翌朝、沖田が手配した車に乗り、金時は土方を連れて病院へと向かった。
沖田と山崎により用意されたシナリオは、二ヶ月前、偶然通りかかった金時が記憶を失くした土方を発見し、保護していた、というものだった。そして二ヶ月かけて少しずつ記憶を取り戻した土方が、自分の職や仲間のことを思い出し、それでようやく沖田たちと連絡が取れた――という筋書きだ。
表から堂々と――というよりむしろ目立ちまくって入って来い、という沖田の指示に従い、土方を乗せた車椅子を押して正面入口から入る。すると、朝から診察待ちなのか多くの人で混みあっているロビーに、目立つ黒スーツの集団がいた。そこには沖田の姿もある。
その黒スーツの集団が土方の姿を見るなり低くどよめき――地鳴りのような歓声をあげた。
「――副長……!!」
「ご無事だったんですね!」
「今までいったいどちらに……!」
口々に喚きたて、車椅子の土方と金時を取り囲む。中には安堵のためか涙を流している者もいた。
「――やめねェかてめーら。場所を弁えやがれ」
集団の後ろからそんなことを言い、人垣を割るようにして歩み出てきたのは沖田だった。ちらりと金時に一瞥をくれてから土方を見下ろす。
「遅ェんですよ、アンタぁ」
「……すまねェ、心配、かけたな」
沖田の淡々とした声に、土方はうつむくようにして小さく返した。その姿は心配を――迷惑をかけたことを心苦しく思っているように見えるだろう。だがその実、土方はただ「思い出した」芝居をしているだけで、本当は困惑しているのだ。それでも金時が「そうしてくれ」と教えた台本通りに演じてみせようとする土方がいじらしくて、その肩にそっと手をかけた。わずかに金時を振り仰いだ土方は、やはり困ったように眉根を寄せている。
そんな土方に微笑んでみせたら、沖田がチ、と小さく舌打ちした。どうやら、いちゃつくな――と釘を刺されたらしい。
「――ザキィ、あとは任せたぜ」
沖田の呼びかけに、はい、と応じた山崎は存外近くにいて、金時は少々びっくりした。地味にもほどがあるだろう――そんなことを考えていると、
「――病室は八階です」
こっちです――と山崎はエレベータの方へ金時と土方を促す。
金時が土方を連れてそちらへと足を進めると、黒スーツの集団は、立ち去りがたいのか後をついて来たが、沖田に「邪魔だ散れ」と一喝されて全員が身を竦ませた。そのどこか浮き足立ったような集団をちらりと眺めながら、金時は複雑な思いに駆られる。
この中に裏切り者がいるかもしれないのだ――それを思うと、この微笑ましく見えないこともない光景が、どこか空々しく感じられた。
個室の部屋に通されるなり、土方は早々にベッドへ横たえさせられた。
医師が手際よく点滴をさしながら、明日検査を行いそれから治療を始める旨を説明する。そして、点滴薬の中に眠くなる薬も入っているから、無理せず寝ているように、と。
それは脳への負担を極力なくすためだと、山崎がこっそり金時に教えてくれた。だから治療のあいだ、土方はほとんど眠らされていることになる、とも。
すう、と眠りに落ちていく土方が朦朧とした眼差しで、それでも金時の姿を探したのが、とても――哀しかった。
医師が退室するなり「ちょっと、派手に痕つけすぎですよ」などと山崎がぼやいていたが、金時の思考には何も入ってこない。
眠る土方をただ眺めていることしかできないでいると、夕方になって沖田が現れた。眠った土方を飄々と、けれどどこか痛ましげに見やり、手にした紙袋をがさりとベッドテーブルに置く。
それは、神楽が土方を拾ったときに彼が所持していた物らしい。覗き見ると、警察手帳や手錠、拳銃なども見え、土方は刑事だったのだと改めて実感した。
「――夜兎の娘から預かってきやした」
そう言い、沖田が薄いファイルを金時に手渡す。
「見るか見ないかは、旦那のご自由に――だそうですぜ」
なんだ、と首をかしげながら開いたみたそれは、神楽が調べさせたのだろう、土方に関する報告書だった。表紙をめくると土方の生年月日などから経歴に至るまで書かれている。金時は慌ててファイルを閉じた。
さすがに本人を目の前にして勝手にそんなことを知るのも気が引けたのだが、沖田からは訝しげな視線を向けられた。その怪訝そうな目に、ひとつため息をついてみせる。
「こーいうことは、本人から教えてもらいたい方なんです金さんはー」
「……そーですかい」
精々頑張ってくだせェ、と続けると、沖田は金時の着てきたジャケットを手に退室する。
「それじゃあ――後ほど」
去り際に残されたその言葉どおり、夜になってから金時たちは動いた。
消灯時間を疾うに過ぎて照明が落とされた薄暗い部屋の中は、時間の流れも空気の流れも止められたかのように静まり返っている。まるで世界から隔離されたような中で、規則的に滴り落ちる点滴薬の音だけが妙に大きく聞こえた。
とっくに面会時間は終わっているが、金時が追い出されることはなかった。どうやら沖田は、今日の件に関して病院へ――上層部のごく一部だというが――融通を利かせるよう警察上層部からゴリ押しさせているらしい。
ベッドの上で眠ったままの土方の手を握り、その指先に口づける。
ドアのすぐ横の壁にもたれるようにして、刑事――沖田たちの同僚で、絶対に裏切ることはないと沖田がよこした坊主頭のデカイ男だ――がひとり念のための警護として控えているが、その気配は密やかで、存在自体を忘れてしまいそうになる。
この静かな空間に土方とふたり閉じ込められているような感覚に捕らわれ、どれくらい経ったのか――そんな時間の流れも曖昧すぎて感じられなくなった頃、動きが起きた。遠くの方で何やら物音と叫声がする。
坊主頭の刑事が緊張を漲らせ、ホルスターから拳銃を抜いたのが見えた。日本に戻ってきてからは馴染みのない光景がどこか絵空事のようで、金時から現実感を奪う。
――篠原ァ!
誰かの叫びが遠く聞こえ――銃声が一度、響いた。
それすらも金時にはなんだかドラマの世界のように作り物めいて感じられた。
唐突にまた静寂が戻る。やはりあれはテレビか何かの音だったのでは――などと考えているとコン、と病室のドアが小さくノックされた。
「――俺でィ」
そう声をかけ、すう、とドアを開けたのは沖田だった。控えていた刑事に「向こう、頼まァ」と告げ、男と入れ替わりに病室の中へ足を踏み入れる。どこか疲れたようなその姿に、ドラマなどではなかったのだな、とそんなたわけたことをようやくのように思った。
「――上手く行ったの?」
「おかげさんで。アッサリ食いついてくれやした」
声をかければ、淡々とした答えと一緒にジャケットが返ってくる。
土方は当初、八階西端の個室へと案内された。そこが土方の病室だとあからさまに示し、警護も立てて――夜になってからこっそり東端の部屋へと移動したのだ。元の西端の部屋には土方と金時になりすました身代わり――これも沖田や山崎が絶対に大丈夫だと太鼓判を押した者らしい――を残してきた。それも、金時役の者には金時と同じような金色のカツラを被らせ、おまけに金時のジャケットを着させる、という周到っぷりだ。
沖田が金時に手伝うよう持ちかけたのは、もし万が一計画が知られて土方本人の方に危険が迫った場合、沖田たちが駆けつけるまで金時が土方を護りながら時間稼ぎをする、という役割でだったが、最大の理由は土方を保護し付き添っている男が「金髪」だというわかりやすい目印を持っていると印象づけさせるためだったらしい。
そしてこちらの狙い通り、犯人――裏切り者は警護の交代にかこつけて身代わりが残っている病室へと侵入し、土方――の、身代わりだが――に害をなそうとしたらしい。
「……やっぱお仲間だったワケ?」
「ええ……奴の後ろで糸引いてやがった奴が居るはずなんですがねィ……口ィ割らせることができなくなりました」
金時が問うと、沖田は疲れたような声で答えた。
口を割らせることができなくなった――沖田がそう言うからには、犯人を殺さずに確保したかったのだろう。それが叶わないということは、自害した、ということか。先ほど聞こえた一発の銃声が耳の奥に蘇り、金時は苦々しさに顔をしかめた。
そして――ふと大事なことに気づく。
「……って、黒幕捕まえてねェんじゃ、土方はずっと命狙われ続けることになんじゃねーのかよ」
「いえ、この件はコレで片ァついた、ってことになりますねィ。当分のあいだァ、平気でしょうや」
内心の焦りを押し殺しきれずに金時が睨みつける。けれど沖田は疲れて見えるものの落ち着いた素振りで肩を竦めてみせるだけで、その様子に金時の眉根が寄る。
「――なんで言いきれるよ」
「土方さんの記憶が戻ってねェ上に、こんな状態だからでさァ」
「どーいう意味だ、そりゃ」
「夜兎の娘が言ってたでしょう。犯人は土方さんを死なせたくねーからクスリ使った、生きてると知ったら今度こそ殺すかもしれねェ、って。それァ俺も同感です。ただ、殺すんなら土方さんが元に戻ってから殺しますよ、アレぁ」
「……目星がついてるってことか」
金時が忌々しくこぼしても、沖田は肯定するでもなく、ただ土方の姿を見下ろした。
「たとえ土方さんの記憶が戻っても、黒幕の姿ァ見ちゃいねーはずです。そんなヘマするような可愛げのある奴じゃねェんで。アイツが今日、土方さん殺ろうとして来たってコトからも、見てるとしたらアイツだけの可能性がデカイんですよ」
アイツ――と犯人をそう呼び、沖田は深いため息をこぼした。
「……アイツは全部自分がやった、ってェ吐いて死にやがったんだ。だから――この件はコレで終いにさせられたんでさァ」
低く落とされた沖田の声には、遣る瀬無いような強い憤りが篭められているように感じ、もしかして、と金時はわずかに目を見開いた。
もしかして沖田は裏切り者とはいえ仲間を死なせたくなかったのではないだろうか――死なせてしまったのが、無念なのではないだろうか。
「記憶が戻りゃ、自分の身ィくらい自分で護りまさァ、この野郎は」
そんな痛ましげな気配をぬぐいさり飄々とした口調で言うと、沖田は「ってワケで」と金時に静やかな目を向けた。
「表立ってこっちに警護つけれますんで、旦那は帰ってもいいですぜィ」
言われ――金時は知らず息を呑んだ。
もう終わったのだから、金時がここにいる必要はない。そう言われたのだとわかっても、そして状況を理解できても、体が動かなかった。離れたくない。思わず土方の手を握っている手に力がこもる。
金時の姿にそんな感情が表れていたのか、沖田がその様に少しだけ眉をひそめた。
「対外的には面会謝絶ってことになりますが、見舞いできるよう手配しときますんで、好きにしてくれて構いません。……もっとも、コイツは記憶戻るまでこの通り寝っぱなしにさせられますし、記憶が戻りゃあ旦那のこたァ覚えちゃいねーでしょうが……好きにしなせェ」
金時にとっては非情な現実を告げながらも、沖田のその声はどこか優しげに響いた。
ぼんやりと夢の中をたゆたっているように感覚も感情も曖昧なまま、気づいたら金時は自宅マンションに戻ってきていた。
「……ただいま」
小さく落とした声は、しんと静まり返った空気をわずかに揺らしただけで、すぐにまた寂寞とした冷たさが戻る。
がらんとした暗い部屋は、まるで他所の家のように感じられて、金時の胸がじくりと痛んだ。
たった二ヶ月、土方と一緒にいた。それが元に戻った――端的に言ってしまえば、それだけなのだろう。土方が来る前までは、これが普通の光景だったのだ。
けれど、あのあたたかさに慣れ親しんでしまった感覚が、違う、と訴える。これは違う、足りないのだと喚き訴え――失くしたのだと眼前の現実に打ちのめされる。
どこか人形のようだった姿、少しだけガラも目つきも悪くなった姿――そんな土方の姿は部屋のどこを探しても、もうないのだ。
喪失感にずるずるとその場に崩れ落ちた。気力をなくした体は全く動かなかったけれど、慣れなければ、とひしがれた頭の片隅で思う。
もうあの夢のような時間は終わったのだ。
土方が打たれたクスリ――ロートスは、その実を食べた者は成すべきことも故郷のことも忘れてただその実を欲したという神話からその名がつけられたのだという。
ならば、金時にとっては土方がロートスの実そのものだったのだろう。
ただひたすらに土方を欲し――あたたかい夢のような時間に包まれていた。そんな時間が、確かにここに在ったのだ。じくじくと痛む胸が、その証拠だ。
確かに存在した、まるで夢でも見ていたような暮らしが――そんな、ロートスの夢が、醒めたのだ。
どうしようもないほどの胸の痛みを残して。
神楽がクラブ万事屋を訪れたのは、それから二日が経った夜のことだ。
「今日、トシちゃんの病院、行ってきたネ」
再び奥の部屋に金時を呼んだ少女が真っ先に告げたのは、そんなことだった。沖田が連れて行ってくれたのだという。
「トシちゃん、まだ寝てたけど、顔色は良かったアルヨ」
山崎が言っていたとおり、土方はずっと眠らされているらしい。それでも神楽は安心したように微笑んでいた。
土方が死ぬのは嫌だ、と泣いていた少女のそんな笑みに金時がどこか安堵していると、神楽はぽつぽつと土方を拾い金時に押しつけた理由を話しだした。
以前金時が思ったように、神楽は倒れている土方を見つけたとき、金時と再会した日のことを思い出したらしい。そして拾った土方の人形のように自我のない壊れそうな姿に、金時を重ね見て――とても嫌だったのだと少女は言った。
「……だって金ちゃんもどっか空っぽネ、壊れかけのまんまで平気な振りばっかりしてるアル」
神楽に拾われた日からもう何年も経っているというのに、金時は未だに空虚でどこか心を閉ざしている。その姿に、いつか壊れるんじゃないかと憂えていたら、金時に重なって見えた男が壊れかけていて、とても暗示的だと思った、というのだ。それも、嫌な方向への暗示に、だ。
それが哀しかった、悔しかった、怖くて――嫌だった。
「だから、ぶつけたアル。いつか壊れるんなら、さっさと壊れればいい――そう思ったアルヨ」
そんなことを言い、神楽はゴメン、と眉を下げた。
まるで罪の告白でもするかのように神楽は告げたが、最初はどうあれ彼女が土方を心配し、気に掛けていたのは明白だ。そんな神楽を責める理由などどこにもない。それ以上に、自分の内面が見通されていたことと、そのせいで彼女に心配をかけていたらしいことを知り、金時の方が申し訳なくなる。
しゅんと肩を落とした神楽の頭に手を乗せ、金時は謝んなくていい、とその朱色の頭を撫でた。
「今となっちゃあ、まァ……なんだ、そのー、感謝してるしよ」
きっと、土方がロートスを打たれてなければ、そして神楽がそんな土方を拾って金時に押しつけていなければ、金時は土方に惚れるどころか出会うことすらなかっただろう。
それを思えば――幸運だったのだ。きっかけがどうであれ、出会えたのだから。たとえ覚えているのが金時だけだったとしても、それでも――出会えたのだ。
この部屋で土方と引き合わせられたときのことを思い出し――ふと金時は神楽の言葉を思い出した。
「あ、そーだ。土方の生活費だっておめーが振り込んだ分さ、いらねーから返していい?」
ひと月百万円、という大雑把な金額の生活費が二ヶ月分――二百万円、給与とは別口で金時の口座に振り込まれている。だが、金時はその金に手をつけるつもりはなかった。
それを受け取ってしまったら、神楽に言われたから土方の世話をしていただけ、と取られそうで嫌だったのだ。
確かに、最初は半ば命令として押しつけられた土方を預かった形だが、土方に対して世話を焼いたのは金時が好きでしたことだ。押しつけられた厄介者の面倒をみていた訳ではない。金時はただ、好きになった人と一緒に暮らしていただけなのだ。
だから神楽からの金は受け取れない――金時がそう固辞すると、神楽は別にいいアルヨ、とあっさり言った。
「トシちゃんのために使ってほしかったアルけどな」
「ならそれでなにか見舞いの品でも買ったらどうです?」
神楽が言うと、飲み物を持って来た新八がそう助言する。
治療にはまだまだ時間がかかるらしい。土方は当分目を覚まさないだろうが、何か贈り物をしておいてもいいだろう、と新八が言う。
二百万円分かー、と何がいいかと金時が思考をめぐらせていると、お見舞いならお花ヨ、と神楽の弾んだ声がした。
「バラの花がいいアル。二百本の花束ネ」
「二百本ねー……って一本一万計算!? どんだけバブルだおめーの国!」
「相場なんか知らねーヨ」
驚いて喚く金時に、神楽がしれっと答える。その横では新八が何やら計算していた。
「……ウチで使ってるお店の相場だと、えーと……約千本、ですね」
「そんな大量の花、むしろ迷惑だから。嫌がらせだから。お花テロになっちゃうから。……あー、あいつテロ専門なんだっけか……」
もうテロ容疑ででもいいから捕まえに――会いに来てくれないだろうか、なんてそんなことまで考えて、金時は内心舌打ちした。会いに来て、なんて弱気なことを考えている自分にアホかと呆れる。
会いに行くのだ――金時の方から。
「……千本なら、千日分、ってか」
神楽の金をどうするか、という話のはずだったのに、ふと思考が横道に逸れて思いつく。一日一本贈り続けるなんて、キザったらしいんだかストーカーじみてるんだか、という微妙な線だろうけど、その案になんだか楽しくなってきた。
金時の呟きに、きょとと目を丸くした神楽が、次いで「ソレいいアルナ!」と顔を輝かせる。
「お百度参りならぬお千度参りネ! ちょっとストーカー入ってるけど、金ちゃんならギリセーフヨ、きっと!」
「……オイオイ、やるとしてもおめーの金でやる気はねーっての」
「金ちゃんのと一緒にやればいいアル」
つーかやれ、と心底楽しそうな笑みを浮かべて神楽が命令する。
「あのお金は金ちゃんに投資するアル。好きに使っていいネ。だから、どんな手使ってでも、トシちゃん落としてこいヨ」
そう続けられて思わず瞠目する金時に、神楽はふふん、と何故か胸をそらす。
「金ちゃんはウチの看板ヨ。ナンバーワンが惚れた奴ひとり口説き落とせないなんて、クラブ万事屋の名折れネ。――キッチリ落とすヨロシ」
そんな言葉で神楽が発破をかける。
金時はしらばく呆気に取られて目をしばたたかせたが、ため息をひとつだけ落とし――にやりと笑ってみせた。
「オッケェイ、我が命にかえても」
「……クサッ」
「コレ新八の決めゼリフだったんだってよ」
「どーりでくっさいはずアル。だからケツアゴメガネはケツアゴメガネのまんまなんだヨ」
「でもコレ、たまにバカ受けするぜー。やーだー金ちゃんおもしろーい、って」
「マジでか。ネタのオチにしても弱いダロ。笑いドコロどこアルか」
金時と神楽が散々言い合っていると、最初のうちは苦笑していた新八から
「アンタらいい加減にしろォォォ!」
ついには涙声で一喝され、金時は思わず笑ってしまった。――ちゃんと、笑えた。
それから数ヶ月が経ち季節がひとつ巡った頃、金時のもとに山崎からメールが届いた。
――土方さんの記憶が――
それは、土方の記憶が戻ったという報せだった。
そしてやはり、金時と過ごしたあいだのことは何ひとつ覚えていない、ということもそこには書かれていた。