だこうして騒がれるのが鬱陶しいらしい。
モテる男は気苦労も多くて大変だァね――などとやっかみまじりに銀時がこぼしたとき、何かに気づいたらしい神楽がはァん、とにやにや笑い出した。その反応に沖田が目を眇める。
「――なんでい」
「私が勝ったから面白くないアルな」
「うるせー、黙れクソガキ」
銀時越しに神楽を睨み、沖田は心底嫌そうに舌打ちした。
神楽が言ったのは、フォーラム内で行われた隊士の人気投票のことだ。その人気投票では、ぶっちぎりで抜きん出た一番隊隊長・沖田総悟――を辛くも抑えて神楽が一位だった。
もっとも、情報飛び交うフォーラム内でも神楽の名前は知られていなかったようで、「美少女隊長」と表記されていたが。
「大体てめーは名前すら出てねーじゃねェか。どっか他の奴と間違われてんじゃねーのか」
「負け惜しみはみっともないアル」
またしても一触即発のふたりを眺めながら、知られていないのも無理はないだろうな――と、銀時は思った。半ばわざとでもあるのだから、仕方ないだろう。
沖田などは常からチャイナと呼ぶし、屯所内ではたまに名前で呼ぶような土方や近藤などから、果てには銀時までもが、表では彼女を名前で呼ばないようにしているのだ。
知られていないこと――世間にではなく、敵方に――が強みになることもあるだろう。そう言ったのは、土方だ。晒さなくていい手の内を見せる必要はない、ということらしい。
当の神楽も、別段気にとどめていないようだった。心配されているのだと知っているのだろう。
その神楽は、天敵である沖田に僅差でとはいえ勝ち、おまけに「美少女」などと記されていたためか、妙に余裕の表情――むしろ馬鹿にした顔か――をしている。おかげで沖田がことさら苛立っているのを感じ、銀時は再び深く息をついた。
「つーかさァ、なんなの。それってトップ陣によるケンカに見せかけた嫌味かコノヤロー。俺の順位知ってのことか、あァ?」
銀時が半ば本気でやさぐれてみせると、沖田は「違いまさァ」と臨戦体勢を解いた。
「俺ァただ気に食わねェだけです」
「私に負けたのがアルな」
「違ェっつってんだろーが」
茶化す神楽を冷ややかに一瞥し、沖田はため息を落とした。
「奴に関する妙な噂がチラホラ聞こえ始めたのも、そのふざけたサイトができたのも、同じ時期ってのが気に食わねェんでさァ」
妙なところで勘が鋭い沖田は、そう言うと眉をひそめた。
聡い奴ァこれだから――銀時は内心独り言ち、素知らぬ顔で茶を啜った。
見廻りを終えて屯所に戻った土方は、その足で近藤の部屋へと向かった。カラリと障子を開ければ、既に土方以外の面子は揃っている。近藤と銀時、そして副長ふたりの直属の監察である山崎と新八の四名だ。その顔ぶれを見やり、土方はあいている座――銀時の隣へと足を運んだ。
集まった顔ぶれで行われるのは、ここひと月あまり日課ともなった、日毎の報告だった。
「すまない、遅くなった」
「気にすんな、俺も今帰ってきたばかりだ」
土方が座りながら言うと、上座の近藤がいいからいいから、と笑う。その言葉に土方は眉をひそめた。
「帰ってきたばかり、って。オイ、近藤さん。まだ出歩くのは――」
「なーに、もう傷は塞がってるんだ、大丈夫だって。心配性だなートシは」
からからと笑う近藤とは対照的に、土方の顔はしかめられていく。
何があったか忘れた訳でもあるまいに、大丈夫な訳があるか――ふた月前の事件を思い返し、土方はいっそ恨めしい思いで上司を見やった。
ふた月前、近藤が襲撃された。
松平に呼ばれ、近藤が警察庁に出向いたときのことだ。
用を終えた近藤が建物を出て車に乗るまでの、そのわずかな時間だったという。遠方から狙撃され、左肩を撃ち抜かれた。
四方手を尽くしたが、未だ狙撃犯を捕まえるに至っていない。
どこの組織の仕業かもわかっていないのは、近藤襲撃と前後して不逞浪士の密談や潜伏、襲撃のネタが山のように飛び交っているためでもある。その数はデマと疑わしいものとを篩にかけるだけでもうんざりするほどのものだった。
その裏付けだけで監察は忙殺され、連日多忙を極める山崎と新八はげっそりとやつれてしまい、疲れきった表情を浮かべている。
「心配とか、そーいう問題じゃねーだろ」
「本人がいいって言ってんだから、ほっとけほっとけ」
近藤を諌める土方に、面白くなさそうな声を投げたのは銀時だった。じとりと土方が睨めつけるのも介さず、いいからさっさと始めよーぜ、などと続ける。
銀時の声にハイ、と姿勢を正したのは、山崎だ。土方は苛立ちを押し殺しながらも、この光景にも大分慣れたな――と頭の片隅で思った。
本来ならばこうした監察の報告は個々に行われる。土方が山崎から報告を受ける際、銀時たち、ましてや局長である近藤が立ち会うことはない。山崎の情報を吟味してから、近藤や銀時に土方が報告するのが通例である。
こうして雁首揃えるようになったのは、真偽が定かでない数多の情報が入り乱れてからのことだ。その数が多すぎて、ときには土方や銀時が裏を取りに動かざるを得ない場面が出てきた。そんな状況に、のちの報告だのを考えたら最初から全員で行った方が早いだろう、と銀時が言い出し、まとめて行うことになったのだ。
えーまずは、と居住まいを正した山崎が手許の書面を繰る。
「尾海屋は白でした」
それは、明日、料亭尾海屋で攘夷浪士たちによる密談が行われるというネタだった。
土方は斜向かいの山崎をちらりと見やる。
「根拠は?」
「店が閉まってるんですよ。なんでも昨日からお店の主一家と使用人たち全員で伊勢参りに出掛けてるそうで、帰りは三日後になるとか。伊勢の宿にも裏を取りましたが、皆さん到着してるそうです」
言うと山崎は、これが尾海屋の従業員名簿と宿の情報です、と封筒を正面――銀時の前に置いた。へー、と気のない相づちを打ちながら、銀時はそのままそれを土方の方へと滑らせる。目ェくらい通せ、と呆れながら土方は封筒から紙の束を取り出した。すると土方の肩越しに覗き込んでくるのだから、訳がわからない。
書面には、店の主やその家族、従業員の氏名から生年月日、住所に至るまで書かれている。従業員はおよそ三十名。
不審な点はないかと通覧する土方の視線が下部で止まった。赤く引かれた斜線、それが引っかかる。
「――どうかしました?」
土方の様子に目聡く気づいた山崎が訊ねる。土方は書面を示した。
「コイツは?」
「――ああ、一週間ほど前に辞めたそうです。なんでも郷里のおっかさんが倒れたとかで」
気になりますか――土方の目を覗き込み訊ねる山崎は、優秀な監察の目をしていた。
口うるさいほどに近藤を諌めた土方が部屋を辞したのは、他の三人が退室してしばらく経ってからだった。もっとも、土方が幾ら言ったところで頓着しない近藤には、暖簾に腕押し状態だったが。
遣り切れない思いを通り越してひたすら疲れた土方は、そのまま自室へ向かおうとしたが、あと二間というところでカラリと開いた障子の中に腕を引かれた。そのままとさりと畳の上に引き倒される。それでも大して背中が痛まないのは、土方を押し倒した男の腕が、畳につく直前やんわりと土方の体を引きあげたからだろう。
妙なところで気を遣うくらいなら最初からこんな真似をするな、と見上げれば、土方の腕を掴み中に引き込んだ部屋の主――銀時の顔が間近にある。
「――なにしやがんだ」
「なにさせてくれんの?」
睨みつける土方に、銀時はにんまりと笑って返す。それは人を馬鹿にしたようないつもの笑みのようでいて、その実苛立ちを押し殺している――ように感じ、土方は顔をしかめた。
「なにもさせる気は――」
「あ、ダメだ、やっぱ聞きたくねーわ」
土方の言葉を遮ると、銀時は顔を寄せて唇を塞いできた。
自分で訊いておいて聞きたくないとは何事か――呆れながらも、土方は黙って目を伏せた。
――またか。
いい加減、怒って殴りかかるのも抵抗するのも馬鹿らしくなるような、単なる悪癖としか思えない行為に内心ため息をこぼす。土方が何もさせてやる気などなくても、いつだって好き勝手にしているのは誰だというのか。
自分が抵抗をやめたことがさらに増長させているのだとわかっているが、茶化すような態度の銀時に腹を立てて斬りかかったところで、からかわれているのを実感するだけだ。そんな不愉快な思いをするくらいなら、唇を甘受していた方がましだった。
舌を絡め取られ甘噛みされて、ふるりと体が震える。それでも、いつもなら特に何かを感じるようなことはなかったというのに、何故か今日に限ってぞくりと背筋を這い登る感覚を覚えた。それがなんなのか知りたくなくて、きつく目を閉じる。
いつもと同じ、ただの戯れだ――。
頬を押さえる手のひらがするりと肌を撫でただけでもその感覚が強くなったように思えて、土方は自分に言い聞かせるように心の中で繰り返す。
常と違うことといえば、銀時が憤りを抑えているのを感じるからか――そう思い至ったら不意に、心を乱す感覚を打ち消すほどの、むかつきが込みあげてきた。
銀時が何に腹を立てているのかは知らないが、それをぶつけられても土方の苛立ちが募るだけだ。ただでさえ、浪士どもにいいようにされている現状に憤り、それ以上に疲れているというのに、その上八つ当たりの槍玉になどされて面白い訳がない。
「――いい加減にしろ」
土方は力尽くで銀時を引き剥がして身を起こした。んだよ、と銀時が面白くなさそうに顔をしかめる。その表情にふざけんな、と吐き捨てた。
「ムカついてんのがてめーだけだと思ってんじゃねーぞ」
「いや、俺のとおめーのとは、ぜってェ違うから、コレ。だっておめーのせいだし、コレ」
「あァ? なんで俺のせいなんだよ、意味わかんねーこと言ってんじゃねーぞ死ね」
「死ね言うな! なんだよ、急に八つ当たりかよ、イラチかよ。カルシウム足りてねーんじゃね?」
「八つ当たりしてんのはテメーだろうが!」
小馬鹿にしたような態度に怒鳴れば、銀時は怒りを煽るようにわざとらしくため息をついて肩を竦めた。
「あーやだやだ。なににムカついてんのか知らねーけど、人に当たるのやめてもらえませんー?」
「ふざけんな、そりゃこっちのセリフだ! 浪士どもの動きもおめーのふざけた天パもサボってばっかの総悟も、全部ムカつくんだよ!」
「天パ関係ねーだろ! ふざけてねーし!」
がなり返した銀時が唐突に「あーそういや」と打って変わって気の抜けた声を出した。
「沖田が怪しがってたぜ、おめーの噂ばっかじゃねーか、つって。なーんかちょーっと拗ね気味っつーの? コレ、ホントのとこ知ったら、ぐれるんじゃね? アイツ」
「あ? いつ言ったんだよ、んなこと」
「今日」
少しばかり気勢を削がれながらも土方が訝ると、銀時はあっさり答えた。
今日、ということは――。
「あの野郎、ちょっと目ェ離した隙にいなくなりやがったと思ったらそっち行ってたのかよ!!」
途端、怒りが爆発した。苛立ちを引き起こす全ての要因に、怨嗟の念が湧き起こる。どうどう、と銀時が宥めるように抱き込むが、あやすかのような気配にすら腹が立った。
やってられっか、と煙草を咥え、気持ちを鎮めようとする土方に、でもよォ、と銀時が眉根を寄せる。
「やっぱおかしいだろ、おめーに関することばっか流れてんのは」
「あァ? おめーのもふざけたヤツが流れてんじゃねーか。つーか否定して回れや」
なにがベタ惚れだふざけんな、と土方が睨むと、なんだよー、と銀時は口を尖らせた。
「いいじゃねーか、アレくらい。副長ふたりが恋人同士ー、ってヤツはそっこーで立ち消えたって言うんだからよーチクショー」
「信憑性がなさすぎんだよ」
「まさか山崎あたりに火消しさせたんじゃねーだろーなァ」
じとりと睨めつけてくる赤い瞳を無視し、素知らぬ顔で煙を吹き出す。半分は正解だった。だが、山崎を動かすまでもなく自然消滅していったのも事実だ。
けれどそれを口にしたところで不毛な言い合いになるだけだろう。冷静さを取り戻した頭でそう思い、土方は矛先を逸らすことにした。
「それよりも、明日ちょっと付き合え」
「え、なになに、デートのお誘い?」
わざとらしいまでに顔を輝かせて、銀時が土方の顔を覗き込んでくる。
「ああ――たっぷり楽しもうじゃねェか」
懲りもせず唇を寄せてくるその顔にぺしりと封筒を押しつけ、薄っすらと笑う。途端、やっぱそっちかよ、と銀時が半眼になって不満をあらわにしたが、土方はそれを無視した。