其ノ参「残月」 04

 車から降り立つと、かすかに潮の香りを感じた。車での移動時間と、男たちの目的を合わせると、江戸を出たとは考えにくい。視覚を封じられているため確認はできないが、江戸湾の近くだろうと土方は推測した。
 突然土方が目隠しをされ、車に乗せられてから、そう時間は経っていない。ものの数十分くらいだろう。視界をふさがれる直前に、日が既に高い位置に昇っていたのを見たから、まだ昼ころだと思われた。
 上半身を拘束したままの金属綱を引かれ、視界がないなかを歩く。自分で歩け、と足の拘束を外されたのは、土方にとって好都合だった。
 不意に目隠しを外された。視覚が唐突に戻り、眩しさに目を眇めていると、こちらですよ、と振り返った川南が促す。見れば目の前には大きな鉄の扉があった。ギイ、と軋んだ音をたててそれが開かれる。
 そこは、さびれた外観の大きな工場のように見えた。視線だけで周囲を窺っていると、歩け、と背中を押される。
 建物の中に入ると、高い天井はスライドして開かれており、そこから空が仰視できた。ついと目を向ければ、先日よりも痩せ細った月が、青い空に引っかかるように浮かんでいる。
 その刃物のように鋭い形状がちりりと胸を引っ掻いた。
 だだっ広い工場に、開かれた天井。見覚えのある光景に、嫌な予感がする。土方は奥へと目を向け――瞠目した。
 そこには船があった。クレーンに吊り下げられ、何十人という男たちが整備でもしているのか、慌しく動いている。
 その船は、幕府所有の艦船よりも小さいが、取りつけられている大砲を見れば、充分兵器と呼べるものだった。
 ――江戸を火の海に変えてやる。
 この武器を使えば、確かにそれは可能だろう。どれほどの被害が出るというのか――想像するだけで、ゾ、と肝が冷える。
 土方が固まっていると、歩け、と再び背を押された。向かわされたのは、やはり船の方だった。
「――準備の進み具合はどうです?」
 土方の先を行く川南が振り仰ぐと、船から身を乗り出した作業員風の男はバッチリです、と満面の笑みを返した。
「あと三十分もあれば全て整います」
「そうですか、抜かりなく進めてください」
 あと三十分――男たちの会話を聞きながら、土方は時間がないな、と目を伏せた。暴れに暴れて男たちの計画を邪魔してやる前に、どうにか船の動力を破壊しておきたいところだ。動くなら早くしなければならない。一刻も早く。
 だが。わかっていても、それでも――という思いが足をとどめさせていた。
 川南が侮れない男だということは、尾海屋の件でわかっている。ここに土方たちが居ると知れるような手など、微塵も晒していないだろう。だがそれでも、あの男なら――銀時なら、どうにかここに辿り着くのではないか。そんな予感が胸中で灯火となってかすかに光っていた。
 それは勘というよりも願望に近いだろうと理解している。アイツは来るだろう、と言った誰かの言葉を信じた訳でもない。だが、それでもやはり――信じていた。
 だからこそ、自分が不用意に無謀な真似をしては――命を投げ出すような真似をしては、ここに来るだろう男たちを裏切ることになるのではないか、と、動けなくなる。
 そんな土方の葛藤など気づいてもいないのだろう、川南は振り返ると、楽しみですねェ、と目を細めた。
「じっくり見物と洒落込みましょう、あの虚構の城が焼け落ちるところを」
 つい、と顎にかけられた手に上向かされる。その感触にぞわりとおぞ気が走った。
「あなたを可愛がる将軍が、炎に飲まれる様を」
 陶然と川南が哂う。可愛がられた覚えはねェっつーの、と、土方はうんざりした気持ちでその薄ら寒い笑みを睨みつけた。そんな作り話、信じてなどいないだろうに、空々しくまだ言うのか。
 あと三十分――動くなら絶対にこの男だけは道連れにしてやろう、と土方が決意したとき。
 ドン、と地を震わせる大音響と同時に、先ほど土方たちが通ってきた扉が吹っ飛んだ。
 男たちのあいだに動揺が広がる。
「何事だ――!」
 狼狽した叫び声があがるなか、もうもうと立ち込める白煙から先を争うように――否、実際争いながらやって来たのだろう――ぎゃあぎゃあ言い合う沖田と神楽が飛び出てきた。
「邪魔すんじゃねーヨ、クソガキャア!」
「てめーこそ邪魔すんじゃねーチャイナ。つーかてめーは引っこんでろィ」
「うるせー! おめーらふたりともうるせー!」
 そのふたりを露払いに現れたのは銀時だった。ふたりを一喝すると、銀髪のあいだから強い光を湛えた目を土方たちの方へ向ける。
「おー、やーっぱここに居た」
 その赤い瞳と視線がかち合い、心臓が跳ねた。
 ――本当に来やがった。
 願望に近い直感を抱いていたというのに、土方は信じがたい思いで現れた姿を見やった。
 目を瞠る土方の前で、沖田と神楽を従えた銀時は不敵な笑みを浮かべている。その後ろにずらりと並んだ隊士たちの中には、何故か監察である新八の姿も見えた。
「御用改めだァ、神妙にしやがれコノヤロー」
「ニコ中返せヨ!」
 銀時のふざけた名乗りと神楽の怒声に、隊士たちの「返せー!」やら「副長ご無事ですか!」やら言う声が追従する。
 だから名乗りは正確にあげろって言ってんだろ――とこんな状況ながら思わず呆れた土方の首許に、す、と刀が突きつけられた。盾にするよう押し出された土方の姿に、隊士たちが緊張をまとい、口を噤む。
「屯所から出ることあたわず――と、忠告したはずですが。この人の命がどうなってもよろしいと?」
 硬い声で余裕ぶる川南の言葉に隊士たちが息を殺すなか、銀時がへらりと笑う。
「いーやァ? べつにアンタらの要求は破っちゃいねーよ?」
「そーネ」
 ずい、と足を踏み出したのは神楽だった。フン、と鼻を鳴らす少女の姿に、川南が嘆息する。
「やはりそこを突かれましたか」
「当たり前ネ、少女隊ってなにアルか。バカにするのもいい加減にしろヨ、なんで美少女隊じゃないアルか!」
「そこじゃねーだろィ」
 憤慨する神楽の頭を、ペシ、と沖田が叩く。ふたりの遣り取りをしらっと眺め、川南はその視線を銀時に据えた。
「――だが、彼女はともかく貴方がここにいるのでは、先の言葉が通りませんよ、副長さん」
「あー、ウチさァ、昨日付けで編成変わったんだわ。俺今、副長じゃねーの」
「なに――」
 銀時がにやりと笑うと、初めて川南が狼狽えた。土方も目を丸くする。
「編成変わった、って、オイ」
 なにしてやがんだ、と呆れる土方に、にっと笑ってみせると、銀時は神楽とその後ろの隊士たちを恭しく指し示した。
「こちら、真選組のアイドル神楽ちゃんと、神楽親衛隊の皆さんカッコ一部カッコ閉じでーす」
 うおおおお、と鬨の声をあげる隊士の数は、軽く三十近くいる。これが一部ということは全部で何人いやがるんだ、と土方は頭が痛くなった。
「そして、副長改め参謀の俺とー」
「俺ァ総長になりやしたー」
 飄々と手をあげるドSコンビには、呆れを通り越して諦めすら覚える。なんだ、その肩書きは。
「どこに行けとも動くなとも書かれてねーんだから、なにしよーが俺らの勝手だろ」
 どんな状況に陥ってこんな真似をしたのかはわからないが、銀時が詭弁をもちいて道理を捻じ曲げたのだろう。
 平然と言い放つ銀時に、男たちがわずかに怯んだのを感じ、ああ、と土方は内心嘆息した。くだらない屁理屈をこねさせたら手に負えない――と、男たちに言うのを失念していた。
「――見張りはどうした!」
 土方の背後で怒声があがった。慌てたように無線を取り出した男が、負けじと声を荒げる。
「――オイ、どーなってんだ、なんで真選組の奴らがここに居る!」
『えー、こちら真選組屯所前。異常ありません、どーぞー』
「異常ないワケあるか! こっちに来てるんだぞ!」
『異常ありませーん。幻かなんかじゃないですかー? どーぞー』
「ふざけるな!!」
 激昂する浪士に淡々とふざけたことを返す声が、土方のところまで聞こえてくる。その聞き覚えのある声に土方は眉をひそめた。まさか――と銀時を見やれば、飄々とした笑みを返してくる。間違いない、と確信した。
 ――桂じゃねーか!
 最近、テロ行為からは手を引いたようだが、歴とした攘夷浪士で捕縛リストのトップクラスに名を連ねる男だ。そんな男に何を手伝わせているというのか。
 頼むからこれ以上目を瞑らざるを得ないような案件を増やしてくれるな――土方は頭を抱えたくなった。
「たかだか二、三十人で何ができる!」
「こっちには人質もいるんだぞ!」
 優位だと思っていた立場が崩れたからか、途端に陳腐なセリフを吐く男たちに、刀を突きつけられている土方ですら呆れ返った。江戸を火の海に――などと大それたことを言いながらも、所詮その程度の連中か。
 後ろ手で握ったままの拳に力をこめ、動かせることを確認する。
 土方は横目で一度背後の浪士を窺うと、す、と視線を真正面に向けた。銀時の赤い瞳とぶつかる。
 お互い表情は変わらないが、それでも充分だった。
 見合った一瞬で意思が伝わったと感じる。
 ゆっくりと瞬きをひとつ。
 それを合図に銀時が駆け出した。
「ニコ中!」
 神楽が叫び、腰の刀に手をかけた。
 投げられた刀に、男たちの注意が一瞬集まる。
 浪士たちが反応するより早く、銀時の刀が三人斬り倒す。返した刀は、土方の拘束を断ち斬った。
 土方は後ろへ体を向けながら神楽が投げてよこした刀を受け取った。前へ向き直る動きで抜刀し、土方を押さえつけていた浪士ふたりを斬り捨てる。
「――ざーんねーん」
 小馬鹿にしたような銀時の声がすぐ隣から聞こえる。
「人質なんざどこにもいねーよ」
 並び立ち、男たちへと刀を向ける土方の背中に、隊士たちの歓声がぶつかる。悪りィけど、と銀時は刀をひと振りして血のりを払った。
「ウチのなんで、返してもらうわ」
 それと――と土方の口許をちらりと見やった目が、冷ややかな怒りを湛えて男たちに向けられる。
「取り合えず――全員死んどけ」
 そのひと言を合図に、場が動いた。
 銀時に気圧され怯んだ男たちが、奮い立たせるように鯨波をあげながら斬りかかってくる。船からも地鳴りのような音声と共に、刀を手にした浪士たちが駆けてくるのが見えた。
 土方が先陣の刀を受け止めていると、駆けてきた隊士たちが続く刀に応戦する。途端、入り乱れての混戦となった
 たかだか二、三十人――と言っただけあって、数では浪士たちの方が圧倒している。だが、勢いはあきらかに真選組の方が勝っていた。隊士たちの高揚が場を支配しているのを、浪士を討ちとリながら感じる。
 ちらりと自分の周囲を見回し、土方はふとあることに気づいた。
 まるで庇うかのように銀時や沖田たちが土方の左右背後を固めている。
 その常にはない陣形を一瞬訝しみ、次いで余程心配をかけたらしい、と思い至る。
 申し訳ないような、きまりが悪いような、情けないような――そんな複雑な感情が生じ、土方は頭を振った。今の場には障りがある感情だ。
 それらを押し隠し、土方は呆れを装った。
「オイおめーら、なに勝手に編成いじってんだよ。頭痛くなるようなことしてんじゃねーよ」
 浪士を斬り捨てながら土方が言うと、あー、と銀時の気抜けた声が背後から届いた。
「大丈夫大丈夫、期限つきだから」
「期限つき?」
 意識は前方に残したまま、振り向くことなく後ろに視線を向ければ、同じように顔を向けない銀髪のあいだから楽しげな目が返ってきた。
「副長・土方十四郎を無事救出するまで――ってな」
「つまり、なんとしても土方さんを連れて帰らにゃならねーんですよ、俺たちゃあ」
 メンド臭ェったらありゃしねェ、と沖田が言えば、新八も困ったような笑みを浮かべる。
「じゃないと、いつまでもこんなふざけた配属のままになってしまうんです。隊士のほとんどが神楽親衛隊な真選組なんて、嫌ですよ、僕」
「私はそれでも構わないアルヨ」
 神楽があっさりと新八の言葉をひっくり返す。どうやら親衛隊をぞろぞろ引き連れて楽しかったらしい。
 そーかい、と土方が呆れ、オイぃぃぃ、と新八が突っ込むと、でも、と神楽は武器である傘をひと振りし、銀時たちを指し示した。
「ニコ中いないとこいつらダメ人間どもはサボってばっかネ。だから、さっさと帰ってくるヨロシ」
「……そーかい」
 ダメ人間ってなに!?、と銀時と新八が喚くのを無視して、少女はそうネ、と言い放つ。
 沖田にしろ神楽にしろ、可愛げのないことを言っておきながらも、土方を見る目には嬉しそうな色が浮かんでいる。それを感じ取ると土方はなんと言っていいか言葉に詰まり、三度そーかい、と返した。
 不意に、入り乱れ斬り結ぶ男たちのあいだから、鷹揚な動きで刃をかわす川南の姿が見えた。ふと目が合ったかと思うと、ふいと身をひるがえした川南が船の方へと向かう。
 まだ諦めていないのか――船を使われては元も子もないと、土方は銀時を振り返った。
「――オイ、船の動力を壊すぞ。指揮しろ」
 ちらりと向けた視線で川南の後姿を捉えた銀時が、承知とばかりに左手を振るった。
「二番隊――じゃない、神楽親衛隊二斑は散開して船を囲め。一班と三班はこいつら片っ端から討ちとれ。総長と神楽ちゃんと親衛隊長は、俺らと一緒に船にゴー!」
「親衛隊長?」
 ふざけた号令に眉をひそめつつも、誰のことだ、と訝れば、新八が恥ずかしそうに「僕です」と手を上げた。その姿に呆れが臨界点を越える。本当に何をやっているんだ、と、経緯やら事情やらを棚にあげた頭で罵った。
「――さっさと終わらせてふざけた編成を元に戻せ!!」
 土方の怒号に、へーい、と返された笑いを含んだ声は、ひとつだけではなかった。

 同時に動いた沖田と神楽が先陣を切り、道を開く。
 船に掛けられた板梯子を駆け、中に飛び込んだ。通路の左――船首側を示し、銀時が沖田たちを振り返る。
「おめーらはそっち」
「機関室を探せ」
「つーかそれっぽい機械見つけたら、片っ端からぶっ壊せ。思う存分暴れていーぞー」
 土方と銀時の声に了解を返し、沖田たちが駆け出す。
「ってワケで、破壊活動はアッチ、俺らはコッチ」
 ちらりと向けられた目に自分たちの任を悟って、土方はうなずいた。
 まだ船内に残っていた浪士たちを斬り捨てながら先へ進んでいると、ふいに銀時が、あ、と何かを思い出したような声をあげた。
 何事だと視線を向けた土方の右手――そこに握られた得物を「言い忘れてたけど」と指さす。
「その刀、とっつぁんのだから。あとで直々に返しにこいとよ。ったく、ジジイは横着でしゃーねェわ」
 口ではそんなことを言いながらも、銀時の顔には笑みが浮かんでいる。
 直々に返しにこい――ということは、土方の無事を願い、信じてのことだろう。それを思うと、頭が下がる思いだった。
 わかった、とだけ返し、開け放たれた扉から見えた機械だらけの室内に飛び込む。そこが船橋だというのは、室内の様子からも窺い知れた。
 川南はきっとそこにいるだろう――そう確信して辿り着いた部屋には、案の定、追った男の姿があった。土方たちの足音に、川南が胡乱げに振り返る。面白くなさそうに土方を見やった目は、銀時に移り、据えられた。
「どこで気づかれたものやら……まさか本当にいらっしゃるとはね」
 口の端に笑みを浮かべているが、その瞳は昏く澱んでいる。
「なめんじゃねーぞコノヤロー。こちとら一昨日から、ねェ頭振り絞ったんだよ、おかげで知恵熱出そうだっつーの」
「――今しばらくおとなしくしていてくれれば、面白い祭りが見られたでしょうに」
「祭りだァ?」
 ハ、と銀時が腹立たしげに吐き捨てる。
「船の大砲使って城もお偉いさんどももブッ潰す、ってか。そいつァおもしれーかもしんねーがな、やるんならテメーらだけでやれや」
 低く這うような銀時の声には、押し殺した怒気が込められていた。
「勝手にコイツ連れてこうとすんじゃねーよ」
 睨みつける赤い目を受け流し、川南はやれやれ、と嘲笑う。それは、自分自身に向けているかのようだった。
「その人を押さえれば貴方にとって枷となるかと思ったのですが……逆効果でしたか。あの方の読みは正しかったのですねェ」
「あァ? あの野郎がなに言ったってんだ」
 銀時の返しに土方はわずかに目を見開いた。川南の言う「あの方」が誰なのか、解しているのか。つーかよ、と銀時が呆れたように続ける。
「アイツと手ェ組んどきながら、無血開城とか、ありえねーっつの。そんな穏便なやり方、アイツが許すワケねーっつの」
「伊達や酔狂でそんなことを言ったとでもお思いか?」
「どうせ時間稼ぎだろ? ――偉いさん方が全員城に集まるまでのよ」
 銀時の言葉に川南が悔しそうに唇を噛んだ。本当の狙いはそっちか、と土方は得心した。将軍どころか、幕府の重鎮全員を標的にしていたのか。
 だが、城の迎撃システムが作動すれば、この程度の船などひとたまりもないだろうに。まさか城にその程度の装備が備わっていないとでも思ったのか、と土方が眉をひそめると、川南は再び嘲りの笑みを口許に佩き、息をついた。
「……全てを見通した訳でもないでしょうに、なにを得意になっていらっしゃることやら」
「負け惜しみかよ」
 馬鹿にするように銀時が言う。確かに、と川南は自嘲を濃くした。
「今さら言っても詮方無いですね。目的は読まれても、ここまで来られるとは思いませんでしたよ。手がかりひとつ、残したつもりはないのですが」
「おォ、さっぱりわかんなかったぜ。んでもまァ、ウチのムっサいおっさん見て、丁度いいモンがあったの思い出したんだわー。城なんか簡単にぶっ飛ばせるモンがよ。そしたら場所は限定されるわなァ。そんなデケーもん置いておけて、人の出入りが目立たねェトコロ――ってな」
 銀時は軽い調子で言ったが、限定されたとして、この場を探し出すのは至難の業だろう。土方は銀時たちの辛労を計り、ギリと奥歯を噛み締めた。いやー、と笑いを含んだ銀時の声にも負い目を覚える。
「そんでも動き制限されちゃったもんだから、探すの大変だったんだぜー。おかげで地下に引っ込んでる皆さんの手まで借りちゃったもんなー」
 続けられた銀時の言葉に、土方は軽く目を瞠った。アレを利用したのか、と唖然とする。
 確かにあの有象無象の連中なら、ひとりくらいこの場を知っている者がいてもおかしくないが、今さらまた介入するのはどうにも気が引けてならなかった。
 そうですか、と川南がため息まじりに呟く。
「貴方を巻き込むべきではなかったようですね。あの方が仰った通り、読めないにもほどがありますよ」
「どーせアイツのことだから、ロクなこと言ってねーんだろ。つーか唆されてんじゃねーよ、あの野郎に」
 銀時が舌打ちとともに吐き捨てる。
「全部ぶっ壊せばいい、とかなんとか言われたんだろ、どーせ」
「おや、察しのいいことで」
「アイツのやりてェことなんて、そんなもんだろ。あとはそーだなァ――俺の泣きっツラでも見たかったかー、オイ」
 投げかけるように言い、ふい、と銀時が赤い目をウイング扉の方に向けた。射抜くような強さで、睨み据える。誰が居る――土方がそちらに視線を投げると、銀時が口を開いた。
「――高杉」
 銀時が口にした名前に愕然とし、
「そいつぁ是非とも見てみてーもんだがな」
 返された笑みを含んだその声に震駭した。

(10/11/20)